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そろそろ突撃するか

二話連続投稿。1/2話目。


読んでてちょっと不快に思うかも。嫌な方は、飛ばしてください m(_ _)m


 談話室での出来事があったその日の夜。


 私は部屋のベッドの上にいた。

 宿題も終わり、落ち着いたところで、今日あったことを振り返っていたのだ。


 気になった点が二つある。


 一つ目は、創也達と談話室から教室に戻った時、いつもの視線に驚きが混じっていたこと。荊野薫子が一緒にいたからか? でも彼女は同じクラスメイトだ。一緒にいて何も問題はないはずだが…。いつもは一緒にいないから驚いていたのかもしれない。


 二つ目は、今日も私の二つ後ろ――草野葵――の席が空いていたことだ。


 彼女が早退した日から4日が経つ。


 そろそろ私から直接聞きに言った方が良さそうだ。


 先生に聞いたところ、彼女は私と同じ寮生で、二番寮にいるとのこと。



 明日の放課後、行ってみるとするか―――。



 ****



「創也、今から草野さんに聞いてこようと思う」


 次の日の放課後、草野さんのところに行く前に、創也に知らせておいた方がいい気がして伝えた。


「…わかった。何かあったらすぐに連絡してくれ」


 創也の中で草野さんが何しでかすか分からない女の子になっている気がする。まあ、あの映像を見てしまったらそう思ってしまうものなのかもしれない。連絡するほどのことが起こらないことを祈るよ。


「うん。じゃあ、行ってくるね。話し終わったら連絡するよ」


「気をつけて」


 心配そうな創也の視線を振り切って、二番寮に向かった。





「こんにちは。中等部一年A組の荒木道奈です。草野葵さんのお見舞いに来ました」


 二番寮の受付でとりあえず要件を話した。

 お見舞いなら、すんなり入れてくれそうだ。


「あら、草野さんのお友達ね。彼女、ここ数日ずっと部屋にこもってるのよ。来てくれて助かるわ。部屋の番号は203号室よ」


 部屋の番号を知ることができた。


 問題は、部屋を開けてくれるかだな。草野葵は私を避けている可能性がある。すんなりと開けてくれる気がしないので、保険をかけておこうと思う。


「実は私たち、喧嘩をしてしまったんです。仲直りしたいのですが、草野さんが部屋に入れてくれるか分からないので、その時は一緒に来て私の代わりに開けてもらえるように話してもらえますか?」


「まあ、喧嘩? だから部屋にこもってたのかしら。風邪って言ってたけど、やっぱり他に訳があったのね」


「お願いします。どうしても今日仲直りしたいんです!」


 頭を下げて誠心誠意を見せる。


 そうしないと、これからずっと草野葵は学校に来なさそうだ。


「しょうがないわねえ。今回だけよ? 今はあんまり受付を離れちゃダメな時間帯なんだから」


「ありがとうございます! 草野さんが開けてくれなかった時はまたここに来ますね!」


 二番寮の管理人さんが話のわかる人で助かった。


「ふふふ、その時はいらっしゃい。はい、ここに名前と日時を書いてから入ってね」


 私が入寮する時、受付で創也が書いたみたいに、私も書かされた。



 さて、保険もかけれたことだし、203号室に向かうとするか。





 コンコン、と203号室のドアをノックする。


「…」


 が、返事がない。


 コンコンコンコン


「…」


 コンコンコンコンコンコン


「…」


 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!!


「ああ! もう! 何!? 誰!?」


 『ノック』から『グーで思いっきり叩く』に変更したら、これは無視できなかったようだ。部屋の中から草野葵の痺れを切らしたような声が聞こえた。


「こんにちは、荒木道奈です。お話に来ました」


「えっ…」


「草野葵さんですね? お話があるのでドアを開けてくれますか?」


「……」


「あ、格好とか、私気にしないのでパジャマのままでも大丈夫ですよ?」


「……」


「あの、聞こえてます?」


 コンコンコンと再度ノックする。


「……」


 が、返事がない。


 今更居留守は遅い気がするぞ。

 これでは埒が明かない。

 あまり使いたくなかったが、保険を使うか。



 道奈は管理人さんを召喚した。




「草野さん、ドア開けてくれるかしら。様子を見に来たわ」


 管理人さんがノックをしながらドアに向かって話しかける。


 さすがに管理人さんを無視するわけにはいかなかったようで、草野葵は素直にガチャりとドアを開けた。


 そして開いた隙間にすかさず腕を入れる。


「えっ、ちょっ!」


 中で草野さんが驚く声が聞こえた。

 そのまま閉められないように、ドアを開けて部屋に入る。


「協力して頂いてありがとうございます!」


「無事に仲直りできるといいわね」


 ドア越しにそう言って管理人さんは受付に戻っていった。


 さて、少し強引ではあったが、第一関門は突破だ。


「改めまして、こんにちは、草野さん」


 草野葵がいる方に向き直り、とりあえず挨拶をした。管理人さんと話している間に距離をとったようで、少し離れたところに寝間着姿の草野葵、そして、三番寮の部屋よりも少しだけ広い部屋が目に入る。


 部屋の中だからか、草野葵はおさげではなかった。



 よし、今から第二関門に突入開始だ。



「…」


 相対したのに無言を決める草野葵。

 表情にはなぜか怯えが少し混じっていた。


 耳の穴は空いてるから聞こえているだろう。

 構わず話し続けよう。


「あなたは創也に恋してますか?」


 単刀直入すぎたか?


 でも今の質問に、ビクリと草野葵の片眉が反応した後、草野葵の表情にイラつきが出て来た。


 何かしら反応を示したということは、そういうことだな。わかりやすい。


 創也母の女の勘はあたりかもしれない。

 これで、恋心からの嫉妬が原因で上靴を捨ててしまった可能性が高まったぞ。


「私は、防犯カメラの映像であなたが私の上靴を捨てるところを見ました。今日はその理由を聞きに来たのと、弁償を要求しに、お伺いしたまでです」


「…理由を知ってどうするの? どうせその後、林道様に私の悪口でも言うんでしょ?」


 やっと話し出したか。


「理由を知ってから、まず私の上靴を捨てたことに対して怒ります。そして弁償を要求します。それ以外はしません」


「ふん。よく言うわ。すでに林道様も知ってるんでしょ? …私があなたの上靴を捨てたこと」


 やはり創也と防犯カメラについて話していたことを聞いていたようだな。


 それよりも、さっきから表情で見え隠れしていた怯えが前面に現れ出したことに気づく。


「…創也に知られるのが怖いん――」


「その『創也』っていうのやめて!!」


 突然叫び出した草野葵。


 急な大声にびっくりしてしまった。



「…」


「…」



 しばらく沈黙が続く。


 草野葵が急に叫んだ理由が分からないので、彼女が話し出すまで待つことにした。



「…………あなたが林道様のことを『創也』って言うたびに、イラつくのよ」


 イラついてしまうのは嫉妬のせいなのか。

 ただ単に私が『林道様』呼びの暗黙の了承に従わないせいなのか。


 分からないが、お互い冷静に話すために、ここは私が折れよう。


「…林道さんに上靴をあなたが捨てたことを知られるのが怖いんですか?」


 『創也』呼びを『林道さん』に変えて、先ほど聞きたかった質問をやり直した。


「…そうね。怖いわ。林道様に知られて、私は嫌われてしまったのでしょうね」


 嘲笑しながら、言葉を吐き捨てるように話す草野葵。


 そうか、さっきから感じていた彼女の怯えは、創也に嫌われてしまうことに対しての怯えだったのか。


 …もしかしたら、草野葵は『私を』というよりも創也のことを避けていたのかもしれない。


「林道さんはあなたのことを嫌ってはいないと思います」


「え?」


 自分の言ったことに対して私が否定したのが意外だったようだ。

 目を丸くして私を見つめている。


「確かに林道さんはあなたが私の上靴を捨てている映像を一緒に見て知っています。ですが、どちらかというと、嫌悪よりもショックを受けてましたね。信じられないという顔で映像を見てましたから」


「ショックを…受けてた」


 うむ、あれは『嫌う』とは違うな。


 あれは…『失望』? いやこれも違うな、ちょっと大げさか。


「林道さんがあなたのことをどう思っているのか。草野さんが林道さんのことをどう思っているのか。これはお二人の問題になるので、私は関わるつもりはありません。私の要求は上靴を捨てた理由とその弁償、この二つです。まあ、弁償の前に私の怒りが入りますけど」


 私の要求を伝えると、悔しそうに下唇を噛み出した。


 今度はなんだ。そんなに弁償するのが悔しいか。



 その後、また沈黙が続いた。



「……上靴を捨てた理由は…あなたがずっと林道様のそばにいるからよ。………私だって林道様の隣にいたいのに…なんでそこにいるのがあなたなのって…上靴がなくなれば探すのに授業に遅れるだろうって思ったのよ。そしたらその間だけでも、また林道様のそばは誰もいなくなるわ、って。でも思い通りにはならなかった! 林道様には知られるし!! 何よりあなた!! 林道様におぶってもらうなんてズルいのよ!!!」


 最初はポツリポツリと話し出したが、途中から止めていた栓が抜けたかのように、勢いよく草野葵の口から流れ出た。


 その時の事を思い出したのか、彼女の目からドロドロとしたものも感じる。


 これは以前にも他の女子で見たことがあるな。


 怒りに似たもの。


 これが嫉妬なのだろう。



 そして、理由を聞いて、浅はかだと、思った。


 恋をすると人は浅はかになってしまうのだろうか。


 というよりまず彼女、本当に恋をしているのか、怪しくなってきたな。


 恋をして楽しいと創也は言った。

 明菜もベスも楽しいと言っていた。


 でも草野葵から楽しさは微塵も感じられない。


 せっかくだから、上靴を捨てた理由のついでに草野葵にも聞いてみようかな。


「今、楽しいですか?」


「は?」


「友達が、恋をすると楽しいと言っていました。あなたは、楽しいですか?」


 そう、聞いてみたら。


 草野葵が顔を俯いた。


「―――なんで私がそんなことに答えなきゃいけないのよ。さっきの話と全然関係ないじゃない」


 小さな声でそう聞こえた。


 その声は楽しさからかけ離れた、悲しみを感じる。


「なんで、悲しそうなんですか?」


「っ! あなたに何がわかるのよ!!」


 分からないから聞いてるのだが。


 俯いていた顔から一変して私をまっすぐ睨んだ。


「だって好きになっても話しかけることなんてできないもの! 話しかけたって他の人みたいに不快に思われて嫌われるかもしれない。それは絶対に嫌。だから、ただそばで眺められるだけでもって思ってたのにっ、なのに!」


 めちゃくちゃ怒ってる。

 彼女の怒りに触れるようなことを聞いてしまったようだ。


 それにしても、草野さんに話しかけらただけで不快に思う人なんているのか?


「あなたが来たせいで、林道様を眺めると必ずあなたも視界に入るのよ! 私が見たいのは林道様で、あなたじゃないの!」


 顔を真っ赤にしながら肩で息をする草野葵。

 言いたいことは言い切ったようだ。


 なら、次は私の番だな。


「なぜ、あなたに話しかけられた人は不快に思うのですか?」


「…なぜも何も、あなただって私と話していて不快だって思ってるんでしょ?」


 なぜそう決めつけるのか。不快に思ったならここで話し続けていないぞ。過去に何かあったような感じだな。


「私は不快だとは思ってないです。それは信じなくても別にいいですが、少なくとも、林道さんはそんな心の狭い人ではないですよ。話してみればわかります」


「…林道様が不快に思わないかなんて、そんなの分からないじゃない」


「ええ、一度も林道さんと話したことのないあなたでは、分からないでしょうね」


 あ、また怒らせたか。草野葵の顔が赤くなる。


「なぜあなたが恋をしているのに楽しくないか分かりました。自分の気持ちを押し込めてたからですね。私に嫉妬をする前に、自分で林道さんに話しかけるなりして林道さんがどんな人なのかを知りましょう」


 悔しそうにまた下唇を噛みだす草野葵。


「……いわよ」


「え?」


 声が小さすぎて聞こえない。


「もう遅いって言ってんの! 林道様の中で私は他の生徒の上靴を捨てるようなひどい女の子だもの! 嫌われてないって言われても、それは変わらないでしょう!?」


 そうだね。何しでかすか分からない女の子として認識されてると思うよ。ただ、それは草野葵が招いた事で、自業自得としか言えないな。


 これに関して、それ以外に言えることはない。


 なら、さっさと言うこと言って帰るか。


「そうですね、林道さんは似たような印象を抱いてると思います」


 肯定されて、草野葵の怯えの感情が深まるのが見て取れる。


「これ以上、林道さんに対するあなたの感情に私を巻き込まないでください。お門違いですよ。その気持ちをぶつけるのは私ではなく、林道さんです。あの上靴、新品だったんですよ? おかげでずっとスリッパです。走るのに不便です。サイズは23cm。なるべく早く弁償してくださいね。そうしないと、次の手段をとるつもりです」


 怒るまではいけなかったが、代わりに不満に思っていたことを言ってやったぞ。


「話は以上です。私も言いたいことは言ったので、このことはこれで終わりでいいですか? あなたも、これ以上学校を休むわけにはいかないですよね」


「………弁償はするわ」


 よし、言質はとった!


「では、失礼します。また明日、学校で」


「待って」


 部屋を出ようと思ったら、引き止められた。


「他に、何か?」


 草野葵の方を振り向く。


「…あなた、林道様とはどんな関係なの」


 それを今更聞くのか。


「大切な、友達です」


 向こうは妹と思ってるみたいだがな!


「…友達」


「では、これで」


 今度こそ、部屋から出た。


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