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マジックと推理と暁人と、

3/3話目。


 学校でたくさんの人に出会うと言うのが、じっちゃんの望みであり、私の目的でもある。


 出会うのは簡単だ。話しかければ良いのだから。


 そこで一つ問題がある。



 周りと話が合うかだ。



 日本について大まかなことしかまだ調べきれていないのが今の現状。

 ここは私にとって異世界だ。同年代の子供達で流行っているもの等は、私の知らないものの可能性が高い。無理やり話を合わせて非常識のレッテルを貼られてしまうのは困る。



 よって、寮に移るまで情報収集をすることにした。



 今回は創也の意見を参考にテレビを使う。


 本当はパソコンを使った方が情報が簡単に集まると創也から言われたが、じっちゃんの家にはないので断念した。いつかはインターネットというやつを使ってみたいと思っている。


 入寮までまだ時間があるのでゆっくり調べよう。

 スキルは使ったり使わなかったりで。

 いらない情報まで集中して見たくはない。



 ――――テレビをつけてしばらく経つと気になる番組を見つけた。



『今日も美しく咲く花々に出会えたことに乾杯。感謝の印に早速一つ魔法お見せしましょう』


 キザっぽいセリフと共にキザっぽい男の人がキザっぽい仕草で、どこからともなく出してきた一羽の小鳥を指に乗せた。


『こちらの小鳥に手をかざすと、2羽。もう一度かざすと3羽。どんどんかざすと、ほらたくさん』


 体中、鳥まみれになったキザ野郎。


『この小鳥たちは僕の熱い熱い情愛でできています。その証拠に、ジュテーーーム!』


目を見開いてキザなポーズをとった途端に鳥たちは一瞬で赤い炎に変わり彼を包んだ。


『だから、僕に火傷しないように気をつけてくださいね?』


 そしてCMが入った。



「…か……かっこいい…!!!」



 なんだあれは! 中級の炎魔法ではないか!

 この世界に魔素はないはずだが。どうなっているっ!

  

 気になって新聞に載っている番組表で番組の情報を調べた。


『魅惑の魔術師キッドがお送りするマジックショー。今回は大掛かりな大脱出マジックを披露予定! 奇跡の瞬間を見逃すな!』


 マジック…。魔法とは違うのかっ、気になる!


 テレビで情報を集めていたことはすっかり忘れて、マジックを調べに図書館に直行した。

 ちゃんとさっきの番組は録画してある。マジックについて調べた上でゆっくり観る予定だ。


 マジックについて調べた結果―――。


 がっかりである。見せかけの魔法だった。


 だがしかし、その技術や発想は目を見張るものがある。タネや仕掛けをいかに人に分からせないように見せるかが肝らしい。先ほどのマジックも全く仕掛けが分からなかった。


 私もやってみたい。


 さっきの魔術師キッドみたいにすれば私もかっこいいマジックができるようになるだろうか。


 練習しよう!


 こうして、この日から私はマジックの練習に明け暮れることになった。



 ****



 いけないいけない、私としたことが。

 ついマジックに夢中になって日々の情報収集を怠ってしまった。

 これからは一日2時間くらいはテレビを観るようにしよう。



 ――――テレビをつけてしばらく経つと、また気になる番組を見つけた。



『どうせ俺は宿無しさ。だが、この血痕のつき方は自殺じゃぁねぇなあ』


『やさぐれ刑事、何かわかったのか!』


『推定死亡時刻は早くても昨晩の間。俺の天パのチリチリ具合から部屋の湿度は低め。こんなに乾燥した部屋なのにまだ血痕が乾いていない』


『と、言うことは!!!!』


『つまりは、誰かが乾かないように霧吹きを吹きかけたと言うことになる』


『一体誰なんだ! 血痕に霧吹きをかけたやつは! 許さん!!』


『まあ、落ち着いてください、刑部。いくつか確認したいことがあるので、少し行ってきます』


『わかった。君の推理はよく当たると評判だ。期待しているぞ』


 そうして場面が変わりドラマが進んでいく。



 ついつい最後まで番組を見てしまった。



「やさぐれ刑事、なかなかかっこいいな」


 私も推理をしてみたい!


 そういえば図書館に推理小説コ―ナが新しく開設されていたな。


 マジックが一通りできるようになったら、推理もしてみよう。



 そして日課となったマジックの練習に取り掛かった。



 ****



 予習、マジック、推理、じっちゃんの手伝い、を繰り返す平和な日々を過ごしていたら火宮暁人から電話があった。


『もしもし、荒木さん。久しぶりです』


 火宮暁人はこんな感じの声だったかなあ、と思い出す。


「もしもし、火宮さん。お久しぶりです」


『白椿のドライフラワ―ができたので連絡しました。今大丈夫ですか?』


「連絡ありがとうございます。大丈夫ですよ。いつごろ行きましょうか?」


『いえ、私の方から行かせてください。そちらの家まで行きますよ。住所を教えてくれますか?』


 そこまで言うのならお言葉に甘えよう。


「住所は――――」


 伝え終えた後に日時を決める。


「私は今のところ特に予定がないので、火宮さんの都合の良い日でいいですよ」


『では……今週の土曜日の夕方あたりでもいいですか?』


「土曜日ですね。夕方の何時頃かまだわからない感じですか?」


『そうですね。たぶんになりますが、遅くても7時にはそちらに到着できると思います。それよりも遅れる場合は先に連絡を入れますね』


「了解です。今週の土曜日、楽しみに待ってますね」


『私も楽しみです。それではまた土曜日に』



 私は敬語で話されると敬語で返してしまうのだ。向こうは誰とでも敬語で話す所為か、なんだか火宮暁人とは同年代と話している気がしない。だからといって私がどうこうする気もないのだが。


 お高いであろう立派な白椿をプレゼントしてくれるのだ。


 何かお返しがいるな、と考えながらいつもより長めに空を眺めた。




「こんばんわ、荒木さん」


 火宮暁人が微笑みながら車から降りて来る。


「こんばんわ。外ではなんなので、店の中にどうぞ」


 カランコロンと扉を開けて、暁人を店の中にいれる。


「雰囲気のある喫茶店ですね。家族で営んでいるのですか?」


 火宮暁人が店に入ると店内を見ながら質問してきた。


「そんな感じです。正確にはじっちゃんが営んでるんですけどね。今お茶出します。どうぞ座って待っててください」


「ありがとうございます」


 店のキッチンから麦茶をコップに入れて火宮暁人の元へと戻った。


「――それで、その紙袋に入っているのが白椿ですか?」


 白椿がどうなったのか気になって仕方がない私はお茶を出すや否や聞いてしまう。


「はい、早速見てみますか?」


「見てみます!」


 火宮暁人が紙袋の中から中くらいの箱を出した。テーブルの上に置き、ゆっくりと蓋を開ける。中からドーム型のガラスの入れ物に入った真っ白で大ぶりな椿が出てきた。


「綺麗…しかもまだ枯れてないみたい」


「ふふっ、シリカゲルを使ったので綺麗に乾燥することができるのですよ。ただ、衝撃に脆いので念の為ガラスのケースに入れました。部屋などに飾りやすくなったと思います」


 プレゼントにここまで気を使ってくれるなんて。紳士だな。


「ありがとうございます。ずっと大切にしますね」


 嬉しくなって自然と笑みがこぼれる。

 これでこの白椿も寂しくないだろう。今日からは私が一緒にいてあげるのだ。


「喜んで頂けてよかったです。プレゼントした甲斐があります」


「実はお返しに、私からも準備したものがあるんです。ちょっと待っててくださいね」


 自分の部屋に行って、昨日のうちに作っておいた、押し花の栞を持って戻る。


「はい、どうぞ! もらうだけというのは気が引けたので、作りました」


「え…私に、ですか?」


 信じられないとでも言いたげな表情で聞き返してきた。私はお返しもしないような図々しい人だと思われていたのか。少しショックだ。


「はい。あなたに。です」


 目をみてはっきりと言ってやった。私は良識のある乙女なのだ。


 火宮暁人がゆっくりと栞に手を伸ばして掴む。


「押し花の栞です。なんの花かわかります?」


 ふっふっふ。


 わからないであろうなあ。

 なんたって、私もわからない。


 森でいい花はないかと探していたら、この花を偶然見つけたのだ。

 可憐で小さな白い花が空を眺めているように見えて、一目で気に入った。


「一輪草ですね」


 わかるのかっ!


「昔々に地上を眺めていた星が、眠くなって地上に降りて出来たのが一輪草の誕生だという話があります。一輪草の姿が、空の星だった頃を思い出して、空を恋しく眺めているように見えることから、花言葉は『追憶』」


 ―――空を眺めているように見えたのはそういうことか。


 私みたいだ。


「そして、有毒性なので、くれぐれも口に入れないように」


 ギョッとして、火宮暁人の顔を見た。


 毒だと。私みたいだとは思ったが、毒の部分は違うな。私に毒はない!


「荒木さんは面白いですね。思っていることがそのまま顔に出てますよ」


 言われて顔に手をあてる。もろに感情が表情に出ていたようだ。思考を読み取られているみたいで、なんかいやだ。そう思ってほっぺたをグリグリと手でほぐす。


「ブハッ」


 ほぐしてたつもりが、変顔をしてしまったようだ。恥ずかしい。


 火宮暁人は顔を背けてプルプルと肩を震わせながら必死に吹き出すほどの笑いを堪えている。


 やはり火宮暁人のような紳士はどっかの失礼野郎とは違って抑えようとする努力はするのだな。そういうところは好感が持てる。時折マニュアル対応でつまらないが。


 火宮暁人の笑いが落ち着くまで、私は白椿を眺めた。


「ゴホンッ。失礼しました」


 無事に復活できたようで、何より。


「そろそろ時間ですので、帰ります。長居してすみませんでした」


「いえいえ、外までお見送りしますね」


 二人で外に出ると、車が待ってましたとばかりにライトをつけてドアの近くまで移動した。


「では、私はこれで。栞、ありがとうございます。大切に使いますね」


「こちらこそ、あんなに素敵な白椿、ありがとうございます。今度は学校で会いましょう」


「はい、学校で。おやすみなさい」


「おやすみなさい。気をつけて」


 手を振って火宮暁人とは別れた。


これにてこの章は終わりです。


ここまで付き合って下さった、またはブクマして下さった皆様、ありがとうございます。


この章ではストーリーの都合上、シリアスが多めとなってしまいましたが、重すぎにならないように気をつけていきたいと思います。


学園編ではコメディ要素強めになる予定です。それでも主人公の葛藤と成長の部分でシリアスが入ります(汗)


明日からは通常で毎日一話ずつ、時々二話ずつ更新予定。


拙い文章ですが、最後まで頑張るつもりです。よろしくお願いします。m(_ _)m

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