上履き捜索と体育館裏でマジックSHOW? 第二弾
本日二話投稿。2/2話目。
「んー。見当たらないなあ。創也、そっちの方は?」
「こっちにも無いかな」
朝に出前マジックを終えた後、順調に授業は進み、昼休みになった。
今はカフェテリアの帰りに上履きの捜索を行なっている。
といっても、昼休みの残りの時間があまり無いので簡易的にだが。
「一旦諦めて、教室に戻ろっか。付き合ってくれてありがとう」
「いいって、気にしないで。それよりも、俺は誰が盗んだのかが気になる」
創也の中ではすでにそういうことになっているようだ。まだそう確信するのは早い気がする。誰かが間違えて履いてしまったとか、他にも可能性はあるぞ。やさぐれ刑事も初めは色々な可能性に目を向けて、事件現場や状況証拠などを元に複数ある推測を一つずつ消していくんだ。
「それはおいおいわかるよ。行こ?」
やはりというか、今日もずっと視線がつきまとう。
視線から振り払うように教室に戻った。
「ん?」
席について5時限目の準備をしようと机に手を入れると、中に見知らぬ紙が折られて入っていた。
「どうした?」
私の疑問の声に反応した創也が聞いてきた。
「えーと、お手洗いに行ってくる。すぐ戻るね」
急いで教室を出て廊下の影に隠れて持ってきた紙を出す。
折られた紙には『一人で読むように』と書かれていたのだ。
『今日の放課後、第2体育館裏に来なさい。 荊野薫子』
紙を開くと綺麗な文字でそう書かれていた。
読んで瞬時に理解する―――
出前マジックの追加依頼だ!
今朝の私のマジックの評判を聞きつけたものの、恥ずかしくて直接依頼を言えなかったとみる。
いいだろう。
爆発マジックが失敗した時用に念のために予備の分を持って来てはある。
だがしかし、今回のターゲットは名前からして女子。
今朝やった爆発マジックに興味を持ったのは男子のみで女性の武田先生は花びらに注目していた。
女子に魅せれるようなマジックは…できるな。
それにあれと組み合わせれば先生の許可もいらないだろう。
よし、放課後一旦寮に帰って持ってこよう。
荊野薫子という女の子が待ち合わせの場所に到着する前には準備を全て終わらせて待機の状態でいるのが理想だ。
少しだけ難しい挑戦ほどやる気が燃えるものはないなと知った。
そして、放課後。
「ちょっと、今日は用事があるから先に帰るね! また明日!」
「え、道奈?」
創也が何か言っていたようだが、時間がない。
放課後になるや否や秘密裏に机の下で帰りの準備を終わらせていた私はすぐさま教室を飛び出た。
まずは、寮に向かう。
廊下は走ってはいけないと生徒手帳に書いてある学園のルールに載っていたから、早歩きで。
第2体育館は今朝創也と第3体育館にいく途中で見たので場所はすでに把握済みだ。
寮から10分くらいと予想される。
急げ。急ぐのだっ。
「はぁ…はぁ…」
肩で息をしながら、第2体育館の裏で休む間も無く準備に取り掛かった。
汗がおでこを伝って流れるのを感じる。
だんだんと春らしく暖かくなっているから余計に暑い。
それでも、マジック成功のために。
観客に満足してもらうために。
無我夢中で準備を終わらせていく。
「はぁ、はぁ、できたっ」
間に合った。
あとは、荊野薫子が来るのを待つのみーーー。
プルルルル、プルルルルと準備が落ち着いた頃に携帯がなった。
創也か?
画面を確認してみると「テレビ男」の文字が。
この前番号を(半ば無理やり)交換させられたあと、仕返しとして電話帳の「不破間圭」の名前を「テレビ男」に変えたのだ。
心底電話に出たく無い。
今は呑気に電話などしている場合でも無い。
よって電話に出らずにそのまま電源を落とした。
きっと強引なテレビ男のことだ。
電話に出るまでかけ続けるに決まってる。
テレビ男のことは頭の隅から追いやり、代わりに頭の中で何度もシュミレーションを繰り返しながら観客が来るのを待つことにした。
「…あなたは荒木さん、で間違いないですわね」
最初は私かどうかわからなくて戸惑ったようだが、私だと分かると覚悟を決めたような表情を浮かべて、ストレートの腰まである髪の毛を風で靡かせながら荊野薫子と思われる女の子が複数の女子を引き連れてやって来た。
そうなのだ。私の今の格好は帽子に髪の毛を全て入れてある。出ているのは前髪のみ。履いているのがスカートでなければ男の子に見えるはずだ。魔術師キッドを参考にした女子に魅せる演出の一つである。
観客は彼女一人だと思っていたが、違うようだ。構わぬ。とくと私のSHOWを楽しむのがいい!
「レディース、エーンド、マドモアゼル!!」
「きゅ、急になんですの、この子」
突然の私の大声にたじろぐ荊野薫子とその仲間たち。
「可憐な花々からこの場によんで頂けたことに対し、まずは感謝の気持ちを込めて」
しゃがみこみ、カウントを開始する。
「スリー、ツー、ワン! ジュテーーーーム!!!」
呪文を唱えたと同時に立ち上がり、空中でミニ爆発を起こした。
ポムッ!、ポムッ!、ポムッ!、ポムッ!、ポムッ!
爆発マジックに使う材料の分量を変えて威力を抑えたミニ爆発マジックだ!
連続で可愛らしい爆発音と共にたくさんの花びらが出て空中に舞い始める。
女の子たちが花びらに呆気にとられている間に次のマジックに取り掛かる。
「可憐な花々に一番似合うのは、そう。笑顔!」
セリフを言いながら私に注目させた。
「ジュテーム!!」
呪文を言い終えると両手に突然たんぽぽの花束が現れた。ように見せた。
その花束を持って、荊野薫子と思われる女の子の元へと歩み出す。
「さあ、笑って。このたんぽぽの花のように。君の可愛い笑顔を私に見せてくれ」
たんぽぽを手渡しながら至近距離で顔をのぞいて優しく囁く。
これは師匠の魔術師キッドが女性の観客に対して行ったマジックで言っていたセリフをアレンジしたものである。
師匠は主に観客のターゲットを女性に絞っている節があるので、今回はそれも参考にさせてもらった。
「…」
たんぽぽの花束を無言で受け取りながら顔を赤らめる荊野薫子。
ふっふっふ。
師匠直伝のセリフだからか、やはり女の子ウケがいいようだ。
そしてしばらく、沈黙が辺りを包んだ―――。
おかしい。そろそろ感動のあまり涙をこぼすところなのだが。
「な…なんなの!」
沈黙を破ったのは感動の声ではなく戸惑いと苛立ちを含む声。
見ると、荊野薫子が連れて来た女の子たちの中のたて巻きロールの髪をした子が私を睨みつけながら叫んでいた。
「何と言われても、望み通りマジックを披露しただけだけど? 気に入らなかった?」
「気にいるも気に入らないも関係なくってよ! 私たちはマジックをみにここまで来たんじゃないわ!」
「じゃあ、何をしに来たの?」
マジックではないのか?
それとも恥ずかしくて照れ隠しか。
荊野薫子に代表でコソコソと手紙で呼び出させるくらいだしな。
「そんなの決まってるわ! 体育館裏に呼び出しよ!? あなたに言いたいことがあって来たの! 林道様と、風間様、それに火宮様。お優しいあの方達の代わりにね!」
なぜ創也たちがわざわざこの子たちに代弁を頼むようなことをするのか。
用があるなら携帯で聞けば済むことだろうに。
「直接それは私から本人たちに聞くから、必要ないよ」
「そういう意味じゃなくってよ! 頭が悪いようね。はっきりと言ってあげるわ。あなた、迷惑なのよ。林道様を独り占めして、さらには風間様と火宮様まで。今朝なんか、あの林道様におぶらせたり、風間様に荷物持ちをさせたり…彼らはあなたの従者じゃなくってよ! 林道様たちが困っているのがわからないのかしら?! いい加減解放してあげなさい! 庶民のくせに、身の程知らずにもほどがあるわ!」
私に対して何か不満を言っているのはすぐに伝わった。
迷惑。誰に対して?
身の程知らず。日本に貴族制度なんてあったっけ?
創也たちが困っている。私はそうは見えなかったが?
従者。違う。友達だ。
今朝のことは、創也の優しさが招いたことだ。
めちゃくちゃな言い分だなというのが話を聞いて最初に思ったこと。
私の何を不満に思っているのか全く理解できないが、一つずつ訂正しながら詳しく説明してもらおう。
「誰にとって私は迷惑なのでしょうか? それに、日本の憲法には全人類の人格的価値は平等だという理念が前提にあります。そんな日本で平等である私たちが誰と一緒にいようが問題無いかと。それに従者ではなく友達です。妙な言いがかりはやめてください」
日本国憲法はスキルを使って日本の「社会の仕組み」について調べている時に一度読んだことがあるのだ。内容が難しくて、100%理解できたかと言われるとNOだが、大まかな言いたいことはなんとなくだがわかった。
ちなみに日本に貴族制度は無いと知ったきっかけも憲法を読んだことだ。
「そんな大きな話をしているんじゃ無くってよ!! あなたさっきから生意気なのよ!! 林道様たちが構ってくださってるからってやっぱり私たちを見下してるのでしょう!!」
私の質問に答えてもいない。
ただの不満のはけ口にされているようにしか思えないので、早めに終わらせて帰るか。
まず、創也達が困っていると言っていたが、本人から聞いて知ったことなのだろうか?
創也はずっと私と一緒にいたから、そうじゃないことが分かる。
憶測で決めつけているだけのようだ。
それに、手紙には『一人で読むように』と書かれていた。
隣の創也には気づかれないように私をここに呼び出したかったからそう書いたのだと思う。
私のマジックをこっそり見たかったという理由では無いというのなら、なぜ気づかれないようにしたかったのか。
気づかれたらまずいことを適当な理由をつけて私に言う為だ。
よし、言いたいことを言って、ここはそのまま立ち去ろう。
「さっきからおかしいですね。困っている人がいたら、先にその人の話を聞いてあげるものだと思います。ここで私に喚いて、直接創也達に聞きにいかないのは、あなた自身が本当は創也達が困っていないと知っているからですよね? 困ってないと知っていて、困ってると言い張る。そんな滅茶苦茶なこと聞いている程、私は暇では無いので。これで失礼します」
「ちょっと!! 逃げるつも――」
「やあ、こんなところにいたんだね」
逆上気味に金切り声で喚く女の子の言葉を遮り現れたのはテレビ男だった。
「部活に関して伝えそびれたことがあってね。探したよ。お喋り中だったかな?」
最後は私に、ではなく。観客だと思っていた女の子たちに。
テレビ男の紳士のような微笑みを見て女の子たちは一気にほっぺを赤く可愛らしく染めると同時に今度は青くなった。
体調が急激に集団で悪くなったのか。
「いえ、お喋りは終わったところですわ。それでは、ごきげんよう」
荊野薫子の一声で女の子たちは、さあああっと波が引くようにいなくなった。
「よく私がここにいるとわかりましたね」
二人きりになったところで、一番気になることを聞く。
電源を切って電話に出なかったからここまで来たのか。
この広い敷地の中、私を見つけることができたという事実が怖い。
「まあね。知り合いに頼んでこの学園の中央管理システムをハックしてもらったんだ。そこの防犯カメラを使ってみっちゃんが映っている場所に車で来ただけだよん」
防犯カメラ。映像を常に記録させて犯罪を防止させる機械だったか。
それを乗っ取って勝手に使っただど。なんと恐ろしい。どこにいても居場所がバレてしまうでは無いか。
恐怖で慄いていると、ふと上履き捜索を思い出す。
「ひどいなあ。電源を切っちゃうなんて。まあ、おかげで面白いものが見れたけど」
こやつ、勝手にこっそりマジックを見てたな。
「で、本題に入るねえ。昨日言い忘れてたんだけど、今年の文化祭で部員が研究した結果を発表することになってるから、頑張ってね」
なんと投げやりな。
私だけ頑張れと言われているようでムカついたが、ここで取引をすることにした。
「そうなんですね。私、防犯カメラで確認したいことがあるんです。協力してくれたら、その代わり、研究を頑張って発表してもいいですよ」
どうだ。挑発的にテレビ男を見た。
「くっくっく、いいよお。今から一緒に確認する?」
よし! 言質はとったぞ。
「今日は帰って宿題を終わらせたいので行けません。明日の昼休みにお願いしてもいいですか?」
「じゃあ、昼休みに校舎の方の僕の部室においで? 待ってるから。…それと、次電話に出なかったら、後悔しちゃうよ?」
…ここは素直に頷いておこう。
それより、校舎にもテレビ男専用の部屋があるのか。知らなかった。
「あ、それと、今度僕にもマジック披露してよ。タネが気になるなあ」
テレビ男には披露したく無いと思ってしまうのは、やはり潜在的なところで彼を拒絶しているからか。
「機会があれば」
つまり、保留で。
そのあと逃げるように立ち去ったのは言うまでもない。




