ハイディの告白(2)
一昨年の秋にハイディ様はパルミロと知り合ったそうだ。
もちろん婚約者のいる身だったので最初は自重したがそれもわずかな時間でハイディはすぐにパルミロに夢中になった。パルミロは親しくなるとよくハイディにお茶を自ら入れてくれた。「君のための特製ブレンドだよ。特別な女性にしか入れないんだ」と囁かれ有頂天になった。彼のお茶を飲むととても心地よく目の前が薔薇色に感じられた。彼の言うことを聞いていればとても幸せになれる。素直にそう思えた。
パルミロの甘言に従ってハイディは家を抜け出した。パルミロと添い遂げるつもりだった。彼は「君を連れて遠いところに行こう。そこで幸せに暮らすんだ」と言っていた。
「遠いところとは? 具体的な地名を言っていなかったか?」
ジークに囁かれ私がハイディ様に聞くとハイディ様は暫く考えた上で答えた。
「はっきりした地名は聞いていないと思うわ。でもよその国だと思う。ソルドーから船に乗るという言葉を一度聞いたような気がするの」
ハイディ様の言葉に後ろの人達が騒めき立ったのが感じられた。アンゲリカからは具体的な地名などの情報が得られなかったからだ。話が出来る状態の時でも、アンゲリカの口から出てくるのはパルミロがいかに素敵かを延々と話すか私の悪口を延々と話すかのどちらかが八割を占めていて未だに役に立つ情報は得られていない。
「ソルドーに人を遣ってもう一度詳しく調べなおしましょう」
フィル兄様がジークに囁く声が聞こえた。
ハイディはパルミロと添い遂げるつもりだったが途中でパルミロの態度が変わった。今思えばハイディから婚約者が竜の森の門の守衛勤務をしていると聞いてからだったと思う。ハイディの婚約者は王国騎士団の第七隊で主な業務は門の守衛と竜の森の巡回勤務だ。その当時は婚約者のアーベル・クランプはランメルツ侯爵領にある門の守衛勤務をしていた。
「その当時は?」
ジークの呟きをもう一度私がハイディ様に伝える。
「ちょうど一年ほど前、ウルプル伯領の竜の門で不祥事があって大規模な配置換えがあったの。それでアーベルはウルプル伯領の門に勤務することになったのよ。パルミロは私が家出をしてパルミロの元に身を寄せていた時に『事情があってすぐには一緒に暮らせなくなった。でも君のことを愛しているから必ず迎えに行くよ。それまで怪しまれないように婚約者とも結婚して仲睦まじくしていてくれ』といって私を家に帰したの。アーベルの事は嫌いじゃなかったけど私はパルミロと一緒になるつもりだったからアーベルと仲睦まじいふりをするのは嫌だったわ。でも持たせてくれたパルミロのお茶を飲むとそんなこと考えなくなるの。パルミロは『離れている間も私の事を忘れないで』といって大量のお茶を持たせてくれたの。『会えない間はこのお茶を三日に一度は飲んで私の事を思い出してね』と言って」
「三日に一度?」
「ええ、そこは厳重に守るように念を押されたわ。『まだ利用価値があるモノは壊したくないからね』って。その時は何のことかわからなかったけど今ならわかるわ。助け出される前、パルミロの屋敷に捕えられていた時は毎日お茶を飲まされたの。頭に霞がかかったようで何にも考えられなくなるの。それまではパルミロに誘導されていたとしても一応自分の頭で考えて屁理屈でも自分が納得できるような理屈を考えて行動していたのだけれど、それさえもできなくなるのよ。きっとそうしてパルミロは令嬢たちを遠いところに連れて行ったのだと思うわ」
そこまで言ってハイディ様はふうっと息を吐いた。
「お疲れですか? 少し休憩しましょうか」
私が言うとハイディ様は頷いた。看護師さんがハイディ様に蜂蜜入りのお茶を飲ませてくれた。
私もお茶を貰い一息つく。
ジークたちは部屋の隅で打ち合わせをしていた。
少ししてハイディ様が続きを話し始めた。
ハイディは昨年の夏アーベルと結婚した。その時にはアーベルはウルプル伯領の門に配置換えになっていたのでウルプル伯領に新居を用意してくれていた。
メイドと下働きが一人ずつの小さなお屋敷だったがハイディに不満はなかった。騎士の妻としては妥当なものだったし使用人が少ない方が身動きが取りやすい。
新居で暮らし始めてすぐパルミロから接触があった。彼はハイディの夫がウルプル伯領の門に配置換えになったことを非常に喜んでいた。
「これで苦労せず計画が達成できる」
パルミロの呟きはハイディに聞こえていたがその時は深く考えていなかった。ハイディが家を出てパルミロと逃げるのにウルプル伯領の方が都合がいいのだろうと漠然と考えていただけだった。
しかしパルミロはなかなかハイディを連れ出してはくれなかった。彼は夫のアーベルと仲良くするように言いアーベルの勤務時間に差し入れを持っていくことを日課とするよう指示した。パルミロにお茶を入れてもらいながら「君と幸せに暮らすために必要な事なんだ」と言われると簡単に信じてしまった。
そうして季節が夏から秋に差し掛かるころの事だった。
もう半月もすれば学院の最終学年の生徒が竜と契約する季節だ。その時には守衛や竜の森の巡回警備の人員も増員される。その少し前の時期だった。
ここまで話してハイディ様は口をつぐんだ。
「お疲れですか? 休憩します? 日を改めた方がいいのかしら」
私はお医者様を見たがハイディ様はかぶりを振った。
「いいえ違うの、私が弱虫なのよ。今更自分の罪を話したくないなんて」
薄く笑ってハイディ様は話を続けた。
「パルミロから薬を渡されたの。これを差し入れのお菓子の中に混ぜてくれって」
パルミロから薬を渡されたハイディは恐る恐る何の薬か聞いたが「命を奪うものじゃない。私たちが幸せになるために必要なことだよ」と言われ納得してしまった。パルミロの言葉を疑う判断力はもうなかった。
その日もハイディはお菓子を焼き勤務中の夫に差し入れに行った。守衛勤務中は門のすぐそばにある詰め所にいる。門が良く見渡せる位置だ。この詰め所に常時三人、そのほかに竜の森の巡回勤務もあって二十人ほどの騎士が一つの門に配属になる。
竜の森の内部と周辺の巡回勤務は各領の領騎士団も行っていてそのための手当ては国から支給されている。アウフミュラー侯爵領のように竜が休める厩舎や広場などを森の近くに配置している領は他に無いが巡回勤務は門が領地内にある貴族家の義務である。
ウルプル伯領でも巡回勤務は行われている筈……である。
ハイディがお菓子を詰め所の夫を含めた三人の騎士に渡すと三人は何の疑いもなく食べ始めた。何度も差し入れをして日課のようになっていたので何も疑われなかった。夫のアーベルは同僚から「いい嫁さんを貰って羨ましい」と言われていたのだ。
暫くすると三人は居眠りを始めた。完全に眠ってしまったタイミングでパルミロが姿を現した。
「ありがとうよくやってくれたね。さすが私の愛するハイディだ」
パルミロはハイディを抱きしめて甘く囁く。ハイディは罪悪感よりパルミロに褒められた喜びでいっぱいだった。
「彼らが目を覚ましたらこう言うんだ。『皆さまお疲れだったのですね。大丈夫ですわ、眠っていたのはほんの短い間ですもの。私が門を見張っていましたわ。何も異常ありませんでした』大丈夫だよ。彼らだって自分の失態を公にはしたくない筈だ。何もなかったんならこのまま黙っているだろう」
そうして数人の人間と門に入っていった。「必ず君を迎えに来るから大人しく待っているんだよ」と言い残して。
眠りから目覚めたアーベルたちは青い顔をしていた。でもハイディが『皆さまお疲れだったのですね。大丈夫ですわ、眠っていたのはほんの短い間ですもの。私が門を見張っていましたわ。何も異常ありませんでした』と言うと皆安堵の顔をした。パルミロが言った通りなかったことにするみたいだった。
「そうだよな。こんな短い時間に何かあるわけがない」
「ああ。それに森の内部は巡回の騎士がいる。大丈夫だ」
みんな無理矢理納得したようだった。しかし突然寝てしまった不自然さは拭えない。アーベルは何度もしつこくハイディに何も異常はなかったかと聞きハイディの作るお菓子を警戒した。次第に二人は口論が多くなっていった。パルミロはあれから姿を現さなくなった。どこに消えてしまったのか連絡もない。パルミロに貰ったお茶も切れてしまった。そのこともハイディのイライラに拍車をかけた。
ついにハイディは家を飛び出した。パルミロから連絡があったわけではない。でも王都に行けばパルミロに会えるかもしれない。そう思い王都を目指した。
王都で安宿に泊まりながら数週間、ついに冬の初めにパルミロを見つけた。急いで駆け寄るとパルミロは驚いたようだった。
「どうして連絡をくれなかったの? どこへ行っていたの? 私はいつあなたと一緒になれるの?」
ハイディが詰ってもパルミロは苦笑を浮かべながら言った。
「君と一緒になるために準備が必要だったんだよ。でも驚いた、旦那さんはどうしたの?」
ハイディが家を飛び出してきたことを話すとパルミロは暫く思案した後小さい声で呟いた。
「まあいいか。もうこいつも怪しまれているだろうし潮時かな……」
そうしてハイディに向かって言った。
「私の家へおいで。そこで待っていれば私が遠いところに連れ出してあげる。ソルドーの港から船に乗ろう。新天地が待っているよ」
ハイディはパルミロの屋敷に連れていかれた。前行ったところとは別の屋敷だ。そして地下室に入れられた。アーベルやハイディの実家から逃れるために地下室に隠れている必要があると説明された。
だけどパルミロはその後一度も来てくれなかった。常にパルミロに付き従っていた目つきの悪い大男が食事とお茶を運んでくるだけだ。そしてある日を境にその男も姿を見せなくなった。
地下室に入るときにウォンドも取り上げられていて地下室から脱出する術もなく数日は泣いたり喚いたり助けを呼んだりした。そのうちにその気力も無くなり自らが作り出すことができるわずかな水を頼りにハイディは生きていた。そうして騎士に発見されたのだった。
すべて話し終わったハイディ様はぐったりしていた。
お医者様が薬湯を飲ませる。
「今ならわかります。私は罪を犯しました。牢に収監してください。でも夫は、アーベルは何も知らなかったのです。アーベルとは離婚します。ですから咎が無いようにお願いします」
ハイディ様は私から目を上げ後ろの人々に気が付いたようにジークに向かって言った。
「今はゆっくり休んで体力の回復に努めてくれ」
ジークは具体的な回答を避けた。騎士たちは報告義務を怠った。お咎め無しというわけにはいかないのは私でも分かる。
私はハイディ様とトーマスのことを思い胸が痛かった。でも私が口を出せる問題ではない。
「ハイディ様が生きていて良かったです。そのことだけでもトーマスは喜ぶと思います。一日も早く元気になって下さい」
そう言って病室を後にした。
ハイディ様の証言で様々な事がわかった。
これは後日判明したことだがソルドーの港に停泊していた隣国ヘーゲル王国籍の船が怪しいとの情報を得た。
ヴェルヴァルム王国は今では数か国と国交をし貿易もしている。その為の商船は国内の数カ所の港に出入りをしているが当然厳重に管理されている。
問題の商船は我が国の許可証を持っていた。ヘーゲル王国の王弟殿下の推薦状により許可が下りた商船だ。その商船に深夜人目を憚るように何かを持ち込んでいる姿が目撃されている。人が一人すっぽり入るくらいの大きな箱だ。目撃されたのは昨年の春。しかし港を管理する役所は腰を上げなかった。賄賂でも掴まされていたのかは調査中だ。
その商船は半月ほど前に急いで出港していったらしい。
それから竜の森に何者かが侵入したこと。
ジークとエル兄様は竜との契約時に森に入った時にその可能性に気が付いていたらしい。
目的はまだわからない。昨年掴まったジャンたちのように密猟が目的だったのか? でも不自然な竜の死骸などは発見されていない。
竜の森は手つかずの自然の森であるが放置をしているわけではない。空からは竜騎士が、地上からは王国騎士団と五つの門がある四つの領地(学院の門は除く)の領騎士団が巡回見回りをして異常がないか監視している。広大な竜の森なので隅々までは手が回らないが竜の森の中に馬で廻れるような街道もあり小屋も点在している。
それから今回の調査でウルプル伯爵の不正が発覚した。いえ、昨年の調査であらかた発覚していた。
賭博や浪費で借金が多かったウルプル伯爵家は国から支給される竜の森管理の補助金にも手を付けていた。その為何の経験もない素人を低賃金で雇って名前を載せていただけで巡回などの業務はまるでしていなかった。昨年ジャンの事件が起こり管理不行き届きとして罰金刑と行政指導が入ることになった。
ウルプル伯爵は急ぎ体裁を整えた。その時雇い入れた者たちはパルミロに紹介された者たちだった。見た目は統制の取れた動きをして騎士のような者たちを雇い入れることが出来てウルプル伯爵は大喜びであったらしい。しかも給金はパルミロが払うからいらないという。ウルプル伯爵一家はパルミロに完全に懐柔されていた。事件が発覚してウルプル伯領に調査の手が入った時、雇い入れたはずの騎士たちは誰一人残っていなかった。皆煙のように消え失せていた。
アンゲリカの起こした事件もありウルプル伯爵は爵位没収の上鉱山送りとなった。夫人、アンゲリカもである。しかしまだ事件の全容はつかめていないので今は王宮の牢屋に収監中である。もっともアンゲリカはまだ精神が安定していないが、三人とも未だに反省の色も見えないので刑が執行された暁には相当長い年月送られることになるだろうとジークが言っていた。フィル兄様はアンゲリカが私の悪口を言うのを聞いていたらしく極刑でもいいと怒っていた。
ハイディ様の夫のアーベル様以下三名の騎士は除名を免れた。しかし訓練生に落とされ給金も半額になった。ただアーベル様は除隊した。自分の妻が事件を起こしたので責任を取りたいと言っていたそうだ。 ハイディ様は薬で操られていた被害者でもあり犯罪に加担した加害者でもある。殊勝な態度でもあり反省の色も見えるので体力回復後数年の懲役刑になりそうだ。
トーマスから手紙を貰った。王国に仇名す行為を姉がしてしまったお詫びとそれでも生きて見つかり、本来のハイディ様の姿を取り戻したことに対する喜びが綴られていた。刑期を終えて帰ってきたら家族みんなで支えるとつもりだと書いてあった。
ヴェルヴァルム王国以外の国は全て魔力が衰退しており魔力豊富な貴族女性はどの国も喉から手が出るほど欲しい存在だ。国交のある国からは王族に迎え入れたいと度々婚姻の申し入れがある。公爵や侯爵令嬢だけでなく伯爵や子爵令嬢でも魔力が多ければ申し入れがある。国としては申し込まれた令嬢が余程望まない限り許可は出さないが。
同様に竜も素材として優良な存在だ。闇で高額で取引されている。
パルミロが起こした令嬢失踪事件改め令嬢誘拐事件は、単に魔力量の多いヴェルヴァルム王国の令嬢を手に入れたいという目的だけなのだろうか。
誘拐された令嬢は大きい魔力を持っているわけではない。ヴェルヴァルム王国基準では。それでも王族や一握りの高位貴族しか魔力が残っていないトシュタイン王国からすれば喉から手が出るほどであるだろうが。
それに成人貴族女性であれば竜と契約済みである。
竜は契約者本人以外の人間を乗せることを拒むので令嬢を手に入れても竜に乗ることはできないが、素材は手に入れることが出来る。
令嬢たちが真面な状態であれば殺されるとわかっていて竜を呼ぶことはしないだろうし、竜も抵抗する。
だけど、令嬢たちが薬で精神を侵されていたらどうなのだろう。それは誰にも予測がつかなかった。
また、今回怪しい商船はヘーゲル王国のものだったそうだがヘーゲル王国が怪しいと決めつけるのも早計だ。ヘーゲル王国に使者を遣わして内情を探る必要がある。ということになったと聞いた。
ハイディ様の話を聞いた数日後、王太子妃教育の帰り道、本宮の廊下で一人の令嬢に声を掛けられた。
「ヴィヴィアーネ様」
「シャルロッテ様!」
私は急いで駆け寄る。
「お身体はもうよろしいのですか?」
シャルロッテ様は二回しかお茶を飲まされていなかったので一週間ほどで普通の精神状態に戻ったそうで、春から予定通り王宮で勤務していると聞いていた。
それでも心配だったけれど、私と顔を合わせたくないかもしれないと私はシャルロッテ様を訪ねることはしなかった。
こうしてシャルロッテ様の方から声を掛けていただいて、そうして以前のような聡明な瞳のシャルロッテ様を見たことで、私はやっと心から安堵することが出来た。
「その節はご迷惑をおかけしましたわ」
「いいえ、迷惑など! パルミロの正体が分かったのはシャルロッテ様が協力を申し出てくださったからです。でもそのせいでシャルロッテ様を危険な事に巻き込んでしまって......」
「巻き込まれたわけではございません。わたくしはわたくしの意志で協力を願い出たのですから。でもそのわたくしがあっさりパルミロの罠にかかってしまうなんて……不甲斐ないですわ」
「そんなことありませんわ。シャルロッテ様は精一杯頑張ってくださいました」
「ふふ……ありがとうございます。ヴィヴィアーネ様にそう言っていただくと気持ちが軽くなりますわ。あ、ヴィヴィアーネ殿下とお呼びした方が?」
「いえ! 殿下はどうかお止め下さい! あの……私とお母様のこと、知ってらっしゃるのですか?」
お母様がマリアレーテ王女だという事は王宮の一部の者しか知らされていない。でも私とお母様は東の離宮で生活しているし、様々な授業で本宮その他にも出入りしている。
未だ国王陛下から正式な発表が無いというだけで王家側は隠すつもりがないので、私とお母様の事は公然の秘密となっていたらしい。
「ええ、わたくしも官吏の端くれですので。でも良かったですわ。これでイアルデ様はヴィヴィアーネ様の事を平民などと馬鹿にできませんわ。ちょっと胸がスッとしますわね」
そう言って笑うシャルロッテ様にもう寂しそうな影はない。ジークの事が吹っ切れたのならいいのだけれど。
「そうだわ、わたくし婚約しましたの」
「!!」
いきなりの爆弾発言に固まってしまった。でも、そうか、シャルロッテ様は王太子妃候補に選ばれるほど優秀な方、ジークとの婚約がなくなったって引く手あまたに違いない。
「っ......おめでとうございます。お相手はどちらの方ですか?」
シャルロッテ様が幸せになれる方ならいいなと願う。ジークを譲れない私がそんなことを願うなんて傲慢かもしれないけれど。
「ペーレント伯領の隣りの子爵家の次男ですわ。幼馴染ですの。領地に引きこもって王都など滅多に出てこない田舎者ですけれど、パルミロの件で心配して駆けつけてくれましたの」
そう話すシャルロッテ様の微笑みはとても穏やかで満ち足りているように感じた。
私はもう一度心からお祝いを言ってシャルロッテ様と別れた。
シャルロッテ様は婚約後もしばらくは王宮で働くと言っていた。お相手の方は婚約を機に次期ペーレント伯爵、シャルロッテ様のお兄様の補佐をすることに決って領地で学んでいるそうだ。王都に出てくる用事も増えるそうだからシャルロッテ様と一緒にお会いできる機会があるかもしれない。
パルミロは結局逃してしまったし、まだわからないことは山積みだ。けれど穏やかに微笑むシャルロッテ様に会えたことで、私の心の中のパルミロの一件は一応の収束を迎えた。




