ケーキって、罪作りよね。
3/3話目。
「では、明日創也達にいつ頃時間が空いてるか聞いてみますね。日時が決まったら電話で連絡します。番号を聞いてもいいですか?」
カバンから携帯を出す。
「もちろんですわ。……荒木さんは珍しい携帯を使ってますのね」
涼といい、テレビ男といい。みんな私の携帯をみて何かしら反応を示すのを見るとやはり、変わった携帯なのかもしれないと思ってしまう。
だからといって変えるつもりはないがな。じっちゃんが私のために選んでくれた携帯だ。壊れるまで使う予定である。
「まあね。――はい、これが私の番号だよ」
「登録完了ですわ。私がワンコールするので、荒木さんも登録お願いいたしますわね」
プルルと短く電話がなって切れた。着信履歴にでた番号を登録する。
「そろそろ、帰ろうと思います。でもその前に、せっかく美味しいケーキ屋さんに来てるので、もう3つほどケーキを買って行きますね」
メニューをもう一度見た。
3つケーキを頼む理由は、私と風香と明菜の分である。お土産だ。
実は、昨日の朝、一緒にご飯を食べたのが風香との久しぶりの会話になる。
風香は部活で忙しく、朝は早く出て夕方は遅めに帰ってくる上に、クラスも違うので、なかなか会えないのだ。今日は宿題が少なめだし、予習もだいぶ進んであるので、このケーキを持って、風香の部屋に明菜も誘って今晩お邪魔するつもりである。
さて、持って帰るケーキだが。
二人のケーキの好みを知っているわけではない。
なら春限定のケーキから一つずつ選ぶか。
二人は苺は好きかな。逆に、苺が嫌いな人はいるのか。想像つかない。
これと、これと、これにするか。
どれも試したことのないケーキにした。先ほどの美味しさならハズレはないだろう。
ケーキの支払いをするとき、荊野薫子が払うと言い出した。
時間を作って自分の確認に付き合って来てくれたお礼と、創也達と話すことに協力してくれるお返しだそうだ。
最初は遠慮したが、頑なに譲らない。話し合って、私が食べた分だけでも私が払うことになった。
お礼だお返しだと言って払おうとするなんて、律儀な子だな。
荊野薫子も昨日の縦ロールの髪の子のようなめちゃくちゃな言い分で私に不満を喚き散らすのかとも思ったが、全然違った。
ちゃんと話が通じるし、自分で何かを知ろうとする姿勢に好感がもてる。
荊野薫子とはこれから仲良くなれる気がするな。
そんなことを思いながら、車内で荊野薫子の王子様像をまた右から左へと流しながら聞いていた。
****
コンコンとドアを叩く。
「はーい、どなたですかー?」
「私だよ」
「あら、道奈。夜にどうしたの?」
ガチャンとドアを開けて、少し驚いた明菜が聞いてくる。
「夕飯ぶり。実は美味しいケーキのお土産があるんだ。今から風香の部屋に行くとこ。一緒に食べよ?」
「もちろんよ! ちょっと待って、軽く腹筋してくる」
ドアが閉まり、ドタバタと物音が聞こえる。なぜ腹筋を今?
「お待たせ。行きましょう?」
少し汗ばんだ明菜が出て来た。腹筋には触れずに、二人で風香の部屋へと向かった。
コンコンとまたドアを叩く。
「はーい。どちらさん?」
「風香、私と明菜だよ。今時間大丈夫?」
ガチャンと音を立てて、ドアが開いた。
「わぁ。明菜は数日ぶりだね。道奈は昨日の朝ぶりかな? 入って、入ってぇ。少しちらかってるけど」
風香の部屋に明菜と入る。
実は誰かの部屋に入るのはこれが初めてだ。少しワクワクしている。
「相変わらず、ラブリーな部屋ねえ」
ピンクと白の色を貴重とした部屋に、可愛らしい小物やぬいぐるみが置かれている反面、スポーツ用品と思われるものも混ざっていた。
自己紹介の時、可愛いものと走ることが好きだと言っていたな。
この部屋は風香の好きなものを詰め込んだ、風香らしい部屋なんだと思う。
「お邪魔します。今日ケーキ屋さんに行ったんだ。これ、お土産。一緒に食べよう?」
「わーい!!! ケーキだぁ!!」
やはり女の子はケーキが好きな生き物なのかもしれない。
風香が折りたたみ式の簡易テーブルとクッションを出してくれた。
「ここに座って食べよう!」
テーブルの上にケーキの入った箱を置いて座った。
確か、箱の中にフォークも3本入れてもらっているので用意しなくても大丈夫だろう。
「あ、お皿がなかったね。ちょっと待っててぇ、親睦会の時の紙皿がまだ残ってた気がする」
なぜ親睦会の時の紙皿なんぞ持っているのか。
「あぁ、風香は確か紙皿とか紙コップ担当だったわね」
そういうことか。
「よし、準備万端! 道奈ちゃん道奈ちゃん、開けていい?」
私は深く頷いた。
「オープン! おおおおおおおお! か、可愛い!」
「なんなの!? このケーキ…初めて見るわ!」
「ふっふっふ、一番美味しそうなものを買って来たのだ」
苺オン・ザ・ゴッデス。
女神のように美しいケーキの上に苺が乗ってるケーキ。
苺イズ・フューチャー
苺に未来を込めたケーキ
苺マイ・ライフ
苺に人生をかけた人たちの感動のストーリー
を感じるケーキ
「どれも食べたことないやつだよ。交換こしながら食べよう!」
箱から一つずつ出して、紙皿に乗せた。
「では!」
「「「いただきまーす!」」」
パクリ。
苺イズ・ハピネス――。
「はっ、もうケーキがない!」
「本当だぁ! いつのまにぃ!」
「凄まじいケーキだったわ。記憶が少し飛んでるわよ!」
「あああ! 交換こする予定だったのに! 自分のケーキ全部食べちゃった!」
苺ミラクルビューティーよりも味が進化していた。
ハズレはないだろうと思って買ったケーキ。
もしかしたら逆に3つともアタリを買ってしまったのかもしれない。
嬉しいが、このケーキは状況を考えて食べた方がいいな。
記憶が飛ぶのは困る。
美味しすぎるのも問題だ。
「このケーキどこの!? 私、今度自分で買って食べる!」
「あたしも教えて!」
風香と明菜はケーキの興奮から抜け出せていないようだ。
「箱に住所が書いてあったと思う」
箱を手にとって一箇所を凝視し出した二人。
「でも確か、荊野さんがここは完全予約制で一見さんお断りだって言ってた」
「ええええ。それじゃあ買えないよぉ!」
「道奈、荊野様とケーキ屋に行ったのね? 今朝、荊野様の車に拉致されてた時の話も聞こうと思ってたのよ」
「うん、荊野さんと一緒に行ったんだ。車の中でケーキ屋に行こうって誘われたの。それより、今度一緒に食べに行こうか? 私が二人を連れて行けば買えるでしょ? 来週の日曜日とかどう?」
「日曜も部活あるけどお昼の1時くらいから2時間くらいなら部活抜けれるよぉ!」
「あたしも特段まだ予定はないから行けるわ」
「決まりだね! じゃあ、昼の1時半に予約しとく!」
「やったあ、またこのケーキが食べれるんだぁ…ウヘヘヘヘ」
ケーキで風香が壊れ出した。
「さすが荊野様だわ。お店のレベルが違いすぎる」
「そういえば、聞きたいことがあったんだ。なんで創也達や荊野さんにだけ『様』をつけるの? 日本はみんな平民じゃないの?」
この学校が始まって、他の子達が創也のことを林道「様」と呼んでいるのを聞いていた時からずっと気になっていたのだ。
「え? あなた、本気で言ってるの? 林道様と言ったら、林道財閥の一人息子で御曹司じゃない。庶民にとっては雲の上のような存在よ?」
財閥? 何だそれは。
「それに風間様は大手株式会社ウィンドの跡を継ぐことが既に決まってると聞くし、火宮様は日本国内トップシェアを誇るフレーメルホテルの会長の孫よ。火宮様もいずれは経営の中隋に携わっていくでしょうね。みんな将来が約束されているお金持ちな上に、あの容姿。初等部の頃から『様』付けで王子様扱いされてるわ」
3人とも相当なお金持ちだったらしい。
創也と暁人はともかく、涼にはそんな雰囲気は微塵も感じないな。
「荊野様も林道様と同じで財閥の娘よ。荊野財閥、一度は聞いたことあるんじゃない?」
ないな。まだその辺りは調べていない。
「他にもあなたのクラスで一目置かれているのは鬼山様くらいかしら。何しでかすか分からなくて恐れられているけど、一部の女子から人気があるのよ。この学園の理事長の息子だったわね。そんな方々に庶民の要素なんて見当たらないわよ」
どうやら、日本では貴族制度はないが、お金をどれくらい持っているかどうかでランク付けされるようだ。
だが、それでもまだ納得がいかない。
「つまり、お金をたくさん他の生徒より持っているから様付けで呼ぶってことだね? でも、創也達の親がお金を持ってるだけで創也達自身は持ってないと思う。なのに創也達まで様付けで呼ぶのは変だよ」
私の家も裕福な方ではあったが、親元を離れて仕舞えば、関係なくなる。
「お金重視と言うよりは、社会的地位が重要なのよ」
社会的地位。どのレベルの会社でどこの役職についているかってことか? それとも周りの評判?
「あたしはまだ実際に見たことはないけど、子供のいざこざが原因で役職が上の親が、相手側の子供の親をクビにしたとか言う話は聞いたことがあるわ。他にも会社同士の関係が子供にそのまま反映されたりね。そういうのもあって、社会的地位が高い林道様達に下手なことする生徒なんていないのよ」
そんなことがまかり通るのか。
どうやら私が思ってる以上に親同士のしがらみが子供にも影響するようだ。
わかったぞ。そのしがらみの関係で「様」付けで呼んでいたのだな。
「私はその林道様とかにはまだ会ったことないんだぁ。どんな人かわかんないけど、道奈ちゃんはその人達のこと呼び捨てにして大丈夫なの?」
「大丈夫だと思う。ちゃんと創也達に名前で呼ぶ許可はもらってるから、今まで通り普通に呼ぶかな」
明菜の話を聞いても「様」付けで呼ぶ気はおきない。
「ふふっ、道奈は道奈のままでいいと思うわ。その方が絶対面白くなりそう」
明菜の基準は面白くなるか、ならないかだな。
「私、そろそろ部屋に戻って寝ようかな。一緒にケーキ食べてくれてありがとう」
「こちらこそ、こんなに美味しくて可愛いケーキに出会わせてくれてありがとう! おやすみぃ!」
「あたしも帰るわ。風香、お邪魔したわね。おやすみ」
「じゃあねぇぇ」
部屋に戻って。
ベッドの上で、風香の部屋で話したことを思い返す。
『雲の上のような存在よ』
雲の上は快適そうだけど、誰もいなくて寂しそうだな。
空に近づきすぎると、見るものが空しかなくなる。ずーっと空しか見れないなんて、さすがにそれは私も退屈する。
お互いが時々寄り添うくらいが空との適切な距離だと私は思うのだ。
前の世界で、
私も使用人からは様付けで呼ばれていた。生まれた時から呼ばれていたから、違和感はなかった。でも、途中から入ってきた同年代の使用人から様付けで呼ばれた時、あなたとは友達になるつもりはありません、と最初から言われた気がして寂しく思ったことがある。
もし学園で、創也達には様付けで呼ばないといけない、という暗黙の了承ができているのなら。
敬われて優越感を抱くよりも。
私だったら、距離を感じて悲しくなるなと思った。




