パーティーにて。
連続投稿2日目の1/3話です。
途中からすぐに帰る予定なので、創也父と創也母とは別の車に乗り込んでパーティー会場へと向う。
「道奈、また触れてもいい?」
車内でこりもなく創也が言ってきた。
「さっきもそうだけど、仲良くなる為なのはわかるよ? でも、今みたいな忙しい時はしないほうがいいと思う」
「会場に着くまでまだ時間がかかるから、大丈夫」
私は大丈夫ではないのだ!
さっきは親睦を深めるために我慢していたが、またあの創也が出てきそうで怖い。
今日はもうあれで十分だ。ここは拒否の流れで行こう。
「今日はもうダメ!」
そして話を変えよう。
「そういえば、創也の格好似合ってるよ! いつもと違ってシャキッとしてるね」
「ありがとう。さっきは言いそびれたけど、道奈もすっごく似合ってる。綺麗だ」
「なんだか言い慣れてるみたいだねえ。ありがとう!」
「今日がもうダメなら、明日はいい?」
話を戻された。
「私がいいと思うまで」
怖い創也に立ち向かう勇気が貯まるまで。
「道奈にいいって思わせるように頑張るよ」
頑張らなくても大丈夫です。
「道奈、パーティーで注意することをいつくか伝えとくから、よく聞いて」
創也が真剣な表情になった。マナーについてとかかな。前にいた世界とあまり違ってないといいけど。
「俺と同じように親に連れられて来る子供も会場にはたくさんいるはずだ。中には同じ学校に通う子もいて、挨拶をしに来ると思うけど、なるべく近づかないように。特に男子には警戒して欲しい」
…警戒するほど野蛮な子供たちなのだろうか。パーティーなのに、とても心配になってきた。
「でも、俺の側にいれば大丈夫。俺が守るから」
私の不安をなだめようとしてか、創也が頭を撫でようとそっと腕を伸ばして来た。
すかさず手で払いのける。
「今日はもうダメって言ったよ」
「撫でるのもダメか。残念」
空きあらば触ろうとするんじゃない!
今度こそ話を変えてやる。
「パーティーにはどんな料理が出て来るかな?」
「ビュッフェ形式だから色々な種類のものがあると思うな」
あ、創也のお礼!
「創也、パーティーではあんまり食べないでね? むしろ、何も食べないで?」
「え、それはさすがにお腹空くかな」
「早めに抜け出すんでしょ? じっちゃんの店で私がお礼を渡すまで食べないで、お願い!」
「……お礼は食べ物なんだ?」
「そう。でもそれ以上は内緒。楽しみにしてて!」
今頃煮汁をもっと吸い込んで美味しくなっているはずだ。
「わかった。会場では絶対に一口も食べない」
逆にそこまで真剣に返事をされて困ってしまったのも内緒である。
そんなこんなで、車が会場に着いた。
車から降りる。一つ前にある車からも創也母と創也父が降りて目が合った。
創也父は昨日ぶりだ。
「やっぱり可愛いわ! 昨日頑張って見立てた甲斐があるわね!」
「こんばんわ。今日は一段と可愛いね。妖精のようだよ」
きゃっきゃと乙女のように騒ぐ創也母と、穏やかな笑みで褒めてくれる創也父。
この夫婦は今日も通常運転のようだ。
「創也のお母さん、何から何までして頂いて本当にありがとうございます。創也のお父さん、こんばんわ。今日は一段とかっこいいですね」
「ありがとう。レディに褒められて嬉しいな」
少し寂しそうな創也父。どうしたのかな?
「さて、早速会場に向かおう」
寂しそうだった表情は一瞬でなくなり、穏やかだが底が深い笑みに変わる。
商談に行く前のお父さんのようだと思った。
「道奈、はい」
私に向けて肘を近づける。この腕を掴めと言っているようだ。
にぎっ
「ははっ、違う違う。こう」
右手で腕を掴んでみたら笑われた。違ったようだ。
創也は私の左腕を創也の右の腕に絡ませた。
「俺がエスコートするから。そのまま腕を離さないで」
言われた通りに、創也から離れないように気をつけよう。
前の世界で礼儀作法は一通り習っていた。目的は貴族とも対応できるように、だそうだ。
既にエスコートの仕方が違うことに少しだけ戸惑ったが、私はまだ子供の部類に入る。創也もフォローしてくれるだろう。私の知っているマナーが日本でも通用するか分からないが、その時はその時だ。
背筋を伸ばして顎を引く。目線はまっすぐ前へ。堂々と、優雅に。指先まで神経を集中させて、流れるように歩いていく。表情は常に花のような笑みを。
前の世界で礼儀作法の先生から言われた言葉を一つずつ思い出して実行する。
表情筋が持つことを祈ろう。
会場の中に入ると、一気に視線が集まるのを感じた。そして、次から次へとひっきりなしに創也父と創也母の元へ人が挨拶をしに来る。二人とも先ほどとは雰囲気が違って、完璧な貴婦人と紳士に見えた。
しばらく創也も創也父と創也母と一緒に挨拶の対応をしていた。私にもついでとばかりに話しかけられたが、そこは創也が上手く対応してくれて私は終始微笑むだけだった。
挨拶を一通り終えて落ち着いた頃、どんな食べ物があるのか気になって創也に頼んでテーブルに向かうことにした。
「林道様、お久しぶりでございます」
向かっている途中で複数の女の子から引き止められた。代表で真ん中にいる女の子が話しかけてくる。心なしか皆、狩人を思わせる目をしていた。野蛮というのはこういうことか。
「久しぶりだね。五十嵐さん」
私と最初に出会ったばかりの頃のような、柔らかい態度だ。
「この前の別荘のパーティー以来ですわね。いつのまにか帰ってしまわれてひどいですわ。私、林道様の好きなステーキをとってずっと待っておりましたのよ?」
「そうなんだね。急に体調が悪くなってその日は早めに帰ったんだ」
「まあ。そうでしたの。そういえば、ここは中庭にある白椿が綺麗で有名だそうですわ。よろしければ、私たちと一緒に見に行きせんこと?」
「申し訳ないけど、遠慮しておくよ。それじゃあ、僕らはこれで」
「まあ、そんなことおっしゃらず、一緒に行きましょう?」
創也の腕を掴もうとした女の子の手をひらりと交わして、そのまま食べ物が並べられたテーブルに向かう。
「お待ちになって!」
ほっといていいのだろうか。野蛮な子供と聞いてたから警戒していたけど、言葉遣いがどこかの令嬢みたいだ。
そう思って、ちらりと彼女たちを見ると、狩人の目から殺気のこもった目に変わる。ターゲットは私か。捕らえるつもりではなく、殺しにかかるつもりのようだ。これは怖い。本当にパーティーにやって来たのか疑わしくなる。
ここは我関せずを貫いた方が良さそうだなと判断して、私たちはスタスタと早歩きでテーブルに向かった。