第2話 揺れの正体
昼休みの中庭は、冬の光が柔らかく降りていた。
風が落ち葉を転がし、遠くで誰かの笑い声が響く。
紗香はベンチに座り、ストローをくわえたまま空を見上げていた。
ぼんやりしているようで、何かを考えているようでもある。
そこへ、影が落ちた。
「紗香」
達也だった。
いつもの無表情。
けれど、紗香を見るときだけ、ほんの少しだけ目の色が違う。
「どうしたの?」
「聞きたいことがある」
「なに?」
達也は少しだけ間を置いた。
その沈黙が、紗香の胸をざわつかせる。
「……なんで俺の彼女にならないの?」
「……は?」
紗香はストローを落としそうになった。
「ちょ、ちょっと待って。
なんで急にそんな話?」
「急じゃないよ。前から思ってた」
「思ってたって……」
達也は淡々としているのに、
その言葉はまっすぐで、嘘がない。
「紗香といると、心が落ち着く。
だから、彼女になってほしい」
「……っ」
紗香は一瞬、息を止めた。
達也は続ける。
「どうすれば、彼女になる?」
「ど、どうすればって……!」
紗香は顔を覆った。
でも、指の隙間から達也を見てしまう。
「普通、そういうのって……もっと段階があるでしょ……!」
「段階?」
「そう! 段階!」
「じゃあ、その段階を教えて」
「教えてって……!」
紗香は完全にペースを乱されていた。
(なんでこんなに真っ直ぐ言えるの……
ずるいよ、達也……)
達也は紗香の隣に座り、静かに言った。
「紗香の“心が動く瞬間”を知りたい」
「え……?」
「文化祭の出し物を考えてる。
“誰かの心を動かすもの”を作りたい」
達也は真剣だった。
さっきの告白めいた言葉と同じ熱を帯びている。
「だから……紗香の心が動くときを教えてほしい」
「……そんなの、簡単に言えないよ」
「難しいから聞いてる」
「う……」
紗香はベンチの端に座り直し、達也の顔を見た。
その横顔は、いつもより少しだけ近い。
胸が、ほんの少しだけ跳ねた。
「私ね……
予想してないことが起きたときに、心が動くかも」
「予想してないこと」
「うん。
たとえば……静かなところで急に名前呼ばれたりとか」
「紗香」
「っ……!」
紗香は肩を震わせた。
「……今の、心が動いた?」
「動いたよ!!」
紗香は顔を真っ赤にして叫んだ。
達也は満足げに頷いた。
「なるほど。
“予測不能な揺れ”が心を動かす」
「だから違うってば!」
紗香の抗議は、風に溶けていった。
達也は立ち上がり、部室の方へ歩き出す。
「紗香」
「なに……」
振り返らずに言った。
「……彼女になる方法、まだ知りたい」
「っ……!」
紗香は胸に手を当てた。
(……ほんとに、心が動いてる)
静かに、確かに、
恋が始まっていた。




