表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミはボクを好きになる?  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/10

第1話 静寂の輪郭に触れる

 朝の校舎は、世界から音を奪われたように静かだった。

 まだ誰も踏んでいない砂の匂い。

 窓ガラスに残る夜の冷たさ。

 そのすべてが、今日がただの一日ではないことを告げているようだった。


 本郷達也は、その静けさを乱さないように歩いていた。


 黙っていれば、誰もが振り返るほど整った顔立ち。

 けれど、彼を知る者は皆こう言う。


 ──話さなければ完璧なのに。


 理由は単純だった。

 達也は科学の話を始めると、周囲の空気を置き去りにしてしまう。

 本人に悪気はない。ただ、世界の見え方が少し違うだけだ。


 そして、その“違い”を面白がる人間はほとんどいない。


 ──ただひとりを除いて。


「達也、おはよ」


 背中に軽い衝撃。

 振り返ると、秋谷紗香が笑っていた。


 美人ではない。

 けれど、誰もが彼女を好きになる。

 空気を明るくする、不思議な力を持っていた。


 達也は、彼女の声だけは自然に受け止められる。


「おはよう、紗香」


「今日もイケメンだねぇ。黙ってれば」


「黙ってる必要ある?」


「あるよ。達也は喋ると難しいんだもん」


「難しいって何」


「褒めてるんだよ?」


 紗香は笑いながら言う。

 その笑顔は、達也の胸の奥に小さな波紋を落とした。


 ──この感覚は、なんだろう。


 達也はまだ、その意味を知らない。



 科学部の部室は、校舎の隅にある小さな部屋だった。

 扉を開けると、電子部品の匂いがふわりと漂う。


 科学部は達也ひとり。

 部員ゼロの部活。

 けれど、彼にとっては天国だった。


 基板、センサー、LED、3Dプリンタ。

 机の上には未完成の装置が散乱している。


 達也は椅子に座り、ノートを開いた。


 文化祭の出し物。

 ひとりだからこそ、すべてが自由だった。


 ページには、思いつくままのアイデアが並んでいる。

 達也はペンを止め、天井を見上げた。


「……今年は、何を作ろう」


 その声は静かで、どこか優しく、どこか危うかった。


 “誰かの心を動かすもの”。

 それを作りたいという思いだけが、胸の奥で静かに熱を持っていた。



 放課後。

 夕陽が校舎を赤く染める。


 紗香は友達と笑いながら帰っていく。

 達也は部室の窓から、その姿をぼんやり眺めていた。


 幼馴染。

 理解者。

 そして──自分が唯一、自然に話せる相手。


 紗香の笑顔を見ると、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 その理由を、達也はまだ言葉にできない。


 窓を閉め、机に向き直る。


 ノートの端に、小さく書かれた文字があった。


 ──“誰かの心を動かすものを作りたい”


 その一行が、

 後に文化祭を揺るがす“静かな狂気と恋の物語”の始まりになることを、

 達也はまだ知らない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ