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竜の国 【リメイク版】  作者: 一理。
ヴァルム魔術学院

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一年生(14)


 親睦会は大いに盛り上がった。


 ヘンデルス様の音頭で始まった親睦会。まずはお茶と軽食やケーキを囲みながら和やかにおしゃべりする。場が温まってきたところでカールが言った。


「そろそろ芸を披露しないか?」


 その声で真っ先に立ち上がったのはアリーだった。


「では、私たちから披露するわ」とエーリク様の腕を取った。


「みんなの素晴らしい芸を見た後ではハードルが上がっちゃいますからね」


 と茶目っ気たっぷりに微笑んでみんなの前に立った。


「僕たちは歌を歌います。あの、僕の家の領地は王国の北東部の山間地なんです。領地に伝わる伝統の歌なんだけど……」


 エーリク様と呼吸を合わせてアリーたちは歌いだした。

 ゆったりした旋律の素朴な民謡だった。驚いたことにアリーは歌が上手かった。包み込むような優しい声をしていた。

 最初並んで立って歌っていた二人は中盤からゆっくり動き出した。ゆっくりした動きのその踊りは歌にとってもフィットしていて私たちは目が釘付けになった。

 余韻を残して歌が終わる。


 ハッと気付いたみんなは精一杯の拍手をした。


「うわーー! 最初から凄い芸を披露されちゃったなあ」


 カールが嘆くとアリーとエーリク様は顔を見合わせて笑った。


「じゃあ、僕がハードルを下げるよ」


 立ち上がったのはヘンデルス様とトーマス。


「僕たちは剣の型を披露するよ」


 そう言って部屋の隅に用意されていた剣術の授業で使われる剣を取りに行った。

 二人で向かい合い真剣に構える。


「「はっ!」」


 気迫のこもった掛け声とともに型を披露していく。


「かっこいい……」


 剣術の授業を取っていない女子たちはうっとりと眺めていた。もちろん私も。

 終わった時には二人ともうっすら汗をかいていた。私とアリーが拍手をしているとリーネがすっと立ってヘンデルス様にタオルを渡す。


「ありがとう、リーネ」


 え?え?


「なんか二人仲良くないか?」


 カールが揶揄うとヘンデルス様は照れたように言った。


「冬期休暇で王都に帰ったら婚約を結ぶ予定なんだ」

「「「えーーー!!」」」


 学院に通っている間に婚約を結ぶ人が多いとは聞いていたけれど……うん、お似合いの二人だわ。


「おめでとうございます! ヘンデルス様、リーネ」


 私が紅茶のカップを掲げるとみんなも口々に祝福した。


「おめでとう!」

「このクラスの婚約第一号だな」

「お似合いだわ」

「「ありがとう」」

「すっかり二人に持ってかれちゃったな」


 カールがトーマスに言うと


「僕は注目されるのが苦手だから助かった」


 トーマスも小さい声で「おめでとう」と微笑んでいた。


「えー、コホン。次は俺たちが披露するよ。前の二人みたいにカッコよくはないけど」


 カールの声でヨアヒム様も前に出ていった。ヨアヒム様はなんだか飄々とした雰囲気の男子だ。


「俺たちは物真似をやります」


 言いながらカールが横にすっと下がる。


「席に着けーー! 授業を始めるぞ――」


 ヨアヒム様の声に吃驚した。声質じゃなく言い方や体の動きが担任のエルトマン先生にそっくりだ。


「「似てるぞ――!」」


 みんなも大うけだ。

 ヨアヒム様は歴史の先生や領地特産の先生、魔道具の先生など次々に真似をしていく。

 みんなお腹が痛くなるほど笑った。


「カールは何もしないのか?」


 ヘンデルス様の声にカールは渋々言った。


「じゃあ、一つだけ」


 そして端から歩いてくると一礼した。


「あー、君たちはー今日この学院に―入学したわけだが―」

「それ、学院長の真似か?」

「似てないわよ」


 エーリク様とアリーの突っ込みにまた笑った。

 ひとしきり笑った後で最後は私たちの出番だ。


 私とリーネは会場の隅に置いてあった水の入ったグラスを並べた。

 その前で深呼吸。リーネと顔を見合わせて私たちは演奏を開始した。

 奏でるのはこの国に古くから伝わる童謡。竜神様を讃える歌だ。途中間違えそうになって焦ったけれどグラスから響く幻想的な音色が雰囲気を盛り上げてミスを覆い隠してくれた。


 演奏が終わると拍手喝采、その中でもヘンデルス様は立ち上がってリーネの元へ歩み寄るとリーネの手を握りしめた。


「素晴らしいよリーネ! とても神秘的で女神のようだった!」


 そのまま二人で見つめ合ったままなので仕方なくカールが咳払いした。


「コホン、えー、その続きは二人きりの時にどうぞ」

「えっ? あっ!」

「ヘンデルス様、私も褒めていただけますか? 目に入っていなかったかもしれませんが」


 茶目っ気たっぷりに私が言うとヘンデルス様は顔を真赤にして「あー、ヴィヴィアーネ嬢もとても素晴らしい演奏だった」と取ってつけたように言うのでみんな大爆笑だった。



 そんなこんなでカールの提案した親睦会は大成功。今まで名前しか知らなかったクラスメイトの意外な一面を沢山知った。

 残りの二人も絶対に引きずり込もうとみんなで決意して懇親会は終わった。




 



 

 懇親会も終わり残るは終業式と卒業式、そして卒業式後のパーティーを残すのみだ。授業は後二日あるけれど気分はそんな感じだ。

 パーティーで着るドレスは侯爵邸から送られてきている。「僕がエスコートしたかった」というフィル兄様の手紙と共に。

 卒業生はパートナーとの入場になるが在校生は関係ない。時間までに入場して拍手で卒業生を迎える役割だ。気楽なものである。

 私はアリーとリーネと一緒にホールに向かう約束をしている。




 

 卒業式当日。午前中は卒業式に参列し、その後寮に戻り夕方からの卒業パーティーの準備をする。ドレスを着るのはプレデビューの時以来だ。

 アリーとリーネと一緒に女子寮から外に出るとカール、トーマス、ヘンデルス様がいた。


「あれ? どうしたの?」

「ヘンデルスがパウリーネ嬢をエスコートしたいんだって」


 カールが言うとリーネが頬を赤らめた。肝心のヘンデルス様はリーネに見とれるばかりで一言も喋らない。 カールに背中を叩かれやっとリーネに手を差し出した。


「その……リーネ、綺麗だ」

「ありがとうございます……」


 二人で顔を赤らめ俯いている。

 初々しい二人はほっておいて私たちは四人で歩き出した。カールがおどけてアリーに言った。


「俺がエスコートしてやろうか」

「遠慮しますわ」


 トーマスと顔を見合わせて笑った。

 途中でエル兄様とジークとも合流する。みんなでわちゃわちゃと話しながらホールに到着した。



 皆で拍手をして卒業生を迎え入れ、学院長の挨拶でパーティーが始まる。

 卒業生がパートナーとファーストダンスを踊った。


 和やかにパーティーは進む。

 アリーとケーキをほおばっているとジークとエル兄様がやってきた。

 凄い! 後ろにダンスに誘ってもらいたい令嬢の山がくっついてくる。それなのに二人とも目に入らないような態度だ。


「ヴィヴィ、一曲踊ってくれないか」


 ジークに手を差し出された。後ろの山から悲鳴が漏れる。カールがマジ? というような顔でジークを見た。


「……いいの? 後が怖いんだけど」

「うーん、睨まれたらごめん」

「それにまた足を踏むかも」

「それについては大丈夫。ちゃんと学習したから」

「? それならよろしくお願いします」


 私は首をかしげながらジークの手を取った。エル兄様はアリーをダンスに誘っている。アリーは頬を染めていてその横でカールがなぜか焦っていた。


 前も思ったのだけどジークのリードはとても踊りやすい。私は羽根が生えたような気分になる。それに驚いたことに一度もジークの足を踏まなかった。


「私、考えてみたら練習以外ではジークとしか踊ったことがないわ」


 そう呟くとジークは「光栄だな」と笑った。


 ジークとダンスを終えると令嬢が殺到する。ジークはその中の一人の手を取りダンスフロアに引き返していった。


「私、ダンスが上達したかも……」


 ポツリと呟くと近くに居たカールがぶんぶんと首を横に振った。


「ジーク殿下が凄いんだよ。俺、見てたけどヴィヴィが足を踏みそうになると神業的動きで回避してたぜ。足元も見ていないのにアレどうやるんだろうな」


 私はカールを睨んだけれどカールの言い分を否定できない。だってダンスの授業でカールやトーマスの足を踏みまくったから。


 エル兄様もアリーとのダンスを終えて戻ってくると次の令嬢の手を取った。

「人気者は大変ね」とアリーと笑いあっているとカールがいつになく真剣な顔をして言った。


「アリー、お前と踊ってやってもいいぞ」

「あら、踊ってもらわなくても結構よ」

「う……違う……踊ってくれないか? 俺はエルヴィン様ほどダンス、上手くないけど……」

「ふふっよろしくお願いします」


 アリーとカールは手を取り合いダンスフロアに向かう。


「え? なになに? 二人ってそういう関係なの?」


 トーマスに聞くとトーマスも「知らなかった……」と呟いた。

 トーマスと話をしていると私たちの前に立つ人物がいた。


「ヴィヴィアーネ嬢、僕と踊ってくれないか?」


 三組のミヒェル様だ。夏季休暇前のSクラスの一件以来たまに話をする間柄だ。

 もちろん拒否する理由はない。


「喜んで」


 ミヒェル様の手を取ってトーマスに「行ってくるわね」とダンスフロアに向かった。トーマスがミヒェル様を見て何か気の毒そうな顔をしていた。


 ミヒェル様のリードはジークほどは慣れていなかったけど楽しく踊れた。最初だけね。

 ダンスが上手くなったと感じたのは勘違いだったみたいでミヒェル様の足を踏みまくったから。ミヒェル様は一生懸命痛みをこらえて微笑みを崩さなかった。偉い!! ちょっと笑顔が引きつっていたけど。

 オマケに途中で誰かとぶつかりそうになりヒヤッとしたが相手が上手く避けてくれた。

 誰だろうとみてみるとジモーネ様……とジーク。

 ジモーネ様は得意満面でこっちを見ていたけど、ジークはごめん! というような顔でこっちを見ていた。


「今のは二組のジモーネ嬢だろ。彼女()あんまりダンスが得意じゃないんだな。ヴィヴィアーネ嬢にぶつかりに来てたぞ」


 も、彼女()って言いましたよね、ミヒェル様。ええそうです。私はダンスが得意じゃありません。いえ、踊ることは好きなんだけど、相手に申し訳なさすぎる。

 それでもミヒェル様はダンスが終わると「楽しかったよ、また機会があれば踊ってくれるかな」と言って去って行った。


 カールに言わせると「ジーク殿下と言い、ミヒェルと言い、勇者が多すぎる」

 もちろん他の人にわからないように腕をつねってやった。アリーとトーマスは気がついて笑ってたけど。

 その後もみんなとお喋りをしたり美味しいデザートをいただいたりして楽しく卒業パーティーを終えた。

 ちなみにトーマスはダンスが苦手だそうで一度も踊らなかった。




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