憎悪の鎖を断つ
ルシアンの足元の薪は既に炎に包まれていた。
炎の熱が、憎悪の空を焦がしていく。
「いやだ!」
私は、悪魔王の嘲笑を無視し、処刑台の上から、ルシアンが磔にされている十字架の炎の中へ飛び込んだ。
「エリアーナ! 馬鹿な!」
ルシアンが絶叫した。
「お前まで焼かれる必要はない!」
「私が行かなければ意味がないのよ!ルシアン!」
炎は熱い……。
ここは精神の世界で、これは物理的な炎ではない。
十分にわかっていながら、魂が焼かれるような激痛が走る。
「ルシアンを 助けて! 悪魔王!お願い!」
私は炎の中で悪魔王に叫んだ。
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悪魔王の最後の誘惑
悪魔王は歓喜した。
炎の熱が、私の憎悪を掻き立てるのを感じた。
『そうだ!エリアーナ! 憎め 憎め!』
『ルシアンを助けたいのなら、憎悪で己を満たせ!』
『憎悪で満たせば、貴様は永遠に私の契約者だ!』
悪魔王は、私の魂に直接囁きかけた。
私の脳裏に憎しみの炎が燃え上がる。
アランの冷酷な目。
イザベラの嘲笑。
「おまえたちは許さない!」
私の憎悪を凝縮した思いが、魂から溢れそうになる。
(いや、違う!)
(私は、もう誰も殺さない)
私は炎の中で、自分の憎悪と戦った。
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愛の宣言
「もう誰も憎まない!」
私は炎の中で叫んだ。
「アランもイザベラも!悪魔王である、あなたも!」
「馬鹿な!」
悪魔王が驚愕した。
「私が憎むべきは、憎悪に囚われた過去の私だけ!」
「ルシアン!あなたは私の憎悪を赦したわ」
私は炎の中で、十字架に磔にされたルシアンに縋りついた 。
「私の全てを赦し、受け入れてくれた!」
「憎悪の鎖を断つのは憎悪ではない!」
私は憎悪を昇華させた。
強い「愛」と「許し」を込めて、ルシアンを抱きしめた。
「悪魔王!あなたも――、私も、ルシアンも、全てを受け入れる!!!」
憎悪の炎の熱が消えた。
私の体を焼く炎の熱を感じなくなった。
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抱擁と憎悪の崩壊
「エリアーナ……」
ルシアンが炎の中で静かに私の名を呼んだ。
炎が、一層に激しく燃え上がる。
しかし、熱さを感じることはなかった。
これは「憎悪」による炎だから。
私は、たとえ炎で焼かれようとも、最後の瞬間までルシアンとつながっていたい、触れ合っていたい。
この炎も私の憎悪。
その炎を凌駕するのも私の愛。
それは「愛」で「憎悪」を包む思いだった。
その思いが、憎悪の炎を凌駕したのだ。
鎖が外れる音がした。
憎悪の鎖が融解したのだ。
ルシアンは十字架から解放され、私を強く抱きしめた。
私たちの「炎の中で抱き合う姿」を見て、悪魔王の魔力が崩壊し始めた。
「馬鹿な……! 人間如きの愛で、私の憎悪が……!」
悪魔王は、信じられないものを見るかのように、深紅の瞳を見開いて、私たちを見ていた。
「愛の力が憎悪を超えたのよ。悪魔王。人は憎悪を断ち切ることはできなくとも、大きな力で包み込むことができる」
私はルシアンの胸に顔をうずめた。
憎悪の世界が、瓦礫のように崩れ去っていく。




