4th album: Girls have no rival / High speed life
「あけましておめでとうございます」
あっという間に年が明けた。1月1日。私たちテレビ局員にとってお正月は休みじゃない。彼も私も特番の準備で大忙しだ。
「今年もよろしくお願いします」
やっぱり彼とリーダーの海は敬語。
「ところで、新年早々で恐縮なのですが、例の件はどうでしょうか?」
新年の挨拶に引き続き、海が切り出した。例の件というのは今年最初の新曲『Girls have no rival』のPV撮影のことだ。お客さんがサイリウムをゆっくり振れるリズムになってる。どこの事務所にも所属していないmoonは何でも自力でやらなきゃいけない。そこでテレビやビデオ関連の仕事は私たちが何とかすることにしている。
「大丈夫。SCBのカメラ使えるって」
昨日、彼が局長に掛け合ったらすぐOKが出た。一度「全面的に協力する」と言った手前、拒否するのは難しい。
『Girls have no rival』は海、鏡子、燈梨の3人で歌われる。葉月と基奈は完全にダンスしかしない。
翌日。彼と例の3人はPV撮影のため西武ドームへ向かった。
「基奈、明日の天気わかる?」
葉月が明日の確認をしている。一方の基奈はソロの新曲を練習中だ。
「さーよ、知らん」
「さーよ?」
私は聞き慣れない言葉に反応した。
「ああ、うちよお分からんわ」
大阪弁だ。無理矢理言い換えた感じがする。
「ねえ基奈、あなたもしかしてキャラ作ってる?」
基奈は笑ってごまかした。
「少し、話聞いてくれる?」
基奈が来た。葉月がスタジオを出たら急に静かになった。
「うちな、大阪と和歌山で育ってん。せやから、どっちの方言も喋っとるんよ。でもどっちかに統一せんと、嫌がる人もあるやん? だから、大阪にしよ思て、でも和歌山も出てしまうんよ……しょーもないな、方言なんかでこんな悩むなんて」
私は方言が少し羨ましい。東京生まれ東京育ちの私に方言はない。
「お茶持ってきたよー」
葉月が戻ってきた。
「おおきに。葉月」
「ありがと」
ここに彼はいない。私は気の利いたアドバイスもできないのか。少し悔しい。
「ところで、どのくらいできた?」
そう言えば葉月は訛りがない。私と同じ東京育ちだからか。
「もうできたで。聞く?」
「うん。聞かせて」
タイトルは『High speed life』。子守唄を意識している。また、歌詞には関西の方言が入っていることも特徴のひとつだ。大阪、兵庫、京都……。奈良を中心にひと回りして、最後が和歌山。
胸が痛むの なえやろな