学校探検でオニ・ヤマさんに絡まれる。
二話連続投稿。2/2話目。
入学式の時といい、談話室の話が出た時といい。
みんなと比べて私はこの学園について知らなさすぎる。
創也達も私と同じで中等部一年になったばかりなのに、なぜそんなに中等部の施設について詳しいのか聞いてみた。
回想リプレイ。
「不破間先生が使っている部室など細々としたところは分かりませんが、初等部の建物と中等部の建物はベースが同じなので、初等部からいる内部生はどこに何があるのか大まかに分かるのですよ」
「そーだな。俺も初等部一年で入ったばかりの時は迷ってばっかいたわ。外部生は慣れるまで時間かかりそうだな」
「迷ったら俺に電話して? 迎えに行くよ」
回想終了。
3人は分かるのに私だけ分からない気がしてイヤだ。
というわけで、今日は学校探検を決行する!
よし。
携帯は?持った。
鍵も?持った。
地図は?持った。
傘は?いらぬ。今日は一日晴天の予報だ。
もしもの時の食料と水分もカバンに入れておいた。
探検の準備はこれで完璧だ!
いざ、出発!
****
どこまで探検するか。
範囲を決める時、とりあえず入れるところは入ってみようとなった。
鍵が閉まっているところは基本生徒は入ってはいけない部屋な気がするし、逆を言えば入れるところは入ってもいいということだ。
自分が決めた基準でまずは寮から一番近い第1から第4体育館を覗いて回った。
中で生徒たちが部活に励んでいたので邪魔するわけにもいかず、覗くだけに留めておいたのだ。
次に校舎に入って一階から順に近くにある部屋を片っ端から開けていった。
もちろん、良識のある私はいきなり開けてなどいない。
きちんとノックをして『失礼します』と断りを入れて開けているのだ。
一番上の五階にたどり着いた頃には、疲れてしまって、ほとんどの部屋は素通りして、興味のある部屋しか開けなかった。
それでも、一通りどんなものがどこにあるのか把握できるようにはなったと思う。
ん? まだ上があるのか?
五階を周っているとまた上に繋がる階段を見つけた。
確か、この校舎は五階建てだと聞いている。
上に何があるのかな…。
好奇心が湧いてきた。
これぞ探検の醍醐味!
一段一段、階段を上がって行く。
ドアというよりは扉と言った方がしっくりくるような鉄でできた頑丈な入り口が現れた。
ドキドキ。
扉のとってをそっと握って、回す。
キイイイイィィィ
音を鳴らしながらゆっくりと扉が開いた。
開いた扉の間から光が差し込む。
「うわああああああ!」
目の前に広がるのは、空の青。コンクリートの灰色。
その二つの色が美しく見えた。
一歩、扉の外へ進む。
それをきっかけにもう一歩足が進んで、いつのまにか、駆けていた。
フェンス越しに下の景色をみる。
中等部の敷地内と敷地外が一望できた。
敷地外に見えるのはたくさんのピンク色と緑色。山に入り組むように校舎が建てられているため、桜の木とその他の木が混ざってそう見える。
敷地内には一番最初に探検した体育館、私の部屋がある三番寮。二番寮と一番寮と思われる建物もその近くに見える。あれはテレビ男の研究室かな?中等部の敷地は広いとは思っていたが、本当に広いなと実感する。
次回は校舎内ではなく、校舎外を中心的に探検するか。
それにしても。
空を隔てるものが何もない!
空を眺めるのになんて最高な場所なんだ!
大変な時はここにきて自分を落ち着かせるのにもいいかもしれない。
そう思いながら周りを見渡した。
そしたら、もっと上に続くハシゴを見つけた。
ハシゴは今さっき潜ってきた入り口が付いている小さな建物の屋根に続くようだ。
もっと上に行けるのか!
探検はまだ終わってはいないのだ。登らないという選択肢は、無い。
今は私服で膝丈のスカートを履いている。制服のスカートほど短くない上に人もいないので抵抗なく登れた。
ハシゴの上に登って見ると、私の部屋よりも少し狭いくらいのスペースがあった。
真ん中で寝そべり空を見上げる。
「すううううう。はあああああ」
空まで吸い込んでしまうのではと思うくらい深く息を吸って、はいた。
ああ。いい。
探検の後の程よい疲労感と、学校の喧騒から離れたこの静かな空間が合わさって、とても気持ちがいい。
久々にゆっくりと空を眺めるとあって、本来の目的と時間を忘れてしばらく寝そべっていた。
「おい」
そしたら、ニョキッと視界の横の方から顔が生えてきた。
…なんか、前もこんなことがあったな。
「俺の場所だ、どけ」
なるほど、ここはこの顔の特等席らしい。
仕方ない、少し動いてやるか。
コロコロと体ごと転がして右のほうに移動した。
「隣、どうぞ」
これでお互い邪魔にならずにすむな。
「…」
無言で隣に横たわる気配が伝わった。
さては、この顔も空を眺めるのが好きだな。
「…やっぱ気が散る。ここから去れ」
私は何もしてないぞ!?
ははん。こやつ、何もしてないのにいちゃもんをつけてここを独占しようとする魂胆だな。
そうはいかない。私もここが気に入ったのだ。
じっちゃんの店にあるお気に入りの場所の次くらいには気に入っている。
「拒否します。気が散るのでしたら、あなたがここから出て行ってください」
「はあ? ふざけんな。ここは俺の場所だ。ぽっと出が粋がんじゃねぇ」
「うげっ」
ぐいっと胸ぐらを掴まれて無理やり起こされた。
こいつ暴力を振るいだしたぞ。
「では、お聞きしますが、ここにあなたの場所だと示すものはありますか? 私もこの場所が気に入ってるんです。自分の場所だと言い張るのなら、それなりの証拠が無いと納得がいきません」
「…この学園は親父のもんだ。親父のものは俺のもの。ならこの場所も俺のもんだ。これでいいだろ」
はっ、そんなめちゃくちゃな言い分が私に通じると?
「では、ここはあなたの場所ではなく、あなたのお父さんの場所になりますね。今度、あなたのお父さんにここを使用する許可をもらいにお伺いします。教えていただきありがとうございます」
爽やかな笑顔で流してやったぞ。
何が『親父のものは俺のもの』だ。そんな『お父様のお金は私のものですわっ』て言ってるどっかの貴族の勘違い令嬢みたいな言い分で納得するわけがないだろう。
それよりもいい加減私の胸ぐらから手を離してもらえないか。シワになる。
「…お前、俺が誰か分かって言ってんのか」
知らないが、人族でこの学園の生徒なのは確かであろう。
勘違い令嬢のようなことは言い出すが、言語が通じるならそれで問題はない。
「ええ、知ってますよ。私と同じこの学園の、一生徒ですね。それ以外に何か知る必要なこと、ありますか? それより、早くこの手を離してください」
言っても聞きそうにないので、力ずくで手を離そうと試みる。
ぎゅうっ
いやいや、なんでそこでもっと力を入れるかな? 手、疲れるでしょ。お互いの手のためにここは一旦離そうか。
「お前、俺と同じクラスのやつだろ」
「ぐえっ」
私の胸ぐらをグッと引っ張って顔を近づける。近い近い、私の鼻息があたりそうだ。
それよりも、同じクラス?
暴力勘違い令嬢の男の顔を、この時初めてよく見てみた。
んー。こんなやつ確かにいたような。いなかったような。
あ、そういえば。
入学式の日にクラスの自己紹介で、女子生徒に声を噛み殺しながら騒がれていた生徒がいたのを思い出す。
名前は確か。
「鬼さん?」
『鬼山』としか自己紹介で名乗ってなかったから、苗字が『鬼』で名前が『山』なんだろう、とあの時思ったんだっけな。
なぜこいつの存在を忘れていたか。それは入学式の日以来、クラスに全く顔を出さないからだ。
サボりというやつだな。
「ああ? 鬼じゃねえ。鬼山だ」
こいつ、私にフルネームで呼ばせたいのか。物好きだな。
「オニ・ヤマさん」
「間あけんな。てめぇ、俺のことからかってんだろ」
グググッ
く、苦しい。
胸ぐらを掴む手の凶暴性が徐々に増している気がする。
「っく。からかうも何も、私は大真面目です。苗字がオニで名前がヤマでしょ。間を開けて呼ぶのは普通のことのはずだ!」
「どうしたらそう解釈できんだ。普通に鬼山だ」
「てかいい加減離せ! この勘違い令嬢野郎! これ以上乙女に暴力をふるったら最終手段に移るぞ!」
ナンパ野郎を撃退した、あの技をまた使うのか。
気が進まないが、身の安全を確保するためには躊躇なんぞしてられんな。
いつでも炸裂できるように心の準備だけしておこう。
「ああ゛? 誰が令嬢だぁ? いい度胸してんじゃねぇか。やってみろよ、できるもんならなぁ!」
やさぐれ刑事に出てくる犯人役みたいなことを叫ぶなぁ。おまけに顔も凶悪でぴったりだ。クラスの女子たちはこいつのどこに騒ぐ要素を見出したのか、謎である。
最終手段を行使しようとした途端、
ぐうううきゅるるるるぅぅぅ
『あぁ、やってやるよ』とお腹が代わりに言ってくれた。
…はう。恥ずかしい。
なんでこんな時にお腹さんがでしゃばるのか。乙女にあるまじき失態である。
顔に血が登り、恥ずかしさで暑くなった。このまま暑さで死ねるぞ。
「…くっ。…くっくっく」
顔を背けて勘違い令嬢野郎が肩をプルプルと揺らしている。
笑いを堪えているのだな。乙女を笑うとは何事か。いや、涼はこの場合我慢せずに思い切り笑うだろうな。涼の方が失礼だ。
堪えてくれるだけましか。
お腹の音で、そういえばお昼がまだだったなと気づく。非常食にパンを持ってきたから、それでも食べるか。
腕時計を見ると食堂がそろそろ開く時間になっていた。
笑いを堪えるのに気を取られてか、胸ぐらを掴む手が緩むのを感じる。
すかさずこいつの手を叩き落とした。
そして、近くに置いておいたカバンからパンを出す。
「あむ。もぐもぐもぐもぐ」
食べながら、掴まれていた部分の服を手で撫でた。立派なシワができている。寮に戻ったら一旦着替えるか。
それよりもこいつがプルプル震えている間に、この後どうするか考えねばな。
勘違い令嬢野郎が復活するまで空を眺めながらパンを片手に考え続けた。




