6th album: Keep your passion / Lost all, got all
「疲れた」
ニューヨークから帰って、私たちは埼玉での活動を再開した。
「昨日帰ってきたばっかりだからね。私も疲れてる」
「唐魏野さん、完璧主義な感じがするんだよな」
バレンタイン特集の番組で使うデータを集めながら彼が言った。
「そう?」
「そう。だいたい、純日本人にそう簡単に完璧な発音で英語話せる奴なんていねえよ」
「私は海の英語も聞き取れなかった」
海は単語をひとつひとつ区切ってしっかり発音していた。本来の英語は音が繋がり、単語がはっきり聞こえないことも多い。
「ところで、何聞いてんの?」
彼は白いイヤホンを耳に挿している。
「これ? 『Keep your passion』」
「新曲?」
「新曲。久しぶりに5人で歌ってる。今度はクラシックだって」
「よく毎度違う曲にできるよね」
「それも唐魏野さんのこだわりらしい」
「へえ、そうなんだ」
「根本さんが言ってた」
「葉月が? どうして?」
「作詞は辻さんで、作曲は根本さんがしているそうだ。いつも違う曲を要求されるから大変だって漏らしてた」
「へえ。大変なんだ」
私は作曲なんてしたことない。葉月がパソコンで作曲してるのは見たことあるけど、大体の音は出せるからそんなに大変そうには見えなかった。私が素人だからなのかな。
「今日はライブだったっけ」
「そう。いつもの劇場」
「劇場って言えないくらい狭いけどね」
「唐魏野さんが新曲歌うって言ってたな。行ってみる?」
「また新曲? ペース早いね」
私たちはmoonがライブを行っている小さな劇場にやってきた。ちょうど海の新曲『Lost all, got all』がサビに入ってた。
いつか全てを失って たった独りになったとしたら
また掴むことはできるかな
いつか全てを いつかっていつなの?
わかったら許してもらえるかな
軽快で明るいメロディには、歌詞が合ってない気がする。まだ立ち直ってないのかもしれない。海って、けっこう失敗を引きずるタイプなんだ。
「よかった。お客さんはけっこういるな」
客席の端で拍手を送りながら、彼はそう言った。確かにお客さんは割といる。moonのステージを楽しんでくれる人はいるようだ。私も少し安心した。