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ケーキって、美味しいよね。

2/3話目。


 上履き事件の犯人がわかり、昼休みもそろそろ終わる時間だったので、私たち4人は教室に戻った。


 教室に入ってすぐ、草野さんの席に目を向けてしまう。


 彼女はまだ席についていないようだった。


 いつ話しかけようか。


 そんなことを思っていたら、5時限目が始まるチャイムが鳴る。



 授業が始まっても、私の二つ後ろの席に草野さんが戻ることはなかった。





 放課後。


 5時限目の終わりに、鷲崎先生に聞いたところ、草野さんは昼休みで早退したそうだ。今日は話せそうにないので次回登校した時に話しかけようと思う。


「道奈、この後一緒に図書室に行こう。部活の研究対象が決まったんだ」


 創也が図書室に誘って来た。


「行きたいけど、今日の放課後は予定があるんだ。今度でもいい?」


「そっか。ちなみになんの予定?」


「ケーキ食べに行くの!」


「…一人で?」


「ううん。二人で!」


「…誰と?」


 うーん。これは言ってもいいのだろうか。荊野薫子は教室ではなくわざわざ車の中で二人きりの時に誘って来たのだ。それは他の人には知られたくないという思いを感じる。


「うーん、女の子と?」


 性別なら言ってもいい範囲だろう。


「もしかして……俺の母さん?」


 自分の母親かもしれないと疑う創也。


 いやいや、他にも仲のいい女の子くらいいるからね!


「違うよ。同い年の子。そろそろ行くね! また明日!」


 今朝荊野薫子に遭遇した場所までケーキのことを考えながら向かった。





「お待たせして申し訳ございません。他の方のお誘いをお断りするのに時間がかかりましたの」


 待ち合わせ場所でしばらく空を眺めながら待っていると、荊野薫子が車に乗ってやって来た。今は車内である。


「気にしてないです。空を眺めながら楽しんでましたから」


「まあ、ロマンチックですわね」


 そうか?


「空が好きなだけですよ。荊野さんも、そういうものありませんか? そのことについて考えるだけで楽しくなっちゃうものとか」


 美味しいケーキ屋に連れて行ってくれるのだ。着くまで会話に付き合おう。


「えっと…笑ったりいたしません?」


「笑わないですよ」


 人の好きなものを笑う理由がない。


「私は…王子様が好きなんだと思いますの。王子様のことを考えるだけで周りがキラキラして見えてきますのよ」


 ほうほう。王子か。


「ちなみにどんな王子ですか?」


 日本の人が考える王子像ってどんなものだろう。少し気になった。


「眩しいほどに輝いていて…格好良くて…笑顔が素敵で、守ってくれて! 白馬に乗っていたら完璧ですわ! きゃーー! 言ってしまいましたわ!!」


 後半に行くにつれて興奮して騒ぎ出す荊野薫子。赤くなったほっぺに両手をあてている。少しうるさいが、恥じらう乙女のようだ。


 ふむ。日本の人にとっての理想の王子像とは白馬の上で発光する人のことらしい。そんな人本当に存在するのか。まだ見たことがないだけかもしれない。格好良い云々は前の世界での理想の王子像に共通しているな。


 その後も理想の王子像についてキャッキャと嬉しそうに語り出す荊野薫子を右から左へと流し聞きしていると、レンガ張りの店の前で車が止まった。ついたようだ。


「まあ、もう到着しましたのね。気づきませんでしたわ」


 王子様について話すのに夢中だったからね。

 荊野薫子がいかに王子が好きなのか知れた。もう十分かな。


 店内に入ると暖かな雰囲気を感じる内装となっていた。


 内装に合わせて一からデザインしたような服を着た店員に奥の静かなテーブルへと案内される。


「ふふふ、ここのケーキ屋さんは完全予約制の一見さんお断りなのですわ」


 ますます期待が膨らんだ。


「さあ、お好きなものをお選びになって?」


 そのつもりでいるぞ。お小遣いも、寮の食堂で食べる料理が高カロリーなおかげで、売店で買う非常食代が浮いているのだ。せっかくだから少しだけ奮発したのを頼もう。



 悩み抜いた結果。



 期間限定の苺ミラクルビューティーという謎のネーミングをしたケーキを頼んだ。


 奇跡的なほど美しい苺が乗ってる苺クリームのケーキらしい。

 そのままの意味だった。


 値段も買えないほど高いというわけではなかったから助かる。


 荊野薫子は期間限定の苺ふわふわアメージングパフェにしたようだ。


 ケーキ屋でパフェを頼むとは。

 常連の余裕だな。


 それにしても。


 車の中で話した限り、昨日の荊野薫子の面影は一切感じない。


 どういう心境の変化なのだろうか。


「それで、私に確認したいことと言うのは?」


 ケーキがくる前にやることを終わらせておこう。

 ケーキはゆっくり集中して楽しみたいものだ。


「まず、いくつか質問いたしますわね。その前に、嘘偽りなく答えると誓ってくださいますか?」


 姿勢を正して真剣な表情になる荊野薫子。


 嘘をつく意味もないので深く頷いた。


「まず、他の女子生徒を見下すような言動をしたことに心当たりはありますか?」


「見下す理由が思いつかないですね。そのような言動をした覚えはありませんが、周りがそう思ってしまったのならいつか誤解がとけれたらなと思います」


「では、本田優香と言う女子生徒とはどのような関係なのかしら?」


 本田優香…寮の失礼な女の子だな。


「顔見知り程度の関係です。私が人と話している途中いきなり話に割り込んで来た失礼な女子生徒と言うのが私が受けた彼女の印象です。あの後、失礼だと指摘したのですが、逆上して一方的に私を恨んでいるようです、会うたびに嫌味を言ってくるので」


「まあ…」


 荊野薫子が驚いた表情になったが、すぐに戻って質問を続けた。


「林道様、火宮様、風間様とのご関係は?」


「みんな私の友達です」


「仲はよろしいですの?」


「はい、仲良くしてる方だと思います」


「彼らを所有物のような扱いをしたことは?」


 私はそんなひどいことをするような人間に見えるのか。


「いえ、友達は所有物ではないので、そのような扱いはしませんよ。そんなことをしたら、今頃、皆私のそばには一人もいません」


「彼らに何か脅しをしていることは?」


 荊野薫子の中で私は一体どんな暴君なんだ。


「ありません」


「彼らが最近困っているような素振りを見たことは?」


「創也はお母さんが暴走気味で疲れ気味だと言うことくらいでしょうか。涼と暁人はいつも通りですね」


「…質問は以上ですわ」


 ふううう。と長く息を吐きながら背もたれに力なく寄りかかる荊野薫子。


 今までの質問で彼女は何を確認することができたのか。


 しばらく私はじっと見守ることにした。


「…私が周りの人たちから聞いた話とは違いすぎた内容で、戸惑っております」


 ポツリと荊野薫子が今の本心を口に出す。


「『荒木さんが林道様を所有物のように扱っている』『それは、何か脅されているからだわ』『困っている表情をこの前見た』と言うのが私が聞いた話ですの」


 そんな根も葉もないことを誰が言うのか。


「私たちが林道様、風間様、火宮様の代わりに言って差し上げようと言うことになり、家柄が一番高い私から荒木さんが一人の時に言う方が、言うことを聞きやすいだろうと、他の方の推薦で私が代表になり、荒木さんを呼び出しましたの」


 家柄が高いも何も、日本に貴族制度はないのでは? なんだかその辺りが怪しくなってきた。


「呼び出す前に、荒木さんについてよく知る人から荒木さんがどんなお人柄なのか、話を聞いていた方がいいかと思いまして、荒木さんをよく知っている方を探したところ、本田さんが名乗り出たのですわ」


 おいおい、本田さんがなぜ名乗り出る。


「でも昨日の放課後、荒木さんのマジックを見て、あんなに完璧な王子様ができる方が、本田さんの言っていたような人だとは全く思えませんでしたの」


 本田さんは私について一体どんな説明をしたんだ。


「それから何が本当か、分からなくなりまして、まず荒木さんから確認をしてみた次第ですわ」


「それで、確認は終わったんですか?」


「荒木さんとの確認は終わりましたわ。しかし、荒木さんが嘘をついていると思っているつもりはないのですが、こうも周りから聞いた話と違うと、私は一体どちらを信じればいいのか分からなくて戸惑っておりますの」


 どちらを信じるも何も。


「分からなくなったら、直接、自分の目で見たものや、自分の耳で聞いたものをまず信じればいいのでは?」


 聞いた話だと、荊野薫子は人伝えの情報ばかりだ。

 なら自分自身で調べて、どちらの情報が正しかったのか見極めればいいのだ。


 今私に質問したように。


「まず、本当に創也たちが困っているのか、今度直接聞きに行きましょう。荊野さんが私と話をして気づけたことがあるように、創也達と話をしてみれば、何かわかることがありますよ」


「…そう、ですわね」


「お待たせしました。こちら、苺ミラクルビューティーと苺ふわふわアメージングパフェになります」


 確認が終わったタイミングでケーキが到着した!


 名前の通り、綺麗な苺が乗っていてとても美味しそうだ。


「いただきます!」


 一口食べる。



 ドンガラガッシャーンッッ



 あまりの美味しさに頭の中で色々なものが倒れた。



 プルプルプルプル



 ふっ、美味しさで震えてしまうとは。ここのケーキは凶器並みだな。


 まず、風味が濃ゆい。なのに甘ったるくも重くもないクリームが口の中で踊り出すのだ。

 クリームが踊り出すなど、冗談もほどほどにと思うかもしれないが、一度このケーキを食べてみればわかる。本当に踊り出すぞ。


 私は、メインを最初に食べるタイプでも最後に食べるタイプでもない。最初と最後の間で食べるタイプだ。というわけで、


 次に苺を食べる。



 ドカーーン



 苺の味が口の中で爆発した。


 一気に口に広がる苺成分たち。

 その成分が口にまだ残っている間に先ほどのクリームを口に入れる。まろやかで軽やかなクリームが苺特有の甘酸っぱさと絶妙に合わさった。これぞ、ハーモニー。


 はうううううう。しあわせ。


 先に荊野薫子の確認とやらを終わらせて正解だったな。こんなに美味しいケーキを前にして質問なんぞに答える余裕などない。


「ふふふ、知る人ぞ知る、私一押しのケーキ屋さんですのよ。初めてここのケーキを食べた時は、私も今の荒木さんのようになりましたの。お気持ちお察しいたしますわ」


「…ここのケーキ屋さんの名前を、もう一度」


「ケーキ屋『ル・パラディス・デュ・シエル』長いので私は『シエル』と呼んでおりますの」


「ケーキ屋『天国の楽園』?」


 今にもご臨終してしまいそうになるな。


「まあ、フランス語がわかりますの?」


 今のはフランス語らしい。言語補正で思わず意味を聞き返してしまった。


「前から気になっていたのですが、荒木さんはハーフなのかしら?」


 日本以外の人の血が混じっているかどうか聞いてるのだな。


「日本人ではないですね」


 異世界人ですね。


「気づいたら日本にいたんです」


「それは…、複雑なご事情がありそうですわね。そうとも知らず不躾なことを聞いてしまいましたわ。申し訳ございません」


 何か勝手に感潜ってくれているらしい。説明する気もないので、話を変えよう。


「気にしてないですよ。それよりも、荊野さんは草野葵さんと話したことはありますか?」


「草野さんですか?」


「彼女に聞きたいことがありまして。草野さんが早退してしまって聞けず仕舞いですが」


「草野家は荊野家の分家になりますわ。ただ、分家といっても、草野さんと初等部の頃から一緒のクラスでしたが、これと言った接点はありませんわね。彼女、自分から人と関わるのを避けているようでしたし。ただ、よく林道様の近くで彼女を見る気がいたしますわ」


「創也の近くでよく見る…」


 …もしかしたら、今朝、創也に防犯カメラを確認すると言った私の話が聞こえていたかもしれない。まだ予想の範囲だが。


「あまり、お力になれなくて申し訳ありませんわ」


「いえいえ、教えてくれてありがとうございます」


「あの、先ほど私に直接聞いてみては、と助言して下さったことに関してお願いがありますの」


 しおらしく俯きながら私を見てきた。


 確認の次はお願いか。


「はい。なんでしょう?」


「その時、一緒にいてくださいませんか? …緊張で、心臓が破裂して死んでしまいますわ」


 私が一緒に行かないと酷い死に方をしてしまうようだ。


「いいですよ、そのくらい」


「ありがとうございます!」


 ぱあっと顔が明るくなり、テーブルに乗り出し気味になった。


「荒木さんはすごいですわ。あんなに格好良くて王子様みたいな方々と普通にお話ができるのですもの! 特に林道様なんて、私の理想の王子様ですわ」


 んん? 誰が王子様みたいだって?


「荊野さん。創也と話したことは?」


「…話す機会は何度か。ただ緊張してしまって…虚勢をはりながらいつも逃げてしまいますの…」


 それでは創也がどんな人かなんて分かるはずがないではないか。


「私から見た創也は、王子から程遠いですよ。確かに優しい面もあって、助けてくれたことも何度もありますが、出会った時の印象は最悪でした。私のじっちゃんの店がお休みの日に勝手に上がり込んでお茶を要求してきたのが創也だったんです。こんな図々しい客が存在するんだなと、その時は思いましたね」


「まあ…あの林道様がそのようなことを…?」


 荊野薫子の顔に信じられないと書いてある。


「あくまでもこれは私から見た創也なので。創也がどんな人なのかは荊野さんが創也とちゃんと話してみてから判断してください」


 人によって『普通』が違うように、人の印象というのは見る人によって違ってくるものなのかもしれない。


「…そうですわね。その時はよろしくお願いいたしますわ」



 こうして、荊野薫子の確認に付き合った結果、私は創也達との確認に協力することになった。


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