奇跡を起こす聖女
帝都の「噂」
大聖堂に、エリアーナとルシアンが籠城してから六日目。
帝都の民衆は混乱していた。
アランは北の国境線から帝都の近衛兵に対し、「大聖堂の包囲を続けよ。兵糧攻めだ」と、厳命していた。
大聖堂への食料や物資の搬入が停止されたのだ。
だが、同時に別の「噂」が民衆の間で流れ始めていた。
「おい、聞いたか? 大神官様が皇太子殿下に逆らったらしいぞ」
「……なんでも、ルシアン公爵のお父様は『無実』だった、とか」
「……皇帝が罪を、捏造した、って……」
「……じゃあ、魔女を匿ってるんじゃなくて、無実の(ルシアン)人を守ってるのか?」
アランが流した「エリアーナ魔女説」が、大神官の「正義」によって揺らぎ始めていた。
(大神官の決意が、外部に漏れ始めている)
民衆は、アラン(皇太子)と大神官(宗教)のどちらを信じるべきか迷い始めていた。
※※※※※※※※※※
悪魔王の導き
北の陣営。
アランは帝都の「不穏な噂」に激しく苛立っていた。
「……あの老害(大神官)め! 俺に逆らう気か!」
「アラン様、お気を鎮めて。民はすぐに、忘れますわ」
イザベラがアランをなだめる。
だが、彼女も内心は焦っていた。
(……大神官)
(あの爺、私が、アラン様の子供を産んだ時も、祝福の言葉一つよこさなかった)
(あの爺もエリアーナの味方なのね)
イザベラの憎悪が、エリアーナだけでなく大神官にも向き始めた、その時。
彼女の耳にだけ、あの「声」が、響いた。
『……イザベラ。このままでは、負けるぞ』
(……悪魔王!)
『大神官がルシアンの父の「無実」を証明すれば、アランの「正統性」が失われる』
『民衆は、お前(聖女)ではなく、大神官(正義)を選ぶだろう』
「……いや!」
イザベラは心の中で叫んだ。
『……ならば、見せつけよ』
悪魔王は彼女に、さらなる「力」を注ぎ込んだ。
『大神官の「正義」よりも、貴様の「力(奇跡)」の方が上だと、民衆に見せつけよ』
※※※※※※※※※※※※※※※
イザベラの「奇跡」
アランが北の軍勢を帝都に戻す、まさにその日。
イザベラはアランに、こう進言した。
「アラン様。私が、帝都の民の『迷い』を払ってさしあげます」
「……何?」
「私は、『聖女』として、大聖堂の前に立ちます」
「……イザベラ! 危険だ!」
「いえ。あの中には『魔女』がおります。……私が、民衆の前で『魔女』の呪いに苦しむ人々を救ってみせます」
イザベラの、その狂気に満ちた「神々しさ」に、アランは、もはや逆らえなかった。
イザベラは、アランの正規軍が帝都に帰還するよりも「先」に帝都に戻った。
そして近衛兵に包囲された大聖堂の「門前」に、純白の祭壇を築かせた。
「……なんだ? イザベラ様が、お戻りになられたぞ」
「……あんな所で、何を?」
帝都の民衆が、遠巻きに集まってくる。
イザベラは、祭壇の前で、大聖堂の包囲によって、食料を得られず、苦しんでいる「病人」や「貧民」を集めさせた。
「……可哀想な民たちよ」
イザベラは涙を流しながら、彼らに手をかざした。
悪魔王から授かった、強大な「治癒」の魔力。
「……!」
病人の顔色が、みるみるうちに良くなっていく。
痩せ細った体に、活力が戻っていく。
「……おお!」
「……奇跡だ!」
「イザベラ様は本物の『聖女』だ!」
民衆が、その「奇跡」を目の当たりにし、熱狂した。
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民衆の扇動
イザベラは、民衆の熱狂を背に受けながら、大聖堂の固く閉ざされた「門」に向かって叫んだ。
「……大神官様!」
「……なぜ貴方は、神の『奇跡』に目を閉ざされるのですか!」
「……」
門は開かない。
「貴方がたが庇っているのは、この帝都に『呪い』をもたらした、『魔女』です!」
「……!」
「私は、この『奇跡』の力で、魔女と戦う!」
イザベラは、民衆に向き直り、両手を広げた。
「皆さま! 私に力を貸してください!」
「大神官様が、魔女の言葉に惑わされています!」
「あの大聖堂から、『魔女』を引きずり出し、帝都に真の『平和』を取り戻すのです!」
「おおおおお!」
「「聖女様、万歳!」」
「「魔女を引きずり出せ!」」
イザベラは、悪魔王の「力(奇跡)」を使い、大神官の「正義」を、民衆の「熱狂」で完全に塗り潰した。
民衆は、もはやルシアンの父の無実など、どうでもよくなっていた。
彼らは、「魔女」エリアーナとルシアンを引き渡せと叫び、大聖堂の門を叩き始めた。
大聖堂の内部で、その音を聞いていたエリアーナとルシアンは、顔を見合わせた。
(……イザベラ。……なんてことを)
エリアーナは、イザベラが、1周目とは比べ物にならない、強大な「力」を、手に入れていることを、確信した。




