9th album: Real days / Shining tomorrow
「そうですか。はい。ありがとうございます。失礼します」
彼が電話を切った。
「シュガー、どうだった?」
今日は燈梨だけがオフィスにいる。ちなみに、シュガーとは彼に付いたあだ名だ。苗字が佐藤だから。犬っぽくて彼をおちょくるにはちょうど良い。
彼は私がシュガーと言うと「やめろ」とか言うけど、燈梨には何も言わない。曰く、「俺はディレクターだから」だって。
「まだ見つかっていないそうです。遺体も」
海の両親探しはまだ続いてる。今日も収穫はなかった。半分諦めようとしてる私もいる。
やっと落ち着いたSCBから2-Aスタジオを借りることができた。海はまだ戻ってこない。本人は大丈夫だと言ってるけど、彼が頑なに休ませてる。私も今の海には休んでてほしい。
『Real days』は海、鏡子、燈梨の3人で歌うように歌詞が作られたが、海を除いた2人で練習が始まった。ホラーな曲調で、特にサビの部分は漢字しか出てこない。タイトルはそんな感じしないのに。
スタジオは葉月たちに任せて、私たち3人は海のアパートに行った。
「うみちゃん! 燈梨だよ!」
燈梨がインターホンを押した。海はすぐに出てきた。目が赤い。
「新田さんと佐藤さんも。ありがとうございます」
私を苗字で呼ぶのはmoonでは海だけ。とても久しぶりに苗字で呼ばれた気がした。
しばらく玄関で立ち話した。家には入れてくれなかった。
「あの、まだ練習に参加してはいけませんか?」
「はい。精神的にお疲れでしょうから」
「いいえ」
海は参加したいと言った。
「むしろ歌って忘れたいんです。一瞬でも、現実を」
彼は少し考えた。何となく悲しそうな顔に見えた。
「わかりました」
明日から海が復活することになった。
帰り道、燈梨が聞き慣れない歌を口ずさんでた。『Shining tomorrow』という歌らしい。やっぱり燈梨の歌はテンポが速すぎると思う。
キラキラピカピカ 輝けあした
誰かの希望を見つけるライト
キラキラピカピカ 輝くみらい
昨日なんかは影にして