光
『その『光』に、絶対に触れてはならない』。それは私達に伝わる言い伝え。
その光については詳しく伝えられていないし、もちろん実物を見た事もない。
だがその言葉だけは、相当昔から代々伝えられている。
どんな光なのか?何故触ってはいけないのか?私の興味が尽きない。
だから私は、その光を求めて旅に出た。
(こ・・・これが『光』!!)
果てが見えないと思われた旅の終着点。私は念願の『光』に出会い、その『光』を初めて目の当たりにした。
その瞬間、私の体に言い知れぬ衝撃が襲う。
見てはいけない/見ていたい。近づいてはいけない/近づきたい。触れてはいけない/触れてみたい。そんな相反する思いが、私の心を乱す。
(なんて眩しいんだ・・・)
その『光』は真夏の太陽の様に光輝き、直視できない程眩しい。だけど、ずっと見て居たくなる程に神々しい。
(なんて温かいんだ・・・)
その『光』は暖炉の様に温かく、母親の様に私を優しく包んでくれる。この雪の降る時期でも、私は寒さに震える事はないだろう
(触れてみたい・・・)
故に、私がそう思うのは当然だろう。
禁忌だと言うのは分かっている。そして、触れた瞬間にどんな事が起きるかは想像できない。
だけど私は、神々しいのに優しい、その『光』に触れてしまった。
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、!!!!!!!!!!!」
触れた途端、声にならない叫びが私の口から出る。
熱いなんて陳腐な表現は生ぬるい。熱いと感じる神経は、触れた刹那の時間で焼き切れ、感じるのはひたすらに痛いと言う感覚だけ。
多分私は黒焦げになっている事だろう。私の目はもう、何も移さなくなっている。
だが、神々しいと感じたあの『光』は、今は憎らしい程感じられる。
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、!!!!!!!!!!!!」
私を包んでくれた、母親の様な優しい温もりは、今は地獄の業火と化していた。
確かに寒さに震える事はないだろう。ただ、この痛みを思い出すたびに、私の体は恐怖で震えるだろうが。
「・・・・・・・・・・」
永遠に感じる1秒を過ごし、私の意識は体と同じ様に、真っ黒に染まった。
雪の降る夜道を、手を繋いだ親子が歩く。
子供は母親の手を引き、我先にと先を歩く。母親は手を引かれつつも、自分のペースでゆっくりと歩く。
「おかあさん、あれってなぁに?」
そんな時、子供が指を指しながら母親に聞く。初めて見るものに興味を持ったのか、子供の目は輝いている
そんな子供が指差す方向を見た母親は笑顔で、今では珍しくなったそれの名を子供に教えた。
「あれはね、『誘蛾灯』って言うのよ」
ジジジ・・・その時、虫の焼ける音がした。