第3話 ズレが露出する瞬間
放課後の教室は、夕陽が机の縁を金色に染めていた。
クラス全員が文化祭の話題で盛り上がっている。
「で、結局どうする? 出し物」
「カフェは準備大変だしなー」
「展示は地味だし」
「じゃあ……お化け屋敷とかでよくない?」
「それだ! 簡単だし!」
軽いノリで決まりかけたその瞬間──
「お化け屋敷、いいと思う」
達也が静かに言った。
クラスが一斉に振り返る。
「え、達也が賛成?」
「珍しいじゃん」
「てか達也、お化け屋敷とか興味あるの?」
「あるよ。
“心が動く瞬間”を作れるから」
クラスは「?」という顔をした。
「で、達也はどんなお化け屋敷がいいと思う?」
誰かが軽く聞いた。
ただの雑談のつもりだった。
しかし──
「これ」
達也はノートを開いた。
そこには、びっしりと書き込まれた設計図。
──傾斜による平衡感覚の錯覚
──霧の粒子制御
──光の揺らぎ
──音の定位感の破壊
──匂いの段階変化
──触覚刺激の制御
──霧への映像投影
「…………」
クラスが固まった。
「え、なにこれ」
「怖いとかじゃなくて危険じゃない?」
「いや、これもう“お化け屋敷”じゃなくて“実験施設”じゃん」
「中学生が作るレベルじゃないって……」
ざわ……ざわ……
教室の空気が一気に変わった。
「達也……」
紗香は額を押さえた。
「これ……“普通の”お化け屋敷じゃないよ……?」
「普通じゃない方が心が動く」
「いや、そうだけど……!」
紗香は呆れながらも、
達也の真剣な横顔に胸が少しだけ熱くなる。
(……ほんとに、私の“驚かせて”を真に受けてるんだ)
「達也、それクラスでやるのは無理だよ……」
「クラスでやらない」
「え?」
「科学部としてやる」
「科学部って……達也ひとりじゃん」
「だから、ひとりでやる」
クラスが再びざわつく。
「ひとりでこれ全部やるの?」
「いや無理だろ……」
「てかやらせていいの……?」
「……まあ、科学部の出し物なら……好きにすれば?」
「クラス企画じゃなくてよかった……」
半分呆れ、半分恐怖、そして少しの期待。
クラスの反応は複雑だった。
「紗香」
「なに」
「紗香が驚くところ、見たい」
「っ……!」
紗香は顔を赤くした。
「だから、お化け屋敷にする」
「いや、だから……!」
紗香は叫びながらも、
胸の奥がじんわり温かくなる。
(……ほんとに、心が動いてる)
夕陽の中、
達也の“静かな狂気”が動き始めていた。




