第6話 揺れの中心にいるのは誰か
科学部室の空気が、昨日までとは違っていた。
光、音、霧──それぞれの装置が形になり始め、
部屋全体が“何かが生まれつつある場所”の匂いを帯びていた。
「……達也、これもう完成近いよね?」
「まだ七割」
「七割でこれなの……?」
紗香は呆れながらも、どこか誇らしげに笑った。
「今日は“触覚”のテストをする」
「触覚……?」
「見えないものに触れられると、人は一番驚く」
「やめてよそういう怖いこと言うの……!」
達也は淡々とスイッチを入れた。
次の瞬間──
紗香の足元に、ふわりと風が触れた。
「ひゃっ……!」
続いて、背中にかすかな振動。
そして、耳元をかすめるような風。
「ちょ、ちょっと待って……!
どこから来てるのこれ……!」
「空気圧と超音波。
“触られたように感じる”だけ」
「感じるだけって……十分怖いよ……!」
紗香は思わず達也の腕を掴んだ。
達也はその手を見て、静かに言った。
「……紗香、反応が素直でいい」
「褒めてるのそれ……?」
「参考になる」
「……もう……」
紗香は目をそらした。
頬が赤いのを隠すように。
そこへ、クラスメイトが顔を出した。
「おーい達也ー、今日もやってるな!」
「紗香、また巻き込まれてるの?」
「巻き込まれてるよ!!」
クラスは笑った。
「でもさ、紗香が一番楽しそうだよな」
「わかる。なんかいい雰囲気だし」
「達也、完成したら絶対見に行くからな!」
軽いノリ。
でも、温かい。
達也は淡々と返した。
「……期待されるのは悪くない」
「お、達也が珍しく前向きなこと言った!」
「紗香の前だと違うよな〜!」
クラスは笑いながら去っていった。
紗香は顔を赤くしたまま、達也を睨んだ。
「……達也、ああいうの、否定してよ」
「否定する理由がない」
「……そういうとこ、ほんとずるい」
「次、霧のテストする」
「まだやるの……?」
「今日は進む」
「……なんで?」
「紗香が来たから」
「っ……!」
紗香は胸に手を当てた。
(なんでそんなこと言うの……
ほんとに心臓に悪い)
達也は霧発生装置を起動した。
白い霧がゆっくりと部屋に広がり、
光が反射して幻想的な空間を作り出す。
「……きれい」
「霧は“見えないものを見せる”」
「どういう意味?」
「紗香の心が動く瞬間、
霧の中だとよくわかる」
「っ……!」
紗香は思わず目をそらした。
(ほんとに……心が動いてる)
「紗香」
「なに……」
「明日、最終テストする」
「最終……?」
「完成が近い」
「……そっか」
紗香は静かに息を吸った。
(怖いのに……楽しみって思ってる自分がいる)
達也の“静かな狂気”は、
ついに完成へと向かい始めていた。




