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第一話「底辺清掃員のストレス発散方法」

初投稿です。当分の間、毎日7時ごろ、19時ごろに2話投稿します。


稚拙な文章ではありますが、よろしくお願いします。

第1話「底辺清掃員のストレス発散方法」

「ちょっと、まだここ終わってないじゃないですか! Fランクって本当に使えませんよねぇ」

うるさい。

心の中でそう吐き捨てながら、俺――影山湊は頭を下げた。

「申し訳ありません。すぐに対応します」

生意気な声の主は、ピカピカの装備に身を包んだ若手パーティーのリーダーだ。年齢は俺とそう変わらないだろう。それなのに、こちらを見る目が違う。

値踏みするような、虫でも見るような目。

「Fランクのくせにダンジョン入れてもらってるだけ有難いと思えよ」

仲間の一人がそう吐き捨てて、笑い声を上げながら去っていく。

残されたのは、廊下に散らばった魔物の死骸と、食い散らかしたゴミの山。

俺はため息をのみ込んで、モップを握り直した。


俺の仕事は、ダンジョン清掃員だ。

探索者たちが倒した魔物の残骸を処理し、彼らが散らかしたゴミを拾い、通路に残った魔法陣の残滓を消す。

地味で、臭くて、誰にも感謝されない仕事。

しかも勤め先がまたひどい。

『株式会社クリーンハンター』。ダンジョン管理協会公認の清掃業者ではあるが、実態はブラック中のブラック。残業代は出ない。休日出勤は当然。上司からの罵倒はボーナス代わりだ。

スキルだって、俺のはひどいもんだ。

ユニークスキル【完全清掃】。

発動すると、対象を跡形もなく消し去る。魔物の死骸も、廃液も、なんでもきれいさっぱり。

「ゴミ処理の才能だけは一人前だな」と上司に笑われたのを、今でも覚えている。

まあ、否定できないけど。


仕事が終わったのは、夜の十一時を回った頃だった。

ロッカールームで薄汚れた作業着の埃を払い、タイムカードを押す。打刻画面には、今月の残業時間が表示されていた。

三桁。

「…………はぁ」

俺は盛大にため息をついた。

ムカつく。

本当に、今日も一日ムカつくことだらけだった。あの若手パーティーの顔が脳裏にちらつく。あのリーダーの声が耳にこびりついている。

「あー、やってらんねぇ」

バッグを肩にかけ、俺は施設の裏口から夜の街へ出た。

少し歩いて、人気のない路地を抜ける。

そこには、巨大な亀裂が空中に浮かんでいた。

漆黒の深淵。ゆらゆらと揺れる暗闇の向こうから、瘴気が漏れ出している。入口には黄色い立ち入り禁止テープと、真っ赤な警告看板。

『Sランク指定:奈落の迷宮 ──生還率2%── 一般探索者・立入厳禁』

「よし」

俺は手をパンパンと叩いた。

「今日も裏山でストレス発散すっか」


迷宮の中は、いつも通り薄暗かった。

足元に転がる白骨は、俺にとってもはや風景の一部だ。

ゆっくり歩いていると、前方から低い唸り声が響いてきた。

三つの頭が、闇の中でぎらりと光る。

体高二メートルを超える黒い巨体。背中には炎の翼。六本の脚が地面を踏みしめるたびに、石畳がひびを入れる。

Sランクモンスター――地獄の番犬、ケルベロス。

Aランクパーティーが全滅したという記録が、ダンジョン協会に残っている。

三つの首が同時にこちらを向き、低く、地鳴りのような咆哮を上げた。

俺は立ち止まって、そいつを見た。

「……なんだ、野犬か」

三つの頭が、ぴたりと動きを止める。

「邪魔」

俺は右手を軽く、払うように振った。

その瞬間。

ケルベロスは、消えた。

断末魔もなく、爆発もなく、ただ静かに、跡形もなく。

地面に残ったのは、かすかな焦げ跡ひとつ。

「……うん」

俺は小さく息を吐いた。

胸のつっかえが、少しだけほぐれた気がする。

「スッキリした」

薄汚れた作業着のまま、俺は奥へと歩き続けた。

今夜の”お掃除”は、まだ始まったばかりだ。

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