表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/95

家族ごっこ

この章の終わりまで書き上げたので、今日から3日間、3話連続で投稿します。

3日後には中等部編に進ませる予定。

もうしばらくお付き合いください。m(_ _)m

1/3話目。


「ふーん。創也、数ある店の中、カレー屋にしたのには何か理由があるのでしょう?」


 創也母が断定的に創也に問う。

 

 今は、4人掛けのテ―ブルに3人で座って店員さんが水を持ってくるのを待ってる所だ。

 私の隣に創也。正面に創也母がいる。


「この前イタリアンのレストランで一緒に食べた時、道奈は初めて食べるものとか、珍しい料理に興味があると思ってここを選んだんだ。道奈、カレーは何種類食べた事ある?」


「え?! カレーって一種類じゃないの?!」


「グリーンカレーやキーマカレー、他にもたくさんあるから選び放題だ」


「すごい!カレー好きだから、すごく期待」


 カレ―を初めて食べた時は、その日に未知のスパイスの虜になったものだ。


「久々にカレーを食べるのもいいかもしれないわね。――あら、ちょうどいいところに。こちらよ、創次郎さん!」


 創也父が到着したようだ。


「待たせたかな?」


 そう言って創也母のほっぺにキスをする創也父。私の両親もよくやっていたな。


「君が創也が言っていた道奈ちゃんだね? 初めまして、創也の父、林道創次郎です。妻の結衣子(ゆいこ)がお騒がせしてしまったようだね」


 最後の方で少しだけ困ったような笑顔で言ってきた創也父は、創也を大人にしたらこんな感じかなって思うくらい似ていた。話をした感じだと、この中で一番まともそうだ。創也のめちゃくちゃな性格はお母さん似なのかもしれない。


「いえ、おかげでとても有意義な時間を過ごすことができました」


「うふふふ、創次郎さん、今日は1日、道奈さんは私の娘なの」


「おや、それはつまり。今は私の娘でもあるんだね」


「父さんまで…はああああ」


 隣から本日二度目の大きなため息が聞こえる。


「私の事は『パパ』と呼んでほしいな」


 創也父の期待のこもった目線には敵わぬ。

 う―ん、創也母にするような言い方でいっか。


「うん、パパ!」


 今日は()()に、お母さんとパパと兄弟ができた。

 どんどん一人ではなくなっていく。


 ミリエルとは大違い。


「…娘もいいね。もう一度頑張ってみようか。結衣子さん」


「まあ、創次郎さん! …やだ創次郎さんたら。こんなところで言わなくても…」


 ほっぺを赤めて恥ずかしがる創也母は現役の乙女のようだ。

 まぁ今でも十分若く見えるのだが。


 いやいや言いながらも創也母は内心とても嬉しいのだろう。

 表情と言動があっていない。


「目の前でいちゃつくのは勘弁してくれ。ただでさえ道奈と二人で食べる予定が狂ったのに…」


 おおう、創也よ。家では案外ズバズバ言うタイプですな。


 まぁ、そんな3人は置いといて。私はどのカレーを食べるか真剣に決めることにする。


 グリーンカレーはルーが緑色をしているからグリーンカレーと呼ぶのかな? 写真を見る限り緑には見えない。なぜ『グリーン』カレーなんだ。気になる。


 キーマカレーも美味しそうだ。これは固形のカレーと考えてもいいだろうか。スープが全くない。一体どんな味なのか。こちらも、気になる。


 なにっ、ココナッツカレーだと。ココナッツというのはヤシの木と呼ばれる地球の南の国に多く生息する木になる実の事か。よくデザートに使われると知っているのだが。デザートをカレーに入れるとは。邪道だ。だからこそ、気になる。


 …結果全部気になるのか。


 目移りしすぎてしまい、これでは決められない。


「ははっ、そんなに難しい顔して悩まなくてもいいのに。カレーで真剣になるなんて可愛いなあ」


 創也はもう決めたような口ぶりだ。


「いつまた来れるか分からないもん。だから全部気になって選べない…創也は何にした?」


「今度また来ればいいさ。俺はこのキリマンジャロカレーだな。鍋にカレーが入っていて若鶏を丸々一匹使ってるやつ」


「それも美味しそう!」


「なら半分個しよう。そうすれば一気に2つのカレ―が楽しめるよ」


「いいの!?」


「あら、お母さんのも食べていいのよ?」


「パパのビーガンカレーもいいぞ」


「やったあ! ありがとう! じゃぁ私は…このココナッツカレーで!」


 怖いもの見たさであえて邪道を選ぶ私。今は冒険したい気分なのだ。


「辛さが選べるけどどれくらいにする?」


 創也が尋ねてきた。辛さを選べることができるのか、ここは。


「んー、普通くらい?」


「こういう店はその国の普通で出してきたりするから気をつけた方がいいよ。俺は毎回どれくらい辛いか聞くようにしてる」


「え? 国によって普通が違うの? 同じ世界なのに?」


 普通とは、皆が共通して当たり前だと思うものを普通と呼ぶのではないのか。国によって違う「普通」は「普通」とは言えないぞ。


「この世界にいる全ての人にとっての『普通』の辛さで注文すると、カレーを作る人側からしたらとても難しいだろうね。私が辛いと思う辛さと、道奈ちゃんが思う辛さ。今まで好んで食べて来たものが違うなら、お互い味覚も違うと思わないかい?」


 ふむ。それは前の世界で私が美味しいと言って食べたお菓子をお父さんは「甘すぎるから苦手だ」と言っていたことと同じようなことか。


「同じ国にいる私たちでも、辛いと思う辛さが違うから、カレーを作る人が自分たちで辛さの『普通』を決めてしまえば作りやすくなるんだ。つまり、ここでの『普通』の辛さというのは、この店の人が決めた『普通』だから、人によって辛すぎると感じたりすること起こってしまうんだよ」


 創也父が丁寧に説明してくれた。


 カレーを作る人の立場は考えてなかったな。


「そっか。カレーを作る人も大変なんだね。説明わかりやすかった! ありがとう、パパ」


 創也父が返事の代わりに柔らかい微笑みを返してくれた。


 笑うともっと創也に似てるな。

 だが、創也父の方が常識人だ。創也に少しその常識を分けてあげられないものか。




 その後も和やかに話をしながらカレーを美味しく食べた。


 どれも美味しく、同じカレーでも味が違って不思議になる。

 ココナッツカレーは予想を大きく裏切り、デザートの要素が皆無のカレーだった。

 まろやかでコクのある風味が癖になる。冒険して正解だな。


 いつもはじっちゃんと二人でご飯を食べていたが、こうして久しぶりに複数の人と食べることができてとても楽しかった。


 じっちゃんはもうご飯は食べ終わったのだろうか。一人で食べるご飯は寂しいと思う。



 この楽しさを分けてあげたい。



 このカレ―を持ち帰って明日じっちゃんにも食べてもらうのはどうだろう。


「急に考え込んでどうしたのかしら。デザートが欲しいなら遠慮なく言ってちょうだい? 一緒に食べましょう」


 デザートは魅力的だが、考えていたのはそれではない。

 そうではないと首を振る。


「ううん、じっちゃんにもこのカレー食べて欲しいなって思ってただけ。これって持って帰ることできるかな?」


「確かできたはずだよ。なんだったら新しくお持ち帰り用で頼んだら? 道奈のお爺さんは辛いもの大丈夫?」


 そうだな。食べかけよりも新しいものがいいだろう。お金もじっちゃんから多めにお小遣いをもらったのだ。大切なお金だけど、使うぶんの価値はあると思う。


 創也の提案を受けることにした。


「そうするよ。じっちゃんは辛いの苦手だったと思う」


 せっかくだから、ココナッツカレーともう一つまだ食べたことがないカレーを頼もうと考えていると正面の二人から暖かな眼差しを感じた。


「道奈ちゃんはお爺さん思いなんだね。お爺さんは幸せ者だ」

「そうね。きっと喜んでくださるわ」


 うん。喜んでくれたら私も嬉しいな。今日ご飯を一緒に食べれなかった分のお詫びも込みだ。


 結局、私はココナッツカレーとキーマカレーを持ち帰り用に頼んだ。


 代金を創也父が全て払おうとして、一悶着した後、お持ち帰り用だけ私が払うことになった。


 自分の娘の分を払うのは当たり前だそうだ。後、合格祝いも含まれてるそう。この言葉に私は弱い気がする。


「今日はもう遅いし、このままうちで泊まって行きましょう?」


 駐車場の車の前で創也母が名残惜しそうに言ってきた。


「じっちゃんが待ってると思うから。嬉しいけど、やめとく」


「遅くまで引き止めて心配しているかもしれないな、申し訳ない。結衣子、道奈ちゃんとは明日の夕方も会えるのだから、そう困らせてはダメだよ」


「じっちゃんには遅めに帰るって言ってあるから、そこは大丈夫だと思う。――今日はありがとう! とても楽しかった」


 本当に楽しいと思ったから、とびきりの笑顔で思いを伝える。


「私も夢のような1日で楽しかったわ。また一緒に出かけましょう。ドレスはこちらで預かっておくわね。明日、家にいらっしゃい。準備を手伝ってあげるわ」


「私も楽しかったよ。道奈ちゃん、明日のパーティーでまた会おうね」


「うん! また明日!」


 そう言って創也母と創也父は車に乗って先に帰って行った。それまで私は車に向かって大きく手を振り続けた。


 残された私と創也も車に乗ってじっちゃんの家に向かう。

 創也が店まで見送りをしてくれるそうだ。


「今日は予定が色々と変わってしまったけど道奈が楽しめたなら、もうそれでいいかな」


「人生は予想外で溢れてますからなあ」


 異世界から落ちたりね。


「俺たちも行こっか」


「うん!」


 初めての『都会』は予想外なことがあったおかげか、途中から緊張せずに楽しめた。


 そんな風に今日のことを振り返りつつ、じっちゃんの店に着く間、車の中でも創也と今日のこと、明日のこと、学校のことなどを話しながら楽しく過ごせた。






 じっちゃんの店に帰った後。

 私はベッドの上に寝転がって今日を振り返る。


 ぜーんぶ振り返った結果、1日限定の家族ごっこは嫌ではなかったけど、―――もうしたくないな、っていうのが正直な感想だ。



 気持ちを切り替えるように、寝返りをうってから、明日のお礼の準備について考えることにした。


 内緒にしているが、実はじっちゃんにも渡すお礼を考えてあるのだ。


 1、創也とじっちゃん、後お世話になったお医者さんに渡すお礼の準備を朝から開始する。


 2、昼までに、じっちゃんとお医者さんにお礼を渡し終える。


 3、その後、迎えにきた創也に連れられて夕方からパーティーへ。


 4、早めに抜け出してじっちゃんの家で創也にお礼を渡す。



 明日のためにも、今日はこのまま寝ることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ