ルシアンの目覚め
ルシアンの「呪い」
「ルシアン!」
私は 、大聖堂の医務室に駆け込んだ。
ルシアンは ベッドの上で、 荒い息を 繰り返している。
大神官の 懸命な 治療によって、 一命は 取り留めたが 意識は 戻らない。
彼が イザベラの 黒い瘴気に 触れた 右腕は 、聖水で 浄められたにも 関わらず 、まるで 凍傷に かかったように 黒く変色していた。
「大神官様 彼は……?」
私は 大神官に 縋るように 問いかけた。
「悪魔の 呪いだ」
大神官は疲れた顔で首を横に振った。
「瘴気は取り除いた 。だが彼の魂に食らいついた『呪い』が 彼の 生命力を 奪い続けている」
「そんな」
「このままでは あと 数日 もつかどうか」
(嘘よ)
(イザベラは 倒した)
(アランも 逃げた)
(それなのに 私が 躊躇った せいで !私を 庇った せいで!)
(この人が 死ぬ?)
「嫌よ!!」
私は ルシアンの 冷たい 手を 握りしめた。
「死なせない !絶対に!!」
私は大神官に向き直った。
「方法は ないのですか! どんな無茶な方法でも 構いません!」
※※※※※※※※※※※※※※※
大神官の「提案」
大神官は しばらく 黙って 私を 見つめていた。
そして 重い 口を 開いた。
「方法は 一つ ある」
「!」
「だが それは 貴女の 命にも 関わる」
「構いません 教えてください」
「悪魔の『呪い』は 『憎悪』を 糧とする。 だが その 対極にある 『純粋な力』だけが 呪いを 打ち破ることが できる」
「純粋な 力?」
「『愛』だ」
大神官は 静かに 言った
「だが ただの 愛ではない。 自らの『命』を 差し出すことを 厭わぬ、 自己犠牲の愛」
「……」
「エリアーナ嬢。貴女が もし、ルシアン公爵を 憎悪の『道具』としてではなく、 心から 愛していると 言うのであれば」
「愛しています!」
私は 即答した
「この人を 失うくらいなら、私の命などいらない」
「そうか」
大神官は 頷いた
「ならば 儀式を 行う」
「貴女の『生命力』の一部を ルシアン公爵に 移し、 彼に かけられた 呪いを貴女が 引き受ける 儀式だ」
「……」
「貴女が 呪いに 耐えられれば 二人は 助かる 。だが 貴女の 彼への『愛』が 呪い…… 憎悪に 負ければ……」
「二人とも 死ぬ ということですね」
「そうだ」
「やります」
私は 迷わなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※
命の「儀式」
儀式は 医務室で すぐに行われた。
私はルシアンの 手を握り、大神官は 私たちの 繋がれた手に聖印を結んだ。
「エリアーナ嬢 。貴女の 心を強く保て」
「はい」
大神官が 祈りの 詠唱を 始める。
途端に、ルシアンの 黒ずんだ 腕から 冷たい「何か」が 私の 手を伝って、体に 流れ込んでくるのを感じた。
(これが 呪い!?)
氷の 刃で 心臓を 直接 握り潰されるような 激痛。
『殺せ』
『憎め』
悪魔王の声が頭 響く。
処刑台の 光景がフラッシュバックする。
アランの 顔 イザベラの 顔。
(おまえたちは許さない!)
憎悪が 私の 心を 飲み込もうとする。
「ぐ……っ!」
(ダメだ……!)
(憎悪に 飲まれたら 呪いに 負ける!)
私は 必死で 憎悪を 振り払おうとした。
(憎悪 じゃない)
(私が 今 感じているのは)
(ルシアン)
私は 意識が 遠のきそうになる中 、目の前の ルシアンの 寝顔を 見つめた。
(この人を 失いたくない!!)
(刺客から 私を 守ってくれた 腕)
(私の『共犯者』だと 言ってくれた 声)
(私の 全てを 受け入れると 誓ってくれた 唇)
※※※※※※※※※※※※※※※
ルシアンの「目覚め」
「ルシアン!」
私は 最後の 力を 振り絞り 叫んだ。
「戻ってきて! あなたの いない 復讐など 、人生なんて、私には 意味が ないの!」
憎悪が 私の「愛」に 押し返されていく。
私の 体から 憎悪とは 違う 、温かい「光」が 溢れ出し 、ルシアンの 黒ずんだ 腕を 包んでいく。
呪い(黒)と 愛(光)が 激しく ぶつかり合う
(負けない……!!)
私は ルシアンの 手を 強く 握りしめた。
その時。
「うるさい 女だ」
冷たい 手が 私の 手を 弱々しく 握り返した。
「え?」
私は 顔を上げた。
ベッドの 上で ルシアン・ヴァレリウスが 、その 金色の 瞳を うっすらと 開けて 私を 見ていた。
「エリアーナ……お前 泣いているのか」
「ルシアン!」
私は 涙が 溢れて 止まらなかった。
「馬鹿! 馬鹿者! 私を 庇ったり するから!」
「はは……悪かったな」
彼は 瘴気に 焼かれた その腕で 私の 涙を 拭おうとした
(助かった)
(私たちは 二人とも 生き残った)
大神官が 安堵の 溜息を 漏らす 音が 聞こえた。
私は ルシアンの 胸に 顔を うずめ 、ただ 子供のように 泣き続けた。




