体育館裏でマジックSHOW。のちに失踪、あれが。
今日も連続投稿ですが、時間差があります。
1/2話目。
マジックの準備よし。学校の準備よし。時間、ぴったり。
今日は早めに起きて準備をしたので、明菜とではなく風香と朝食をとった。
明菜にはそれについて昨日の夕飯に言っておいたので知っている。
寮を出るとすでに創也が待っていた。
他の女子生徒が皆創也に注目しているのがわかる。
女子寮の前に男子がいるとやはり目立つな。
「おはよう。待った?」
「おはよう。今来たところだ」
「そっか、じゃあ、行きますか!」
二人でバスケ部が練習に使っているという第3体育館に向かった。
「あんなマジックもできたんだな。この前見せてくれたマジックよりも難易度が上がってる気がする。怪我しそうで心配だよ」
「うん、気をつける! でも大丈夫。材料も危ないものではないし」
「そっか。マジック楽しみだな」
「へっへっへ。今回はちょっとアレンジする予定なんだ。楽しみにしてて!」
そんな感じで話していると目的地に着いた。
第3体育館はとても大きな建物だった。
中からキュッキュ、バコンッ、とリズミカルに音がする。
気になって中を覗くと、ジャージを来た男子生徒が茶色いボールをバウンスさせながらキュッキュと足元を鳴らして移動していた。
それを妨害するように前にはばかるもう一人の男子生徒。
お互い真剣である。
あ、失礼野郎だ。
投げられたボールを失礼野郎がキャッチして、高い位置にある底の空いたカゴにバコンと音を鳴らして投げ入れた。
「よっしゃっ!」
ガッツポーズをとる失礼野郎。
ふむ。これがバスケというやつか。
正式名称はバスケットボール出そうだ。
ボールの名前を球技の名称にするとは、ひねりのない。
それにしても、案外失礼野郎は上手い方の部類に入るのかもしれない。
さっきからボールをカゴに入れまくっている。
他より素早いし。勢いがある気がする。
バスケに関して最近知ったような、ど素人でもなんとなくわかるレベルだった。
あんな顔もするんだな。
いつものヘラヘラとふざけた態度は鳴りを潜め、真剣な表情で球技に集中する失礼野郎は別人のようだった。
いつもああなら、失礼野郎から卒業できるのに。
「どうした?」
そんなことをつらつらと考えていると創也が顔をのぞいて来た。
「失礼野郎が真剣な表情をしてると思って」
「…失礼野郎」
あ、うっかり頭の中での呼び名が口から出てしまったようだ。
気をつけよう。
「終わるまであと少しかかるから、それまでマジックの最終確認をしとこうかな」
第3体育館の裏側で少し広めのスペースを見つけた。
ここなら邪魔されずに披露できそうだ。
「バスケが終わったらみんなをここまで連れて来てくれる? それと、バスケットボールも一つ持って来てくれると助かる!」
準備中にマジックのタネを見せるわけにはいかないのだ。
マジシャンのプライドにかけてっ!
というわけで、創也にはこの場所までの案内役とお使いを頼む。
「わかった。終わったら携帯で連絡してから向かうね」
それもとても助かる。
「ありがとう!」
時間が来るまでマジックの最終確認に取り掛かった。
「よっ! 来たぜ!」
元気ないつもの調子に戻った失礼野郎が大声で話しかけて来た。
「バスケお疲れ。観客はそれで全員?」
「あぁ、俺の同期の奴らと先輩方とバスケ部の顧問の武田先生だ」
「面白そうなことをやるそうじゃない。けど、危ないと思ったら止めるからね?」
意外にも男子バスケ部の顧問は女性だった。
中年くらいでプロの母みたいな雰囲気を感じる。
「君が荒木道奈ちゃん? かわいいねえ」
「え、この子が爆発マジックすんの?!」
「ねえねえ、今度一緒に遊びに行こうよ」
失礼野郎がたくさんいるみたいだ。
そして距離感が皆おかしい。近い。
「みなさん、離れましょうか。時間もありませんし、早速マジックを披露してもらいましょう」
創也母直伝の笑顔付きの創也が先を促したおかげで離れてくれた。
「道奈、ほら」
「持って来てくれてありがとう」
創也からボールを受け取り、全ての準備は整った!
「では、始めます」
「「「わあああ!」」」
パチパチパチパチ!!
師匠の魔術師キッドの姿を真似ながら、堂々と振る舞う。
「ボーイズ、エーンド、マドモアゼル! まずはこのバスケットボールを浮かせて見せます」
ボールを地面に置いて、手をかざし徐々に浮かせているように見せる。
「「「うおおおおお!」」」
「それではいきます。スリー、ツー、ワン! ジュテーーーム!!」
ボフームッと呪文と共に爆発から出た煙で観客から見えない空間を作りそこでボールは回収。
ボールが爆発したかのように見せたのだ。
そして、爆発したところからたくさんの桜の花びらが現れて舞い始める。
前回の反省を生かし、散らかっても大丈夫な物を今回は使うことにした。
桜の花びらなら今の時期どこにでも落ちている。
よって片付ける時間を省けるのだ。
遅刻防止対策である。
桜の花びらがひらひらと舞うその光景はとても幻想的なものとなった。
観客もその光景に目を奪われているようだ。
今回は手応えを感じる。
「す…すっげえええええ!!」
「どうやったんだよ!?」
「本当に爆発した! ボールはどこだ!!」
「あらまぁ、桜の花びらがきれいねえ」
男子と女性顧問の見所の感想が違うことに気づく。
男女によって魅せるポイントを今後変えていったほうがいいかもしれない。
部屋に戻ってもっと考えよう。成功しても反省会は外さないのだ。
創也と目が合う。
未だ花びらが辺りを舞い散る中、どうだっ、という思いを込めてニッっと歯を見せて自信ありげに笑って見せた。
「――っ」
途端に頬を染めて顔を背ける創也。
え? は?
褒めてくれないのか!
創也のそんな反応に少し落ち込んでしまう。
「道奈ちゃん、すげえよ! ここまで本格的だとは思わなかった! 爆発マジック見せてくれてありがとな!」
白い歯を見せた爽やかな笑顔でお礼を言う失礼野郎。
ちゃんとお礼を言うことはできるんだな。失礼野郎なのにそこは全然失礼じゃない。
しかも褒めてくれた。いいやつだな。
ふむ、失礼野郎は卒業させてやるか。
「どういたしまして。また披露する時は教えるね!」
こちらも笑顔で次の公演の予定を伝える。
「おう! 楽しみだぜ!」
「はいっ、そろそろ戻らないとホームルームが始まってしまうから。みんな戻って、荒木さんはボールを返してね」
武田先生がパンパンと手を叩いて注目させながら、生徒たちを促す。
そうだ、モタモタしている暇はなかった、と思い出して武田先生にボールを返した。
「マジックよかったよ!」
「見せてくれてありがとな!」
「また見せてくれよ!」
風間涼の部活仲間たちと別れて、創也と風間涼の3人で教室へと向かった。
「あれ、上履きがない」
第3体育館と教室のある校舎からは位置的に移動するには一度上履きと外履きを変えなければならない。
今、私たちは靴箱で靴を変えているところなのだが、自分の靴箱に上履きがないことに気づいた。
「え、まじか。誰か盗んだんじゃねえ?」
私の上履きなど誰が欲しがるというのだ。
履いたばかりの新品ではあるが、使用済みのものである。
盗んで得をする要素が見当たらない。
「…誰が」
創也が怖い顔で私の靴箱を睨み出した。
怖いからやめてほしい。私の靴箱に罪はないのだ。
「これは…事件だ! やさぐれ刑事の出番だ!」
「「は(え)?」」
再度推理を使う時が来たようだ。
まず、やさぐれ刑事や探偵役は必ず鋭い観察眼で事件現場をくまなく調べる。
ふむふむ。なるほど。ほうほう。これはこれは。
「道奈、楽しんでるところ悪いけど、時間がないから、とりあえず教室に行こう」
あ、また時間のことを忘れていた。
そうだな、向かおう。
上靴はこの際なくても歩けるからいいかな。
「はい、乗って?」
創也が私の前で背中を向けてかがんだ。
「ん?」
「今からスリッパを取りに事務室までいく時間はない。でも女子に靴下で歩かせるわけにもいかない。だから乗って? 俺がおぶってく」
いやいやいやいやいや。
それはまたお世話焼きの創也らしい発想だが、なんと言うか、さすがに恥ずかしいと言うか、遠慮したいと言うか、パンツが見えてしまうと言うか。
「ヒュー、かっこいいねえ。創也が嫌なら俺でもいいぜ」
いや、その選択肢はもっとないから。
創也がかがんだ姿勢から微動だにしないことから、ここは私が折れるしかないようだ。
「じゃあ、教室の前で降ろしてくれるなら」
そう言って、そっと創也の肩に両手を置いて背中に乗った。
「カバンは俺に任せろ!」
風間涼は私のカバンを持ってくれた。
「ほわっ」
創也が立ち上がった拍子に体がより密着する。
意味のない言葉が出た。なんだ、ほわって。
「…ちゃんと掴まってて。行くよ」
創也が話すたびに声の振動が背中から伝わる。
それがそのまま今の距離感は異常だと表しているようで、思わず背中から体を離した。
「ちょっ、それ歩きづらい。…なるべくくっついてて」
最後の方は私にしか聞こえないくらいの声で。
落とされては堪らないので言う通りにした。
「創也、疲れたら言えよ。俺が交代しちゃる」
「いらない。全然平気」
創也たちが何か話しているが私はそれどころではない。
パンツが見えそうでしきりに後ろを気にしてしまう。
大丈夫だよね。大丈夫だよね。
後ろに人がいないのが幸いである。
日本の制服は私がいた世界の標準のドレスの長さよりもずっと短いのだ。膝よりもう少し上の短さに最初は慣れなかったが、そこはエルフ国に行ったらエルフに従え、日本に行ったら日本人に従え!の精神で慣れるように努力した。
だがこの状況はいただけない。こんな心もとない格好の時におんぶなんぞされてしまったら何かの拍子に見えてしまうではないか!
「なんとかホームルームには間に合いそうだな」
教室が見えてきたところで風間涼がカバンから携帯を取り出し、時間を確認した。
ちらりと覗くと8時26分。教室はもうすぐそこなので余裕で間に合う。片付けの時間を短縮できたのが大きいようだ。
「創也、もう降ろして大丈夫だよ。重かったよね」
教室の前についたので創也に降ろしてもらうように頼んだ。
「せっかくだから、机のところまで運ぶよ。隣だし」
話が違うぞ!
私が抗議する前に風間涼が教室のドアを開ける。
「はよー」
クラスに挨拶をしながら教室に入って行く風間涼に続いて私をおぶった創也も入る。
視線、殺気、殺気、視線、殺気、殺気、視線。
予想通りの大注目。
いつもなら放っておくのだが、なにぶんパンツが気になるので、そうはいかない。
すかさず創也の背中で顔を隠した。
今の唯一の助けは席が廊下側で教室の入り口から近いところにあるということだけだな。
「…ありがとう」
創也から椅子に降ろしてもらい、一応お礼を言った。
この状況を作った張本人だが、私のためを思ってのことなので、文句は言えない。
「どういたしまして」
良い笑顔だが、それが今は憎いぞ。
「ほら、カバン」
風間涼がボスっと音を立てて机の上に私のカバンを置いた。
「風間くんも、ありがとう」
こちらにもお礼を言っておく。
「良いってことよ。上靴見つかるといいな!」
それは後で推理して見つける予定だ。
「えー、おはようございます。えー、出席をとりますので、えー、席に着くように」
…ホームルームに遅刻はせずに済んだが、私はダメージを大きく受けた。
約一時間後、次話投稿予定。




