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友達になりたいと思うきっかけ


 本題に入ろう。


「それで、何があったんですか?」


 荊野薫子にもう一度聞く。

 聞かれた荊野薫子が口をゆっくり開いて説明を始めた。


 話を要約すると、荊野薫子の悩みの原因は、創也達との談話室での出来事の後、私に関して広まった間違った情報を正そうとした時に起こった事だった。


 荊野薫子が明菜と風香にも分かるように、私を体育館裏に呼び出した話から今までの出来事を踏まえて説明していく。


「――そして、荒木さんと約束した通りに、その日の放課後、『実際に聞いてみたら誤解だった』『荒木さんも話してみたらそんな人ではなかった』と、他の女子生徒の方々にそう説明したのですわ」


 荊野薫子は有言実行の人だな。


「私の話を信じてくれた方々もいたのですが、中には、そうではない方々もいらっしゃって…私は丁寧に説明したつもりですの。その方々は逆に、必死に私を説得し始めましたわ」


「大方、事実とは関係なく、彼女たちは都合のいい解釈のままでいたかったってところですかね」


 明菜はすでに何か察したようだ。


「そう、なのでしょうか。私が説明すればするほど。それは違う。ありえない。こんな事を見た。あんな事を聞いた。だからそれは間違い。と、頑なに信じてくださいませんの。それに私を説得しようとする彼女達のあまりにも必死な姿勢に少し怖いとも思ってしまいましたわ。しまいには、私も荒木さんから脅されていると疑われて、途方に暮れましたの」


 自分が頑張って調べて、確認した事を頭ごなしに否定されたら、私だったらムッとするな。


「もともと荒木さんとは、もっとお近づきになりたいと思っておりましたわ。それに加えて、荒木さんとなるべく一緒にいて、仲良くしている姿を周りに見せていれば、私の話を少しでも信じてもらえるのではと考えましたの。その結果、普段学校で一緒にいた方々とはいつのまにか距離をおく状態になってしまいましたわ…」


 意図して距離を置いていた訳ではないようだ。


「明菜はこれについてどう思ったのか詳しく教えて?」


 すでに何か分かったようだし、聞いてみよう。


「今聞いた話だと、荊野さんの話を信じなかった人たちは事実を知りたいって事ではなさそうだな、っていうのが私が感じた事よ」


「何で事実を知りたいと思わないの?」


 間違った情報と正しい情報。欲しいのは正しい情報のはずだ。


「普通は真実を知りたいって思うわね。けど今回、彼女たちにとって大事なのは、事実ではなく、自分たちが正しいと思わせてくれる何か、なわけよ」


 まだよく分からない。もったいぶらないで欲しい。


「簡単に言ってしまえば、彼女達は道奈と林道様達を引き離す正当性が欲しいのよ。引き離せさえすればこの際、道奈の悪い噂が本当でも間違っていても、関係ないってことね」


 なぜ引き離したいと思うのか。考えつくのは創也母が言っていた『嫉妬』。


 だとしても、自分たちの狙いのためには間違った情報も正しいと言い張るやり方は、強引で、なりふり構っていない感じだ。


「ということは、私がいくら彼女達を説得しても…」


「無駄ってことになりますね」


 明菜の一言に、なんで荊野薫子は悲しそうな顔をするのだろう。

 自分の無力さを感じているのか? 全然無力ではないと思うぞ。


「荒木さんはこんなにいい方ですのに…自分たちの思い通りにするために荒木さんを悪く言うなんて、嫌ですわ」



 ああ、私のために悲しんでくれたのか。



 そう思ったら、嬉しさが出てきてしまった。


 悲しむ荊野薫子をみて、嬉しいと思うなんて。


 でも、自分のために心を痛めてくれる人の存在が私の心に喜びを与えるのを感じた。不思議なことだな。そんな荊野薫子を見て、彼女とも、友達になりたいなと、素直に思った。


「荊野さんの、その気持ちだけで、私は心がいっぱいです。明菜にも前に言いましたが、私は噂なんか気にしません。実際に危害を加えられるわけではないですからね。私にとって重要なのは、私の周りにいる人たちが、本当のことを知っているということです」


 これ以上彼女の心が私のために痛まないように、まっすぐ目を見て、私の気持ちを伝えた。


「荒木さん…」


 本当にそれでいいのか、と。伺う表情に変わる。

 まだ私の気持ちを理解できていないようだ。


 なら。とる行動は一つ。


「荊野さん、これから荊野さんのことを名前で呼んでもいいですか? 後、言葉も崩すね」


「え?」


 急な私の申し出に素っ頓狂な声を漏らした。


 友達になるからには名前呼びは必須だ。そして、距離を感じる敬語も無しだ。暁人とも初めは敬語だったが、今では崩している。


「薫子ってこれから呼んでもいい?」


「あ、荒木さんがよければ…」


 おお。照れ出したぞ。満更でもなさそうな反応に安心する。

 名前呼びを嫌がる人も日本にはいるって聞いたことがあるからな。


「明菜、風香、薫子。とりあえず、この3人の友達は本当のことを知ってる。これを支えに学校生活頑張るよ! 薫子、これでどう?」


 伝わったかな? 私の気持ち。


「…私も、名前で呼んでもよろしいですか?」


「もちろん!」


「道奈さん、ありがとうごうざいます!」


 私の気持ちに、満開の花のような笑顔で返してくれた。

 丁寧な口調は癖のようだ。暁人と同じだな。


「悩み、吹っ切れたみたいでよかったねぇ! 同じケーキを愛する者として嬉しいな!」


 じっと聞いてくれていた風香も喜びの笑顔で言ってきた。


 風香は相談事をされると、助言をするよりも、相槌を打ちながら丁寧に聞く立場に回ってくれるタイプのようだな。


「お客様、ご注文のケーキになります」


 店員が、そういえば注文していたな、と思い出す頃にケーキを持ってきた。


「筒香さん、気を使わせてしまったかしら?」


「いえ、荊野様のお元気がなさそうだと、シェフが言い出しまして。こちらのケーキを追加で準備するのに時間がかかっただけございます」


「まあ、アベルシェフが? 先ほど彼に挨拶をした時、普通に振る舞ったつもりだったのですが、バレバレのようでしたわね」


「荊野様は当店の大切なお客様でございます。長年通って頂いてますので、シェフにはわかったのでしょう。こちらが、ご注文のケーキと、シェフから皆様へのサービスになります」


 それぞれが頼んだケーキ4つに加え、もう一つ、大きめの可愛らしいケーキが真ん中に置かれた。


「これはなんていうケーキですか?」


 気になったので聞いてみた。


「裏メニューと言われる物ですね。名前はありません。その都度味が変わるようですので」


 味が、毎回、変わるのか。


「当店のケーキは下準備を仕込みの段階で終わらせたあと、当日お客様に出す寸前に仕上げを一つずつ行えるようなレシピとなっています。こちらのケーキは仕上げの際にその時のシェフの気持ちによってアレンジがなされるので、同じケーキには仕上がらないのです」


 この店のケーキへのこだわりを感じる。


「ありがとうございます。美味しくいただきますわ。あとで、アベルシェフに感謝の気持ちを直接お伝えしたいと思いますの。時間が空きましたら呼んでくださるかしら?」


「かしこまりました。後ほどシェフがお伺いします」


 そう言って店員は厨房へと向かった。


 テーブルの上にはケーキが。

 我慢をするような失礼なことはしない。




 4人で美味しく、幸せに頂いたことは確かだが、その間の記憶が曖昧だ。


 なので、割愛する。




「荊野さんはいつからこの店に通ってるの?」


 現実に意識が戻ったあと、風香が素朴な疑問を口にする。


「ふふふ、物心がついた頃からですわ」


 それは、今までの一生の時間とほぼ変わらないな。


 それならこの店の人たちと顔見知りなのも納得だ。

 いや、顔見知りというよりも、小さい頃からよく知っている親しい親戚のようなものか?


 ケーキの余韻を味わいつつ、和やかに会話をしていたら、白い服を来た茶髪の年配の男の人が微笑みながら話しかけて来た。


「荊野様、ケーキは楽しんでいただけましたか?」


 あ、私と同じ目の色をしてる。


「アベルシェフ。ケーキはどれも美味しかったですわ。それと、素敵なプレゼント、ありがとうございます。おかげで元気が出ましたわ」


「そうですか。先ほどよりも元気があるようにみえます。また元気がなくなりましたら当店にお越しください。ここはそういう場所ですから」


 日本語が流暢で優しそうな異国人。


 薫子と話している姿をみてそんな印象を抱いた。


「紹介いたしますわ。こちら、私と同じ学校に通う、正面の右から泉明菜さん、小川風香さん、荒木道奈さんです」


「初めまして。どのケーキも美味しいです。これから通い詰めると思うので、よろしくお願いします」


「ここのファンですあなたのことを尊敬しますきっかけは道奈が持ってきてくれたのが始まりでしたあの時私が―――」


「風香、落ち着いて。息をしようか。まずは吸って?」


 紹介された順番に明菜から一言ずつ添えていくが、風香が暴走しだしたので、なだめておいた。自分の好きなことになると暴走してしまう癖があるようだ。『宇宙人』について話す時のじっちゃんの暴走具合と似ている。


『こんにちは。こちらのケーキに一口惚れしました』


 私も紹介されたので、風香をなだめた後に一言添えた。


「おや、同じフランス出身の方でしたか?」


 周りを見ると、皆驚いた顔をしている。



 ………また言語補正か。



 いちいち相手の母国語に合わせて言語を変えてくるようだ。


 これは厄介だな。


『いえ、習ったことがあるだけです』


 あああ、周りの表情からして、まだ日本語を話せていない感じだ。


「もしかしてって思ったら、やっぱりフランスの人だったんだね。小さい頃習ったことがあるんだ。懐かしくて思わず使っちゃったよ。ハッハッハッハッハ」


 なるべく3人にだけ話しかけるようにして日本語に戻した。

 だが、ごまかしが苦しすぎる。

 最後はうまく笑えただろうか。


「まあ、やっぱりそうなんですわね。ここのケーキ屋さんの名前の意味もご存知のようでしたし、そうではないかと思っていたのですわ」


 薫子、ナイスフォローである。


「はっはっは。これはこれは、とてもフランス語がお上手ですね」


 よし、ごまかせた!


「荊野様、可愛らしいお客様をご紹介頂きありがとうございます。そして、泉様、小川様、荒木様、そのようなお言葉を頂き、とても嬉しく思います。私はそろそろ厨房に戻らないといけませんので、もう少し話していたいところですが、失礼させて頂きます。皆様はどうぞこのまま、ごゆっくりとお過ごしください」


 それぞれに返事をしてくれるアベルシェフ。丁寧な客対応に真心を感じる。


『久しぶりに、自分の国の言葉が聞けて懐かしく思います。今度また当店にお越しいただいた時も気軽にフランス語で話しかけてください。また懐かしい母国語を聞けたら嬉しいです』


 最後は私に向けてフランス語で話してくれた、と思う。


 自分の国の言葉というのは、また聞きたいと思うほど、特別なものなのだな。


 言語補正がある限り、私が感じることはなさそうだ。


「ねえねえ。道奈ちゃん! さっきアベルシェフ様はなんて言ってたのぉ?」


「今度来た時も、またフランス語で話しかけて欲しい、だって」


「よくよく考えると、あたし、道奈についてあまり知らないのよね。まず日本人、なのかしら? それともハーフ?」


 異世界人だ。などと答えれるはずもなく。


「自分でも地球のどの国の出身なのかは分からないんだあ」


 サフィア共和国は地球に存在しないからな。


「…そう」


 明菜よ、そのまま勝手に推測してくれた方が私は助かる。


「ねえねえ。この店の名前の意味はなんなの?」


 空気を変えるためなのか、ただ純粋に聞きたかっただけなのか。

 わかりかねるが、風香の一声で気まずい空気が一掃された。


「『天国の楽園』だよ」


「……『天国の楽園』、ここのケーキを食べるたびに意識がここじゃないところに飛ぶから、あながちあってるかもしれないわね」


 明菜もそう思うか。私もそう思うぞ。


「あ! 今何時!?」


 おう。時間を忘れて過ごしていた。


 腕時計を見る。


「もうすぐ3時になるね」


「ええ!? このままじゃ遅れちゃう!」


 そっか、風香は部活から2時間しか抜け出せないと言っていたな。


「まあ、何か用事が? よろしければ車で送って差し上げましょうか?」


「荊野さん! 本当に!? すっっっごく助かるよぉ! けど、いいの? 私だけ早めに帰って、残りの3人でもっとケーキ楽しめるのに」


「小川さんが遅れるかもしれないというのに、ここでゆっくり楽しむなどできませんわ」


「あたしも、風香が帰るあたりで帰ろうと思ってたから、気にしないで。ここに居続けたら財布が空っぽになりそうだわ」


 それは一理ある。


「とりあえず、支払いを済ませよう? 薫子、風香は学校の部活に遅れそうで慌ててるんだ。私たちもついでに一緒に送ってくれる? 車の中でもう少しおしゃべりできるしね」


「みんな…ありがとう! このご恩は一生忘れないよ!!」





 風香の大げさな感謝の後、速やかにお支払いと、店員さん――筒香さん――とアベルシェフに筒香さんを通して挨拶を済ませ、車に乗り込んだ。




 結局風香は5分遅刻。罰として学校のグラウンドを5周走る羽目になったそうだ。


 私と明菜は寮の前まで乗せてもらった。


 薫子にお礼を伝えて、薫子は私たちに話を聞いてくれたことに対してまたお礼を伝えて、とお礼の言い合いこをして別れた。





 変な噂は増える一方だが、信用できる友達が3人も増えた。


 元を辿れば、その噂がきっかけで3人の良さに気づくことができたのだから、鬱陶しくはあるが、無駄なことでもないなと思った。


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