上靴回想と弟子に電話
二話連続投稿です。2/2話目。
先ほど渡された箱をポスンッとベッドに置いた。
私は仰向けに倒れるようにボスンッとベッドに乗る。
部屋の天井を見ながら、さっきのことを振り返った。
放課後、私は途中創也と別れて一人で寮に向かって歩いていた。
そしたら寮の玄関前に、草野葵が立っていたのだ。
私が近づいても目は合わせずに、ずっと私の足元を見つめていた。
「どうも」
なかなか向こうが口を開かないので、私から話しかける。
「…これ」
ずいっと草野葵が両手で持っていた箱を押し付けられた。
「これは…上靴?」
「―――上靴捨ててごめんなさい」
そう言い捨てて、バッと逃げるように草野葵は駆け出した。
――ベッドから起きて、渡された箱を開ける。
案の定、上靴が入っていた。サイズもちゃんと23cm。
…。
弁償はしてくれるだろう、と思っていた。
けど、謝ってくれるとは、思っていなかった。
彼女は謝る時、どういう心境だったのかな。
私のことを嫉妬で憎んでいたはずだ。どれくらい憎んでいたか。それはもう、私の上靴を捨ててしまうくらい憎いと感じていたのだろう。
そんな憎いと感じる相手に、自分の非を認めて謝れるなんて―――。
素直にすごいと思った。
こんな関わり方でなければ、彼女と仲良くなれたかも。あの時はお互い相手を知らない状態だったわけだから、知っていけばその可能性は十分にあり得たかな。そこが少し残念だと思う。
うん、時間が経って、彼女が私を憎む気持ちが小さくなったなら。もしかしたら、なれるかもしれない。
その機会が訪れるまで、私は様子を見よう。
ベッドから降りて、空が見える方の窓を開ける。息を大きく吸い込みながら背伸びをした。
「よし。切り替えるぞ!」
まずは携帯を出して、弟子にかける。
今日の師匠としてのダメ出し。
同じクラスメイトとしてのお願い。
昼休みの後、学校で直接この二つを伝えることもできたが、なかなか話せる空気には持っていけなかった為、電話で済ませることにした。
プルルルル
「もしもし、今大丈夫?」
『ああ。どした。屋上使うのか』
「ううん。今日伝えようと思ってたことがあって、電話した」
電話に出て来た弟子の声からするに、寝起きのようだ。
この時間から睡眠とは。夜眠れなくなるぞ。
「まず、師匠として。今朝の反省会をしましょう」
『ああ。結局やんのか』
「はい、今はレクチャー中です。言葉遣いを改めてください」
『今朝の私の対応に何か問題でも?』
「はい。大アリです。まず、言葉の選びがダメです。あなたが、創也の後ろの席に座っていた生徒に言った言葉、覚えてますか?」
『忘れました』
忘れるの早いな。
「なら、私が教えましょう。『私はこの席に座りたいです。何か文句はありますか?』です」
『そういえば、そんな感じでしたね。それのどこに問題が?』
「最初の席に座りたい云々はよしとしましょう。後に続く言葉がダメです。『文句』の他に思いつく言葉はなかったんですか?」
『…「不満」とかですかね』
何か文句はありますか。何か不満はありますか。
んー。少しだけましか? ほんの少しだけ。言い方を優しくすれば。
「それでもまだ40点くらいですね」
『40点ですか』
「こういう時は妥協案を提示すると点数が上がりますよ。『代わりに私の席に座ってください』とかですね。他にもその席でなければいけない理由を訴えて説得することも手です。目標は、お互い一度も殴ろうと思わせないように説得して妥協点を探すことですよ」
『…次回に生かします』
「さて、ここからはクラスメイトとして。今日授業出てみてどうだった?」
『ああ、授業は相変わらず簡単でつまんなかったな。だからお前に言われた通り別のことしてた』
「研究だね! 進んだ?」
『まあまあだな』
「そっか。で、次はお願いなんだけど」
『どうした』
「あんまり私のこと見ないでくれる?」
『…ダメか?』
「ダメだね。疲れる。ただでさえ視線が増え気味なのに」
しかも前より視線に敏感になってきている気がする。
その状態であんな直接的な視線とか。耐えられない。
『ああ、他にもお前のこと見てるやついたな。俺が代わりにしめとくか』
すぐ物騒な話になる。
「しなくていいよ。てか、絶対にしないで」
『遠慮すんな。そしたら視線が減って俺が見ても疲れんだろ』
そういう問題ではない。
これは弟子なりに妥協点を探しているのか?
「なんでそんなに見たいの?」
『見たいっつうか、必要なんだ』
どういう使命だ。
『なら、見る時間を減らす。で、お前を見てるやつらも減らす。これでどうだ』
悪くない妥協点の探し方だな、前半の部分だけ。
後半の提案はやめてって言ったはずだ。物騒すぎる。
「見る時間を減らすだけでいいよ。どれくらい減らしてくれるの?」
『程々に控える。それ以上は譲れねえ』
譲るも何も、見ないようにするだけではないか。
「はああ、もうそれでいいよ。約束守ってね」
『ああ』
そうだ。約束する時は指切りをするんだった。あの怖い儀式をまたやるのか。
「電話越しだとできないから、指切りは今度学校でやろう」
『…わざわざやんのか』
「そういうものなんでしょ? あと、最後に一つ聞きたいことがあるんだ」
『なんだ』
「昼休みの時。なんかいつもの調子と違ったね。創也達のこと苦手?」
『…苦手っつうわけじゃねぇよ』
「そっか。ならよかった」
苦手なのに無理して一緒にいられたら気を使ってしまう。
「確認は以上かな。じゃ、また明日!」
『ちょっと待て。俺も聞きてぇことがある』
「なに?」
『林道創也とは、本当に友達か』
急に何を言い出すかと思えば。
「そうだよ。今日一日中見てたら聞かなくても分かると思うんだけど」
『…お前それ本気で言ってんのか。ただ気づいてねぇのか、それとも気づいてねぇ振りしてんのか。どっちだ』
「気づく。何に?」
『…マジか。すげぇな』
え、いや。は?
「会話に脈絡がないんだけど」
『いや、今のは気にすんな。…くっくっく、あの林道がねぇ』
何が何だかさっぱりだ。もはや独り言の域だな。
「聞きたいのがそれだけなら切るね。創也達、みんないい人だから、オニ・ヤマさんもすぐに仲良くなれるよ」
『悪い奴らじゃねえのは俺も知ってる。一応初等部からお互い顔なじみだ。それから、「さん」付けで呼ばなくていい。俺もお前のこと荒木って呼ぶわ』
「わかった。オニ・ヤマだね!」
『荒木。なんで普通に鬼山って言えねぇんだ。いい加減、間空けんな』
「だーかーら。逆になんで苗字と名前を繋げて呼ぶの? 私はアラキ・ミチナ。アラキミチナなんて呼ばないでしょ?」
『…もう勝手にしてくれ』
なんなんだ。私よりも地球の常識が足りんな。
「じゃ、切るねえ。オニ・ヤマ、また明日!」
『…ああ』
この時はまだ、鬼山が苗字で、名前はわざと隠していたことなど、つゆ知らず。
名前を隠していた理由と鬼山の名前が明かされるのは、まだまだ先の話。




