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勘違い令嬢野郎(♂)と取引


 必死に笑いを堪えてくれた結果。何事もなかったかのように、元に戻った勘違い令嬢野郎。


「…」


 じっと私のパンに目を向けている。


 なんだ? あげないぞ。


「…この場所の使用料を払うんなら、ここを使ってもいい」


 まだ言うか。


 だが、それで丸くことが収まるなら安いものか。

 まず値段を聞いて判断しよう。


「おいくらですか?」


「食いもんよこせ」


 やはり、狙いはこのパンか。


 仕方ない。帰ったらどうせ食堂で昼食を食べる予定だし。半分あげてもいいだろう。


「はい」


「全部だ」


 勘違い令嬢らしい傲慢さだ。


「はああ。どうぞ。私はそろそろ自分の寮に戻ります。ごゆっくり」


 食べていたパンを全部渡して、この場を去ろう。この場所は名残惜しいが、お腹が空いた。


「なんだ、もう行くのか」


 いやいやいや、さっきから私に立ち去って欲しかったのではないのか。

 もうわけがわからないよ。


「お腹が空いたので、食堂にご飯を食べに行きます。誰かさんがパンを全部とってしまったのでそうせざるを得ないのですよ」


 もう少しゆっくり空を眺めていたかったがな。


「なら食べたら使用料を払いにまた戻ってこい」


 えええ。空を眺めるために戻るのなら考えなくもないが、食料を貢ぎにここに戻ってくるのは気が全く進まない。


「私、そんなに長くここを使用してはないです。パン一個で十分ですよ。次回また使う時になったらここに食べ物をおいて行くので、それ拾って食べてください」


 あああ、空腹を感じ出したら余計にお腹が空いてきた。

 半ば投げやりに言ってハシゴに手をかける。


「食べかけのパンでこの俺に満足しろと? 随分と図々しい利用者だなぁ? ああ゛?」


 すごむなすごむな。また顔が凶悪になったぞ。


「はああ。時間かかりますよ」


 なにぶん食事はゆっくり取る派なので。


「早くこい」


 さっきからなんで勘違い令嬢野郎なんかに指図されねばならない。


 ムッとしたので返事もせずにそのままハシゴを降りた。



 探検をしてここを見つけることができたのはいい。


 いらないおまけがついてきてしまったけどね!



 プンスカしながら寮に戻った。



 ****



「おーい、勘違い令嬢やろー。あ、間違えた。オニ・ヤマー」


「誰が令嬢だ。ぶっ殺されてぇのか?」


 ハシゴを登るのが面倒だったので下から呼んだら、勘違い令嬢野郎の凶悪な顔が上からひょっこり出てきた。



 シュタッ



 そして上からやつが飛び降りてきた。これは予想してなかったな。


 すかさず距離を取る。

 今日はこれ以上胸ぐらを掴まれるわけにはいかない。上の服をせっかく着替えてきたのだ。


「おい、追いかけられたくなけりゃ逃げんな」


 お前は獣か何かか? そんな顔しなくても餌はあげるぞ。


「はい、パン」


 何が好きか分からなかったので、寮の売店で一番人気の焼きそばパンを買ってきた。

 主食に主食をぶち込むという邪道な発想だが、私は好きである。


「チッ、一つか。まあいい。次は最低3つな」


 横暴に拍車がかかりつつある。ここらで止めねばどこまでも行きそうだ。


「こうしましょう。使用料は時間毎に払うということで。1時間あたりにパン一つでどうです?」


「ああ? ここは俺の場所だ。俺が決める」


 誰だこいつをこんな自分勝手な性格に育てたやつは。親の顔が見てみたい。


「それより、お前の名前をまだ聞いてねぇ。名前は」


 えええ、いやだ。

 同じクラスなら自己紹介の時にもう名乗ってあるから言わなくてもいいだろう。


 そんな考えが顔から漏れていたらしい。勘違い令嬢野郎が一気に距離を詰めてきた。


 すかさず縮めてきた距離分離れる。

 そしたらカシャンとフェンスに背中がぶつかる音が響いた。



 道奈、不覚。


 あける距離が後ろにない。



 ガシャンッ!!!



 顔の左真横のフェンスを強く叩く勘違い令嬢野郎。

 横をちらりと見るとそいつの腕が見える。


 突然でビクリと肩を揺らして驚いてしまった。


「もう一度聞く。名前は」


 耳元でそんな怖い声を出さないでほしい。


 さっきはお互い座っていたから分からなかったが、こいつ、私よりも背が高い。何を食べたらこんなに成長するのか。


 同い年の子に見えない。というかこんな凶悪な同年代がいてもいいのか。


「荒木道奈。名乗ったので離れませんか?」



 鼻息が当たりそうです。



 とは今の凶悪顔の勘違い令嬢野郎には言わない世渡り上手な私である。


「荒木道奈だな。覚えたぜ。これから毎日使用料を払いに来い。いいな」


「無理です。お金が足りません。それに私は多忙なので毎日来れません」


 横暴な言い分を聞いて咄嗟に出たのは、案の定、否定の言葉ばかり。


「ああ? 俺の言うことが聞けねえのか?」


「では逆に聞きます。お金がないのにどうやってパンを買うのですか? 時間がないのにどうやってここにくるのですか? これ以上横暴なことを強要するなら、ここにはもう来ません」



 こっそり来てやる。



「…わかった。なら俺が金をやる、代わりに買ってこい。それと来れる日は連絡しろ。俺の番号を教えるから携帯をよこせ」


 お、妥協してくれた。少しは話が通じるようで何よりだ。


 だが、こいつと携帯の番号を交換するのは抵抗があるな。


「私がお金をもらって代わりに食べ物を買いに行けばいいんですね。それで大丈夫です。では、用が済んだので私は帰ります」


 勘違い令嬢野郎の腕がない反対側からすり抜けて帰ろうとする。



 ガシャンッ!!!



 反対側も塞がれてしまった。


「どこ行く。俺は携帯をよこせつったんだ。早く出しな」


 近い近い近い。


 そんなに近づかなくても聞こえる。

 鼻息が気になるのでここは従うしかないようだ。


 ポケットから携帯を出して渡した。


 バッと乱暴に取られる。


 こいつ…あとで番号消してやろうか。


「くっくっ、じじいが使ってる携帯だ。腹の音といい、お前面白いな」


 携帯についてはなんとでも言いやがれ。もはや悟りの域にいるのだ。ダメージゼロである。


 それよりもさっきのことはぶり返さないでほしい。それは忘れようと努力しているところだ。


「ん? 荊野とも知り合いなのか。風間、火宮、林道のも入ってる。お前何もんだ?」


 私の携帯を操作しながら聞いてきた。


 何者も何も、


「ただの荒木道奈です。他に何が? 彼らは仲良くしてる友達です。荊野さんとは成り行きで」


 荊野さんは私の中ではこれから仲良くなっていくかもしれない女子である。

 そして他にも風香と明菜の番号も入っているぞ。


 もしかして、こいつも『身の程知らずだわ!』とたて巻きカールみたいに喚き出すのか。

 勘違い令嬢野郎だから可能性はゼロではないな。


「ただの、ね。…ほらよ、返すぜ。絶対に連絡しろ。しねえとクラスに押しかけるからな」


 押しかけるも何も同じクラスでしょうに。


「はあ。もういいですね? 私は帰ります」


 勘違い令嬢野郎の腕をすり抜けて入り口に向かう。


 その間もずっと後ろから視線を感じたが、無視をしてその場を去った。




「あああああ」


 部屋のベッドに倒れ込んで溜めていた色々なものと一緒に息をはく。



 どうしてこうなった。



 私はただ探検をしてて、空を眺めるいい場所を見つけて、気持ちよく過ごしていただけだ。


 それが、勘違い令嬢のような横暴なクラスメイトに出くわし、定期的に食料を運ぶ自体に発展してしまった。



 …もうなるようになれだ。



 明日は創也母と出かける予定が入っている。


 宿題は昨日で終わっているので復習をしつつ応用できるくらいまで今のうちに理解を深めておくのが先決だ。


 スキルを使っていれば煩わしいことも考えずにすみそうだ。


 とりあえずは今するべきことに集中しよう。


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