プチ冒険だ!
2/3話目。
スタスタと早歩きでテーブルに向かうと、また声をかけられた。
「よー、創也。さっきの見てたぜ?」
別の野蛮な子供1名現る。しかも男の子。茶髪で活発そうだ。
なぜかニヤニヤしている。
「ああ。涼もこのパーティーに来てたのか」
「まあな。ほんとはバスケの練習をしてたかったけど、なるべく出るようにって言われるてっから仕方なくな。それよりも、お前珍しいな。特定の女の子を側にいさせるなんて」
「この子は中等部から同じ学校に通うことになる荒木道奈だ。道奈、こっちは俺と同じA組の――」
「風間涼。これからよろしくな。てか君、超可愛いねー。その目はカラコン?」
カラコン。目玉に直接つける装飾品のカラーコンタクトの略称か。目玉に何か入れるという発想が怖いなというのが知った時に思ったことだ。
「道奈です。初めまして。カラコンはつけていません」
警戒。警戒。野蛮な子供とは関わらない方が身のためだ。無難な受け答えで済ませよう。
「へええ。珍しい色の目してんなー。ハーフ?」
風間涼がもっとよく目を見ようと私に近づいたところで、視界が肌色で埋め尽くされた。
どうやら創也が私の目の前を手で塞いだようだ。
律儀に私には触れていない。うむ、よろしい。
「レディに近づきすぎると失礼だ。って習わなかったか?」
ゾワッと創也側から冷たいものを感じる。寒さで鳥肌がたった。
「こええよ。わかったよ。近づかないから、その顔やめろ」
一瞬で冷気はおさまった。暖房が壊れているのか?
「あの創也が気にかける子なんて興味あるなー」
何か興味を引かせてしまったらしいが、スルーする。
早く会話が終わって欲しい。どんな料理があるのか気になってしょうがない。少しくらいなら味見してもいいかな? いや、一口も食べないと宣言した創也にそれは悪いな。それは私の良識が許さない。料理の名前だけ覚えておこう。
チラリとさっきよりも近くにあるビュッフェテーブルを見る。確かにたくさんの種類の料理があるようだ。料理名が書かれたプレートも置いてあるので助かる。
「この子、会話よりも食べ物って感じだな」
「ははっ、そうだな」
ふむふむ。よし、覚えたぞ。今度調べて創也と食べに行くか。二人がなんていってるかなんて気にせず、一人で食べ物チェックに勤しんだ。
「お腹空いた?」
創也が聞いてきた。
「ううん、大丈夫。料理の名前覚えてたの」
「覚えてどうすんだ?」
「調べて、今度創也と食べに行く!」
「俺も誘ってくれるんだ? 嬉しいなあ」
「いやいや、そんなの二度手間じゃん。なんで今食べないんだよ」
「今日は別に食べる予定のものがあるの。それを食べる前にお腹いっぱいになったら悲しい」
「へー。ちなみに何食べんだ?」
「それは―――ナイショ」
手で口元を覆ってもう話さないアピールをした。危ない、創也の前でうっかり話すところだった。
さっきまで警戒をしていたはずなのに、いつのまにか普通に話していることに気づく。風間涼という人は、野蛮と言うより誰とでもすぐに仲良くなれそうなタイプだな。
それにしても、ずっとただ創也の側にいるだけなんて退屈すぎる。さっきの女の子が言っていた白椿という花を見に行ったら少しは暇つぶしになれそうだ。本でしか見たことがないし、外なら空も眺められる。
「創也、白椿見に行きたい」
「白椿か。いいな。行こうか」
「それはもう少し経ってからの方がいいぜ」
「なんで?」
思わず私は聞き返した。
「まださっきの女子軍団がこっちを見てるからな。隙あらば狙ってる感じが怖いねえ。あれが可愛いって思える創也の頭はある意味すごいぜ」
「女の子たちはみんな可愛いくないか? それに彼女たちが見てるのは俺だけじゃなくて、お前も入ってると思うぞ」
「あああ、わざわざ言うなって、あんま考えないようにしてんだから」
風間涼は女の子が苦手なようだ。なら私も苦手と言うことか。気をつけよう。
そして、何か白椿を穏便に見に行ける方法はないか考える。
うーむ。あの子達に見られないように中庭に行けばいいのかな? …中庭の入り口は一つだけなのだろうか。
前の世界に住んでいた家にも中庭はあった。庭師が出入りする入り口と、客人が使う入り口と別れていたはずだ。白椿が有名なら、白椿を管理する人が出入りしやすいような所にもう一つ入り口があるかもしれない。
……確認してみるか。
「創也、ここの中庭の入り口ってあそこだけなのかな? 従業員用の入り口とかあったりする?」
「俺はあまりここに詳しくはないけど、ありそうだな。道奈、もしかして、そこから入ろうとしてる?」
「あの女の子たちに見られないように中庭に入ればいいんでしょ?」
「あははは、そこまでして白椿が見たいかよ。創也、この子面白いな!」
人をオモチャみたいに言うでない。失礼だ。反応してやるもんか。
「ウェイターの人に確認をとって別の入り口から中庭に入れるか聞いてみようよ。あと、この大きな建物の中がどうなってるのか見て見たいし。探検みたいで楽しいと思う!」
そう、これは探検だ。ワクワクしてきたぞ!
「ここのホテルのオーナーの息子が同じクラスメイトで友人なんだ。彼の親が今日の主催者だから来てると思う。聞くだけ聞いてみようか」
創也もなんだか楽し気だ。
「暁人のことか! 面白そうだな。挨拶とか終わってたから暇だったんだ。俺も行くぜ」
と言うわけで、しばらく3人で会場を動き回る。
その間も、たくさんの女の子たちからの視線が常に付いて来た。いや、視線と言うよりも殺気に近い。今のところ男の子よりも女の子の方が野蛮に感じる。
「いた! 暁人ー!」
風間涼がこのホテルのオーナーの息子――暁人――を呼んだ。
その人は眼鏡をかけていて賢そうに見える。なんでも冷静に行動する感じだ。主催者の子供だからか、女の子たちに囲まれていた。人気者だなあ。
でもよく見るとその人の表情は愛想笑いを貼り付けたような顔で軽くあしらっていた。
風間涼の声が聞こえたようで、私たちに気づいたのをこれ幸いとでも言う感じで、女の子たちから逃げるようにこちらに向かってくる。
「こんばんわ。パーティーは楽しめていますか?」
「お前と同じさ。挨拶が終わったから軽く逃げつつウロウロしてた」
「パーティーは今から楽しむ所だ」
気楽に話す風間涼と創也。この人とも親しい仲のようだ。
「そうですか。それで、そちらの方は林道さんのお連れ様ですか?」
やっと私と目があった。
「あぁ。中等部から俺たちと一緒の学校に通うことになってる、荒木道奈だ。道奈、この人がさっき言ってた、火宮暁人。俺と同じクラスの友人だ」
「荒木道奈です。初めまして」
この人は警戒しておくか迷う。野蛮人の要素が一つも見当たらない!
「初めまして、火宮暁人です。入試に合格したのですね。おめでとうございます。これから一緒に勉学に励みましょう」
マニュアル通りのような挨拶だと思った。
「それでお前を探してた理由だけど、ここって中庭があるだろ? 他の人に見つからないように入りたいんだ。別の入り口とかってあるか?」
風間涼が早速本題に入る。
「搬入用の入り口からなら中庭にいけますよ。それにしてもなぜそのような面倒なことを?」
「あー、簡単に言うと、今俺たちのことを見てる女子に気づかれないように中庭にある白椿をみるのが目的だ」
「まだよくわかりませんが、いいですよ、私もやるべきノルマは達成したので。付いて来てください」
やった! 探検開始だ!
前を歩く火宮暁人と風間涼の後ろをウキウキ気分で創也と付いていく。
「楽しそうだな」
「創也も楽しそうだよ」
「俺は道奈がいるから楽しいだけだ」
友達がいるっていいね!
従業員があたふたと出入りするドアを潜り、長い廊下を通る。
ドアが等間隔で設置されていて、そのドアの向こう側を想像して楽しんだ。
きっと秘密の部屋に繋がるドアがこの中に隠されているのだ。本当にそんなものがあるとは思わないけど、そう考えれば探検に臨場感がましてより一層楽しくなれる。
「ここが搬入用の入り口です。主に業者から届いた荷物を入れるので大きめに設計されています。ここを通ってすぐが中庭なので、もう少し付いて来てください」
ほうほう、勉強になります。
「ここに入んのは初めてだなあ。なんか普段見ない裏側の世界って感じがする」
「俺も初めてだ。滅多に見れないから貴重だな」
風間涼も創也も楽しんでいるようで何より。
「私は見慣れてますので、なんとも。ですが、同年代の方とここを通ると言うのは新鮮な気がします」
出会って初めてこの人は自分の気持ちを少し出してきた気がする。
さっきからずっとテンプレート通りの受け答えばかりで、つまらないと思っていたのだ。
そういえば、創也が他の女の子と話している時もそんな感じがしたのを思い出す。穏やかな微笑みで、無難に軽くあしらうような中身のない返事ばかり。
『今まで創也が女の子と話すときは、お花を相手にするような態度だったの』
創也母の言葉が頭によみがえる。これと関係しているのかもしれない。
考えに没頭していると、冬の冷たい風を肌に感じてはたと気づく。
いつのまにか中庭に着いていた。
少し文を修正しました。6月30日、2:14