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動き出す歯車
リステン侯爵の決断
父(リステン侯爵)は、それから一時間、応接室で一言も発さなかった。
私は、父の決断をひたすら待った。
父は、リステン家当主として、中立派の盟主として、帝国一の商人として、その全てを天秤にかけていた。
皇太子アランという「現在の権力」を取るか。
それとも、娘が語る「不確かな未来」と、北の「危険な虎」に賭けるか。
やがて、父は深く長い溜息をつき、顔を上げた。その瞳には、もう迷いはなかった。
「……エリアーナ」
「はい」
「お前が、そこまで言うのなら。その『未来』が真実か、この目で見極めねばならんな」
「お父様……!」
「だが、お前のやり方は無謀すぎる。皇太子殿下を敵に回すのは最後だ。まずは、ヴァレリウス公爵が、我らと手を組むに値する男か、見極めねばならん」
父は、私の無謀な賭けに乗ってくれたのだ。




