二人だけの静寂と愛の確認
張り詰めた糸
摂政公としてルシアンは昼夜なく働いた。
私も彼の隣で、復興計画の書類に目を通し、貴族たちの調整に奔走した。
戦争は終わったのに、私たちの心の緊張はまだ続いていた。
ある晩私は、執務室で居眠りしてしまった。
目が覚めると、ルシアンが私に毛布をかけ、黙って私を見ていた。
「ルシアン 疲れている 休め」
「ルシアンこそ あなたは ずっと 休んでいないわ」
私たちは疲労を隠し、互いを気遣い合った戦場での激しさとは違う、張り詰めた糸が、私たちの間にはあった。
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秘密の逃避行
「仕事を抜け出すわ」
私はルシアンの手を引いた。
「え?」ルシアンが 驚いた 声を 出した。
「私たちには 息抜きが 必要よ 誰も いない 所へ 行きましょう」
私は侍女のアンナに、誰にも言わないよう厳命し、ルシアンを連れ出した。
私たちは、かつて私の実家だったリステン侯爵家の、庭園の奥にある、誰も知らない小屋へと向かった。
そこは、私が幼い頃、隠れ家にしていた場所だ。
小屋の中は簡素だったが、外の喧騒から完全に隔絶されていた。
「こんな 場所が あったのか」
ルシアンが静かに小屋の隅に腰を下ろした。
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憎悪の向こう側
私たちはそこで、簡素なパンとチーズを分け合った。
「アランを死んだとわかった時、憎しみは 消えたか?」
ルシアンが静かに尋ねた。
「いいえ ルシアン」
私は正直に答えた。
「憎しみは消えなかった……。でも虚しさが残った。憎しみは私の人生の終着点ではなかったのね……」
ルシアンは私の手を取り、その手の甲に軽く口づけをした。
「俺もだ。俺の憎しみも両親を帰してはくれなかった」
「だがエリアーナ。憎悪の炎の向こう側で、俺たちは新しい感情を見つけた」
ルシアンは私を強く抱きしめた。
彼の体温が、私の魂の虚無感を埋めていく。
「お前を愛している、エリアーナ。お前と創る未来が、俺の全ての復讐の意味となった」
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微かな幻影
ルシアンの 「愛」の告白に、私の心は満たされた。
私たちはその小屋で、静かに抱き合った。
その安堵と、幸福感は、私が1周目の人生で夢見た、どんな幸福よりも深かった。
その時私は、窓の隅の影の中に一瞬だけ――
処刑台の骨組みが浮かび上がる幻影を見た。
幻影はすぐに消えた。
「どうしたエリアーナ?」
ルシアンが心配そうに尋ねた。
「何でもないわ。ルシアン」
私は彼に抱きつき、その幻影を振り払った。
(悪魔王の残滓が、まだ私を見ている)
(私の幸福が、悪魔王の憎悪を刺激している)
私はその微かな幻影を、強く意識した。




