家の前の道
幸せはうつろいやすいから 子供の方に手を置く
父親は思い出している 若い日の親父の姿を
大きな夢を追いかけながら 坂道を駆け上がっていく
かたちから入る幸福もあり それがいいこともある
暖かく愛に満ちた 一枚の写真だよ
「一枚の写真」
無難な微笑みの中で 何を問いかけもせずに
正しくないからこそ 腹から笑えたりする
道徳は時に喧しく 私は、無視を決め込む
悪意は何処にでもある 誰の心の中にも鬼は住む
許すことなど 息を引き取る時まで、ない
深く、恨み続けて それも真実の感情
落ちぶれた友には 手も金も、差し伸べず
低俗な繋がりならば 少しも必要はない
それは最終の鐘を鳴らす そんな人々。
「最終章」
道を間違えたとしても 知らぬふりのまま
それでも良いのであろうと 理由のない自信
狂った春のタンポポで 陽気に酒を喰らう
父の顔も朧気になり 己は老体の入り口
続くものや残すものに それほどの気負いもなく
穏やかな日々の連なりに 頬をほころばせる
「春の酒」
何千年かけても 分かり合えないでしょう
だから関わらぬのも いいのでは
逃げ出してしまえば いいのでは
完成された世界の中には 私は要りません
どんなに言葉を尽くしても 離れますね
それが人と人の関係 雲は流れすぎる
愛はなく 優しさはなく いたわりはない
吹き過ぎる乾いた風に 揺れている 野生の花
造花だらけでは 味気ないから
この季節に この時代に
「野生の花」
静かな明るさの中に さりげない不幸がある
音楽の途切れた瞬間に それは顔を出す
感情の薄い私は 流れる冬を見ました
すべての列車は 町を出た後なのです
その町には 私と幽霊だけが住んでいました
いつかの戦争の頃の 幽霊だけが住んでいました
「幽霊だけが」