第4話 静かな狂気が形を持ち始める
放課後の科学部室は、夕陽の赤と電子部品の匂いで満たされていた。
達也は机いっぱいに部品を広げ、ノートに何かを書き続けている。
その集中の仕方は、周囲の世界を完全に遮断していた。
「達也、入るよー……って、うわ」
紗香がドアを開けた瞬間、思わず声を漏らした。
机の上には、見たことのないセンサーや基板が山のように積まれている。
まるで小さな研究所だった。
「紗香、来た」
「来たけど……なにこれ。
昨日より増えてない?」
「増えたよ。構想が進んだから」
「構想って……」
紗香はノートを覗き込んだ。
──霧の粒子制御
──光の揺らぎの同期
──音の定位感の破壊
──匂いの段階変化
──触覚刺激の制御
──傾斜による平衡感覚の錯覚
──霧への映像投影
「……達也」
「なに」
「これ、ほんとに“お化け屋敷”だよね?」
「そうだよ。紗香が驚くやつ」
「いや、驚くっていうか……倒れるよこれ……!」
「倒れないように調整する」
「そういう問題じゃない!」
紗香は頭を抱えた。
(……完全に誤解してる。
でも、止める気にもなれないのが悔しい)
そのとき、廊下から声がした。
「おーい達也ー、進んでるかー?」
「科学部、今年ガチらしいじゃん」
「紗香のためだろ?」
クラスメイトがひょこっと顔を出した。
「達也、がんばれよー。
俺らのクラス展示より絶対すごいの作るんだろ?」
「期待してるぞ、科学部」
軽いノリ。
でも、どこか温かい。
達也は淡々と返した。
「うん。紗香が驚くやつ、作る」
「やっぱ紗香のためかー!」
「はいはい、そういうことね!」
クラスは笑いながら去っていった。
紗香は顔を真っ赤にした。
「ちょ、ちょっと達也……!
なんであんなこと言うの……!」
「事実だから」
「事実だけど……!」
紗香は机に突っ伏した。
(……ほんとに隠さないんだから)
「紗香」
「なに……」
「今日も聞いていい?」
「……聞かないでほしいけど、どうせ聞くんでしょ」
「どうすれば、彼女になる?」
「っ……!」
紗香は顔を覆った。
「もう……ほんとにやめて……!」
「やめた方がいい?」
「……やめなくていいけど……!」
声が小さく震えていた。
「紗香」
「なに」
「構想、固まった」
「……え?」
達也はノートを閉じ、まっすぐ紗香を見た。
「明日から本格的に作る。
紗香の“心が動く瞬間”を、必ず作る」
「……っ」
紗香は胸に手を当てた。
(ほんとに……心が動いてる)
夕陽の中、
達也の静かな狂気が、ついに形を持ち始めた。




