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カフェにて、日曜に約束


「じっちゃん!」


 店内に入るとすぐにじっちゃんを見つけた。

 やっと会えた嬉しさで、じっちゃんの元まで駆けて抱きつく。


「元気そうで何よりだ。道奈、制服似合ってるよ」


 ああ。じっちゃんの優しい声だ。


 電話だとやはり少し違うのだ。

 機械の隔たりのない声に触れてじんちゃんに会っているのだと実感がわく。


「ありがとう! じっちゃんに見せたかったんだ!」


「はっはっは。入学式ではびっくりしたよ。有名な先生の元で勉強できるなんて、さすが道奈だ」


「あらあら。まあまあ。道奈さんがこんなに甘えているなんて。お爺様のことが大好きなのね」


 あ、そういえば創也母もいたんだっけか。


「お久しぶりです、創也のお母さん。先日はありがとうございました」


 じっちゃんに抱きついたまま顔だけ創也母に向けて挨拶をする。


「ふふふ。何食べたい? ドリンクも選んでいいわよ。入学式が終わって疲れてるでしょう?創也も。学年代表のスピーチ、良かったわ。前のよりも情熱的で」


 言われた途端に顔が赤くなった創也。褒められて照れているのかな?


 創也母の口調から、創也の情熱的なスピーチ、相当良かったとみる。聞きたかったな。


「…別に。いつもと同じだよ。母さん、俺牛乳。あとランチセットBで」


「今日も牛乳ねぇ。メニューにないけど、頼んでみるわ。道奈さんは?」


 メニューにないのに頼むのか。やはりこの二人は常識が欠けている。


「私は麦茶で。ランチはAでお願いします」


 注文を創也母が店員に頼み終えたあと、私に向き直った。

 ちなみに、牛乳は頼めたようだ。ここの店のサービスはすごいなと思った。


「それで、今さっきまで道奈さんのお爺様とお話していたのだけど、今度私と道奈さんでお買い物に行くことになったわ。今週の日曜日の午後は空いてるからしら?」


 創也母とお買い物?


「何を買いに行くんですか?」


「それは当日になれば分かるわ」


 じっちゃんと話し合って、なんで私と創也母が買い物に行くことになったのか、さっぱり分からないが、何か理由がありそうだ。


 服…とかなら隠さずに今言ってくれるか。


 なんだろう。


 そう思ってじっちゃんの方を見た。


「行って来なさい」


 柔らかい笑顔でゆっくり頷くじっちゃん。


「わかった。創也のお母さん、日曜の昼の何時頃、どこに向かえばいいですか?」


「車でそちらに向かうわ。寮の前で待っててちょうだい。時間はそうねえ、12時はどうかしら。一緒にお昼を食べてからお買い物しましょう。お買い物は夕方には終わると思うわ」


「俺も行く」


「創也はダメよ」


「なんでだよ」


「男の子だからよ」


「はあ?」


「とにかく、今回は女の子のお買い物なんだから。創也はダーメ」


 創也母の言葉に、不満タラタラの創也。


 創也が女の子だったら一緒に行けたのにな。


 女の子の創也…想像がつかないな。

 想像はつかなくても、きっと優しい子だと思う。


「ドリンクをお持ちしました」


 創也母と創也が話している辺りで、店員が先にドリンクを持って来た。


 ふむ。この店の麦茶は三番目くらいに美味しいな。

 もちろん一番はじっちゃんの店の麦茶だ。


「道奈は毎回麦茶だな」


 創也が私の麦茶について触れてきた。


「うん。じっちゃんの店の麦茶を飲んで好きになったんだ」


 創也もじっちゃんの麦茶が好きであろう。出会ったきっかけも麦茶だったな。


「はっはっは、そうかそうか。今度帰って来たらたくさん飲むといい。たっぷり準備しておこう」


 じっちゃんが上機嫌になった。麦茶を褒められて嬉しいようだな。


「そういう創也は、最近ずっと牛乳ばかり飲んでるわねぇ。どうしてかしら?」


 今度は創也母がニヤニヤしながら創也のドリンクに対して質問した。


「それは…美味しいから」


「ふーん。そーう」


 ニヤニヤと楽しそうな創也母とは対照的に創也はとても嫌そうだ。

 まさに、息子をいじって楽しむ母の図、だな。


「創也くん、今週の日曜日、代わりに私と出かけてみないかい?」


 突然じっちゃんが創也を誘い出す。


 じっちゃんが。創也と。

 

 …珍しい組み合わせだ。

 一体何を話すのだ。

 創也母とのお買い物よりもこっちの方が気になる。


「え? 僕、ですか?」


 突然の申し出にキョトンとなる創也。


「ああ。創也くんとはゆっくり話をしてみたいと思っていたんだ。どうだろう」


「あら、いいじゃない。行って来なさいよ、創也」


「………僕でよければ。ぜひ」


 創也は私の顔を見てから、じっちゃんの誘いを受けた。


「でもじっちゃん、日曜日ってお店の営業日だよね?出かける時間はあるの?」


 定休日は毎週水曜日なのである。


「今日のように予め休むとお知らせしていれば大丈夫だ」


「まあ。お爺様、創也のためにわざわざお店を休まなくても。…そうだわ。創也をその日、お爺様のお店のお手伝いに向かわせましょう」


「は?」


 いきなりじっちゃんとのお出かけから、じっちゃんの手伝いに変換された事態に素っ頓狂な声が創也の口から出た。


「いえいえ、それは創也くんに悪いですよ。一日も二日も休むのは大して変わりありませんから」


「ふふふ、そう仰らず」


 創也母はじっちゃんにそう言った後、有無を言わせない笑顔で創也を見た。


「ね? 創也はそれでも大丈夫でしょう? それに―――」


 そしてそっと、創也の耳元に何かを呟く。


「…日曜日の昼頃、手伝いに向かいます」


 決心をしたような真剣な眼差しの創也。


「こりゃあ、参った。そんな表情で言われるとお願いしますと言うしかなくなってしまいますな」


「ふふふ。当日は息子をよろしくお願い致しますわ」


「こちらこそ。ありがとうございます。男身の私では世話をしてあげられない部分がどうしてもでてきてしまう。今回の申し出はとても助かりました。当日は道奈をよろしくお願いします」


 深々と座りながら創也母に頭を下げて感謝を示すじっちゃんを私は見ていた。


 その言い方だと、じっちゃんは男だから力不足だと言っているようなものではないか。そんなことない。私はじっちゃんにたくさんお世話になっている。そのことを知ってほしい。

 そう言う意味を込めて、もう一度じっちゃんに抱きつく。


「私はじっちゃんにたくさんお世話になってるよ? なりすぎてお返しに困っちゃうくらい。だから、そんなこと言わないで? 私はじっちゃんが男でも女でも。じっちゃんのことが大好きだよ」


 じっちゃんに私の思い、伝わっただろうか。

 そう思ってじっちゃんの顔を伺おうと上を見ようとしたら、



 ポスッ



 じっちゃんのゴツゴツした手が頭の上にのせられる。

 ゆっくりとゆっくりと撫でられて、じっちゃんの暖かい体温を感じた。


「道奈は優しいね。そう言ってくれるだけで、私は嬉しいよ。ありがとう。日曜日は楽しんで来なさい」


 うまく伝わったようだ。よかった。


「か、母さん急になんだよ」


「自分の息子をただ抱きしめたくなっただけよ? 何か問題でもあるのかしら?」


 創也たちの方を見ると、創也母が創也を抱きしめていて、その腕の中で創也が抵抗している。


「問題大ありだ! 人前で恥ずかしいからやめてくれ」


「あらいいじゃない。道奈さんたちはよくて私たちはダメなんて不公平だわ」


「それとこれとは違うだろうっ」


 創也母よ、創也の顔が赤いぞ。

 本当に恥ずかしいようだ。


「お待たせしました。ランチAセットとBセットです」


 わいわいやっていると、店員が注文を持って来てくれた。


 じっちゃんと創也母はすでに何か食べたようで、私と創也だけご飯を食べる。




 久々にじっちゃんの隣で食べるご飯は、創也たちのおかげでより賑やかに過ごすことができた。


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