乙女のお買い物、夕飯はチャラポラパイ
次の日の日曜日、約束どおり、創也母と買い物に来ている。
さて、ここで問題。
私は今どこにいるか。
(ヒント:乙女の買い物)
はい、時間切れ。
答えは、下着屋さんである。
「す、すごい」
視界に広がるのはまさに女性のための空間。
カラフルで可愛らしいものから大人の色気を漂わせる大胆なものまで揃っている。
共通しているのはどれも形がコルセットよりも小さくシンプルなものであることと、繊細なデザインだということ。繊細に見えるが手に取ってみると予想以上に丈夫に作られていた。
この世界の女性の下着を見るのは実は初めて。
今まではじっちゃんが買ってきてくれる何枚かセットで箱詰めされているパンツを履いていたのだ。実際に下着を自分の目で見て決めるのも初めてになるな。
前の世界でも女性の下着自体みる機会なんてなかった。当時私は10歳である。まだ出るところが出ていない時期で私には必要がなかったのだ。見たのはお母さんのコルセットくらいだしな。
自分の胸元に手をあてる。
確かに前と比べて少しだけ膨らんだかな?
目の前にかかっているような胸当て――ブラジャーと言うらしい――を普段からつけるのが通常なようだ。
お母さんはいつもコルセットと格闘してたな。
私もいつかはコルセットと戦う日々が来るのかと覚悟はしていたが、日本ではコルセットの存在すら怪しいので、その部分に関しては内心ホッとしている。
じっちゃんが創也母に頼んだわけを理解した。じっちゃんに女性の下着なんて分かるはずもない。箱詰めパンツを買うのとはわけが違うようだし。
これに関しては私もちんぷんかんぷんである。創也母に任せよう。
「この子のサイズを測ってくださるかしら?」
創也母が店員に指示を出している。
店内にかかっているブラジャーたちは小さいものから大きいものまであって、あのアルファベットがサイズ表記のようだ。
…この世界でも大きい方が勝ち組なのだろうか。
「かしこまりました。どうぞ奥へ」
店員に促されて奥のカーテンで仕切られている小部屋に入って行った。
サイズを測った後、そのサイズのブラジャーを持ってきてくれたので、早速つけてみる。
「おおおお」
これが、ブラジャー。でも店にあったものよりも少しだけ形が違う。後で聞いたらスポーツブラという種類のブラジャーらしい。
チョイスしたのはもちろん創也母。
鏡に映るブラジャーを眺める。
そのままジャンプしてみたり、大きく背伸びをしてみたり、色々と動いてみた。
なのに、ズレない。
デザインも、悪くない。
これが、(スポーツ)ブラジャー。
コルセットよりも楽なのでは…!?
お母さんにも伝えたい代物である。
「道奈さん? つけてみたかしら?」
創也母の声がカーテン越しにする。
「はい、言われた通りにつけてみました」
つけるのにコツがいるようで少し苦戦したが、慣れれば問題ないレベルだった。
「つけ心地はどうかしら?」
「ぴったりだと思います。苦しくもないし、動いてもズレません」
「そう、よかったわ。じゃあ他にも試着していって、合うものをいくつか買いましょう。お金はお爺様から頂いているから気にしないでね?」
そこまで話が進んでいたようだ。
「わかりました。全てつけ終えたら呼びますね」
…この量を全てつけ終わる頃にはブラジャーをつけるプロになっていそうだ。
練習だと思ってひたすらつけていこう。
「下着を選んで頂いて、とても助かりました。ありがとうございます」
6着ほど買うことになった。
「うふふ、気にしないで? とても楽しかったわ。サイズは成長と共に大きくなると思うから、ブラが合わなくなったらまた連絡してちょうだい。サイズの合わないブラをつけているとお胸の形が崩れてしまうのよ」
「そうなんですかっ。その時はまたお世話になります」
無事に形が崩れずにすくすくと大きくなることを祈ろう。
「さて、次はこっちよ」
次に向かったのは、ドラッグストアと呼ばれる薬局。
何をそこで買ったか。
それは、女の子の日が来た時用のものだ。
来る途中創也母から車の中で教えてもらったのだ。
知って、衝撃を受けた。
大人の女性になるというのは大変なことなんだなと思う。
創也母には本当に感謝している。知らずにその日を迎えていたら、絶対に慌てる。
何かの病気か!? また入院か!? と、トイレで一人、内心大混乱を起こしていたと思う。
どんな時にどれを買うのか、製品の見方、使い方、漏れてしまった時の対処法などを創也母から丁寧に教えてもらった。
これは創也は来ちゃダメなやつだな。いたら、とても気まずい。
「気をつけるのはこれくらいね。何かあったら一人で抱え込まないですぐに電話するのよ?」
とても、とても心強い女性の先輩だと思った。
「はい。丁寧に一から教えて頂いて、ありがとうございます」
深くぺこりとお辞儀をして感謝の気持ちを示した。
「ふふふ、どういたしまして。夕飯まで少し時間があるから、それまで一緒にお買い物を楽しみましょう」
…お手柔らかに。
『もしもし道奈?』
「もしもし、どうしたの?」
買い物の途中で創也から電話があった。
『道奈のおじいさんの手伝いが終わって、そっちに向かってるところなんだ。夕飯は一緒に食べよう。今どこにいる?』
夕飯のお誘いだ。
「いいね! 今はどこだろう? この前ドレスを買ってくれた店の近くにある別の店かな。直接そのレストランで待ち合わせしようよ」
『いや、一緒に行こう。母さんにかわってくれ』
「わかった」
携帯を創也母に渡す。
「ええ、ええ。あら、まあ。そうなの? わかったわ。でも代わりに後で何があったか話してもらうわね。ここは―――」
何を話しているんだろう。
「はい、道奈さん。創也からよ」
携帯が戻って来た。
「もしもし、どうなったの?」
『母さんに今いる場所を教てもらったからそこで待ってて』
「わかった。後でね!」
電話を切って、もう少し創也母の買い物に付き合った。
「道奈、お待たせ」
創也母との買い物に疲れて、店のソファーでボーッとしてたら創也が到着したようだ。
「創也、お疲れ」
「道奈こそお疲れみたいだね。母さんがまた暴走したんだろう? ごめんよ」
苦笑いで創也が労ってくれた。
「ううん。買い物は元々疲れるものだから。創也のお母さんには今日とってもお世話になったんだ。むしろこっちが感謝するくらい。創也のお母さんは追加の買い物のお会計を今してるよ。もうすぐ戻ってくると思う」
予想通り創也母はすぐに戻って来た。両手に買い物バッグをさげて。
「あら、創也。思ったよりも早くついたわね。また運転手さんに無理をさせたの?」
「してないよ。たまたま車が混んでなかっただけだ」
「ふーん?」
「それより、俺たちは夕飯に行ってくるから。母さんは父さんと二人で行ってきなよ」
「あれ、このまま3人もしくは4人で食べる流れかと思ってた。この前のカレーみたいに」
「私もそのつもりだったのよ? でも創也がねえ。まあ、ご飯は次回食べるとして、今日は二人で食べて来なさい」
「創也のお母さん、今日はお世話になりました。それと、色々と教えて頂いてありがとうございます」
「どういたしまして。また連絡してちょうだい? 道奈さんとのお買い物は楽しいからまたしたいわ」
体力を温存してまた挑むか。
「道奈、行こ? 母さん、行ってくる」
創也母にお別れを伝えてから、私たちは二人で創也が乗って来た車に乗り込んだ。
「『チャラポラパイ』? ヘンテコな名前だね。何屋さん?」
しばらく車で走った後に着いたところは不思議なところだった。
「タイ料理屋さんだ。食べたことある?」
「タイ料理…。聞いたこともないかな」
まずタイという国の存在すら知らなかったな。
「予約もしてあるんだ。中に入ろう」
二人で中に入ると、この店の不思議さが増した。
味が全く想像ができなくてワクワクする。
「メニューデス」
少しなまった日本語を話す異国人がメニューを二つくれた。
日本人以外の人と会うのは初めてだな。
「道奈、ここのオススメはトムヤムクンだよ」
『トムヤムクン』=『エビの混ぜ込み煮』か。
意味を考えたら美味しそうだが、『トム病む君』にも聞こえる。
食べたら病みそうだ。どんな味がするのだろう。
「この前のカレーみたいに半分こしよう?」
「俺は最初からそのつもりだ。トムヤムクンは頼むとして、それだけじゃ足りないからもう1品ずつ、二人でそれぞれ頼もう」
ふむ。どうするか。
カレーの時は興奮しすぎて選ぶのに時間がかかってしまった。
あまり待たせるのは忍びない。
直感で気になったものを頼むか。
メニューに載ってる料理名をざっと目に通す。
『パパイヤサラダ』
サラダに、パパイヤ、だとっ。
パパイヤというのはじっちゃんがたまに買ってくれる甘くて黄色い南国の果物ではないか。
それをサラダに入れるとは。
まさに邪道。
これにしよう。
「パパイヤサラダにする!」
「パパイヤサラダか。俺も食べたことないやつだな」
おう。では二人で味を確かめるか。
「俺はライスヌードル系を頼むかな。このパッタイにするよ」
パッタイ! 名前からして炒め物らしい。
食べたことないな。
「どんな味か気になるね!」
「そうだな。じゃあこれで頼もうか」
創也が店員を呼んだ。
長くなったので、ここで一旦切ります。




