5th album: I love... / Japanese spirit
この話より高機能執筆フォームを使っております。多少読みやすくなっていると思います。
「では、『アイラブ』は唐魏野さんと志村さんがボーカルなのですね」
また新曲だ。今回の『I love…』はジャズっぽいメロディで、ニューヨークの夜景を歌っている。
「そうなのですが、実はニューヨークの夜景をこの目で見たことはないのです。映像や写真だけでは少し不安です」
「そうですか」
彼は少し考えて、こう言った。
「じゃあ行ってみますか。ニューヨーク」
羽田空港。
「何も今日いきなり行くことないでしょ!」
私は叫ばずにいられなかった。時計の針は午後1時になろうとしていた。
「どうせ暇なら良いだろ」
確かに暇だけどさ。
「でもみんなよくパスポート持ってたね!」
「そら、そうよ」
「はい……?」
「基奈のよくわからない野球ネタは置いといて、もう搭乗しますよ」
「それ野球のネタなの?」
moonは元気そうだ。
機内では私と海以外みんな寝た。彼なんか離陸する前から寝ていた。もしこの飛行機が事故ったら死ぬな、コイツ。
ケネディ空港。ニューヨークはまだ昼だ。日本は真夜中のはず。私と海はとても眠たかった。
「夜になるまでどうしましょうか?」
彼が言うと、海が右手を挙げた。
「はい、唐魏野さん」
「私の歌がアメリカ人にちゃんと理解できるものか確認してみたいです」
というわけで、みんなでタイムズスクエアの隅にラジカセを設置した。曲名は『Japanese spirit』。英語の歌詞は私には理解し難かった。
Yes! We are living in my country.
African, British, and Chinese.
No! Earth is only one ball.
Because I have Japanese spirit.
サビの最後のフレーズは2番で『Asian spirit』さらに最後は『World spirit』へと変化する。
歌を聞いたニューヨーカーの反応は、あまり良くなかった。三味線のベースが受けなかったのだろうか。それとも、海の発音が違ったのだろうか。そもそも英語を間違ってたとか。
ホテルで反省会をした。
「何があかんかったんやろな」
「私の英語力不足です。すみません」
「いえ、ネイティブスピーカーでもないと完璧に発音することは難しいと思います。多少は日本語の訛りが入っていても良いと思いますよ」
「でも……日本でもアメリカでも受けなかったね……」
鏡子が話すとテレビから妖怪が出てきそうな気がする。
「まあ、簡単に世界レベルの歌を作ることは無理でしょう。まず日本の埼玉県から地道にやらないと」
「そうだね。海は時々急ぎすぎるというか、目標が高いというか」
「だめなの?」
葉月の言葉に海が反応した。
「目標が高かったらだめなの?」
「いや、そうじゃなくて」
「私はがんばろうとしてるのに、がんばるのはだめなの?」
「え、えーっと」
「夜です」
畳み掛ける海を彼が止めた。
「言い合っても始まりません。夜景、見に行きましょう」
ニューヨークの夜は、カクテルの氷のように冷たかった。