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処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!  作者: 秦江湖


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未来視の限界

膠着状態



大聖堂の包囲(兵糧攻め)が始まってから五日が経過した。


アランは、大聖堂が、全く音を上げないことに焦り始めているだろう。


私たち(大聖堂側)は、地下の莫大な備蓄のおかげで、何の不自由もない生活を送っている。


「……まるで、嵐の前の静けさね」


私はルシアンと共に、大神官の執務室で外の様子を神官からの報告で聞いていた。


「アランは兵士たちに大聖堂を包囲させている。……だが、兵士たちの士気は低いらしいな」


ルシアンが報告書に目を通す。


「当然よ。彼ら(兵士)は、『聖域』に槍を向けているのですもの。……いくらイザベラ(聖女)の『奇跡』を見たからといって、神を恐れる心は消えないわ」


「……ああ。だがエリアーナ」


ルシアンが、私に別の報告書を見せた。


「……こっちが問題だ」


その報告書には、こう書かれていた。


『聖女イザベラ、大聖堂の包囲が始まって以来、毎日、門前で病人の『治癒』を行っている』


『民衆のイザベラへの『信仰』は、日増しに、強まっている』


『民衆の一部が、『魔女エリアーナさえ、出てくれば、聖女様イザベラはもっと奇跡を起こせるのに』と、大聖堂への不満を口にし始めている』


(……イザベラ)


彼女は黙ってはいなかった。


アランの「軍事力」が、聖域に手出しできないとみるや、今度は民衆の「信仰心」を使って、私たちを外から追い詰めようとしている。



※※※※※※※※※※※※※※※



1周目の「知識」の無力さ



「……どうする?エリアーナ」


ルシアンが私に問いかけた。


「……お前の『知識』で、イザベラの次の手を読めないか」


「……」


私は答えられなかった。


(……わからない)


私は自分の最大の武器である、「1周目の記憶」を必死で手繰り寄せた。


(1周目のこの時期……)


(1周目の私は、まだ、アランの皇妃だった)


(イザベラは、愛人として、懐妊し、離宮で優雅に暮らしていた)


(……そうよ。1周目のイザベラは、こんな『奇跡』の力なんて持っていなかった)


(洪水もなかった。大寒波もなかった)


(わたくしが、回帰し、歴史を変えたせいで……)


(……悪魔王が、イザベラに、力を与えた)


私は、ルシアンに顔を向けられなかった。


「……ごめんなさいルシアン」


「……」


「……わたくしの『知識』は、もう役に立たないかもしれない」


「……どういうことだ」


「アランたちは…… もう、私の及ばない行動を、考え方をしている」


「……」


(イザベラもアランも、私の知らない『行動』を取り始めている。……悪魔王の介入によって)


私は初めて、自分の「未来視」の限界を悟った。


アランの「思考」は読めても、悪魔王の「力」は、読めない。


(……どうしよう。このままでは大神官様が、民衆の敵になってしまう)


私が、ここに逃げ込んだせいで)



※※※※※※※※※※※※※※※



ルシアンの「信頼」


私が自分の無力さに唇を噛んでいると。


ルシアンが私の震える手を、そっと握った。


「……エリアーナ」


「……!」


「……顔を上げろ。いつものお前らしくないぞ」


「……だって、私はもう……」


「……未来が読めない、か?」


ルシアンは私の手を強く握りしめた。


「……結構なことだ」


「……え?」


「……やっとお前が、俺と同じ『人間』になったというわけだ」


ルシアンは、私の目を真っ直ぐに見つめた。


「……お前の『知識』は確かに役に立った。だが俺はお前の『知識』に惚れたわけじゃない」


「……」


「俺はアランに立ち向かおうとした、お前の『覚悟』に惚れたんだ」


「……ルシアン」


「……未来が読めないなら、二人で作ればいい」


彼は私を励まそうとしている。


(……ああ。この人は)


(私が無力になっても、私の側にいてくれる)


私は彼の手を握り返した。


「……そうね。そうだったわ」


「……」


「私は、未来予知者じゃない。……復讐者、エリアーナ・リステンよ」


「……そうだ。その目だ」


ルシアンは、満足そうに、頷いた。


「……イザベラの『奇跡』。……あれは必ず、綻びがあるはずよ」


「……というと?」


「偽の力だもの。……神聖な大聖堂の、目の前で使い続けて……ただで済むはずがないわ」



※※※※※※※※※※※※※※※



新たな「作戦」



私は大神官を呼んだ。


「……大神官様。イザベラの『奇跡』を、止めさせる方法はありませんか」


大神官は静かに答えた。


「……あれは神の力ではない。……悪魔の力だ」


「……!」


ルシアンが息を呑んだ。


(ルシアンは、まだ悪魔王の、詳細を知らない)


「……やはりお分かりに」


「うむ。……あのイザベラが、門前に立つたび、大聖堂に満ちている『聖気』が揺らぐのがわかる」


「……」


「……だが、民衆はそれに気づかぬ」


「……どうすれば民衆に、あれが『偽り』だと、知らせることができますか」


大神官は目を閉じた。


「……悪魔の力は、神聖な『聖遺物せいいぶつ』に触れると、その『本性』を現す」


「……聖遺物?」


「うむ。この大聖堂には、建国神話に伝わる、『破魔の鏡』が奉納されている」


「……」


「あの鏡を、イザベラの力の前に、かざせば。……彼女の『奇跡』が、どのような『代償』の上に成り立っているか、民衆の目にも明らかになるだろう」


「……!」


私はルシアンと顔を見合わせた。


「……しかし」


大神官は続けた。


「『破魔の鏡』は、この聖域から一歩も外に持ち出すことは、許されぬ」


「……では、どうやって」


「……イザベラを、この大聖堂の『中』におびき寄せるしかない」


「……!」


未来の知識は尽きた。


ここからは、私たちの「知恵」と「覚悟」で、イザベラをこの聖域に引きずり込むのだ。


新たな「作戦」が始まった。


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