思い出のオルゴールの音色は、誰の為に鳴く
「パァァァンってクラクションの音がして光って⋯⋯」
美咲は気づくと見慣れぬガラス造りの風鈴の中のような‥‥音を奏でる錘部分の舌にいた。
異世界? 現代っ子の美咲はサバイバルな状況じゃなくて良かったと、すぐに順応する。
ガラス風鈴内の調度品の装飾は金細工が施され豪華。何故ここに呼ばれたのか、それはこのガラスの風鈴世界を造ったという美咲の目の前の男⋯⋯和也という男が全て教えてくれた。
「僕はね‥‥美代しかいないと気づいてから、ずっとこの世界で待っていたんだ」
そう言いながらも、私を見る目つきがいやらしく細まる。
「冗談じゃないわ。両親私も幸せなの! 今更思い出に縋る亡霊に用なんかないくらい幸せなの!」
風鈴ではなくて、鐘なのかもと美咲は別の事を考えた。ガラスの床の足元では舞踏会が開かれていて、美代との結婚を祝う会場にしたようにも見える。
身勝手な理由で、母がどれだけ傷ついたのかも知らず、思いを美化し告白をして来る。悲恋話に浸るのは勝手だが、私まで巻き込むなって叫ぶ。
慣れない環境下、遠距離恋愛で和也は疲弊を隠すのも疲れたと別れを切り出した。 そして和也が母と別れ仕事先の上司の娘と結婚したのを美咲は知っている。
美咲もオルゴールに宿る思いまで否定はしない。母の気持ちも大事。でも会社で良縁に恵まれたからと、母を捨てた男に興味はなかった。一方的に傷つけられた母は、父と出会い、過去を捨て自力で幸せを掴んで来た。
彼の事情は彼の側で同情される事もあるだろうが、美咲は絶対無理っと思った。
母が捨てるはずだった猫型オルゴール。思いがけず絆を保ってしまった罰が当たったのだと美咲は責任を感じた。だから母の為にも未練を断ち切りたいと願う。
「逃がさん!」
「現代女子高生舐めんな!」
和也が使えるのなら、美咲もギフトが使えるはず。美咲により、ガラスの世界が振動する。
チリンチリーン⋯⋯初めは風鈴の音が鳴ったのかと思った。次第に音は聴いた事のあるメロディを奏で始めた。
「私は猫ちゃんの尻尾を回して、オルゴールの音色を聴きたかっただけよ!」
オルゴールは二度と音を奏でる事はなかった。
私と入れ替わるように、猫型オルゴールは燃えるトラックの炎に焼かれて粉々に塵となって雨空に消えた。
「猫ちゃんごめんね⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯ニャッ♪」
「あっ?」
猫型オルゴールに助けられた美咲の肩に、男の妄執から解放されたのか、雨合羽を着る子猫が尻尾を回して返事をした。
お読みいただきありがとうございました。
※ 冒頭あたり、ガラス風鈴のイメージ部分の表現をわかりやすく変更しました。




