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処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!  作者: 秦江湖


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北への道

帝都への潜入



アランが、北の戦場で絶叫していた頃。


私とルシアンは、帝都の「南門」の前に立っていた。


私たちは東部を大きく迂回し、南部から北上するルートで、アランの軍とは一切遭遇することなく帝都にたどり着いた。


「……すごい、人の数ね」


南門はアランが正規軍を北に移動させたため、警備の兵士はほとんどおらず、代わりに南部の洪水から逃れてきた「難民」たちで、ごった返していた。


「……好都合だ」


ルシアンが私のフードをさらに深く被せ直した。


「この人混れに紛れれば、俺たちがルシアン・ヴァレリウスと、エリアーナ・リステンだとは誰も気づかん」


私たちは、顔を隠した「影」たちに護衛されながら難民の列に紛れ込み、あっけなく帝都の南門を通過した。


(……帰ってきた)


1周目、処刑されるために引きずられた、この道を。


2周目、アランから逃げるために脱出したこの都に。


(……今度は、わたくしの意志で、アランを討つために帰ってきた)


私の胸には恐怖はなかった。


あるのは、処刑台の、あの「始まりの景色」から続く冷たい決意だけだった。



※※※※※※※※※※※※※※※



帝都の「噂」



帝都の内部も混乱していた。


アランと正規軍の。


そして、アランが流した「エリアーナ魔女説」と、それを打ち消した「バートン伯爵汚職説」がごちゃ混ぜになって、民衆を混乱させていた。


「おい、皇太子殿下は、北の魔女エリアーナを討伐に行かれたんだとよ」


「馬鹿言え。ありゃ、皇太子殿下の側近バートンの汚職隠しだろ」


「だが、イザベラ様(聖女)のお子様が呪い殺されたのは、事実らしいぞ……」


「……なんてこった。どっちが本当なんだ……」


民衆は何を信じていいか、わからなくなっていた。


(……いいわ。それでいい)


(アランへの信頼が、揺らいでいる。……イザベラへの信仰も絶対ではない)


私はルシアンと、人混みの中を進みながら、帝都の中心にそびえ立つ一つの建物を見据えた。


「……あれね。大聖堂」


白亜の巨大な、帝国の宗教の総本山。


1周目、私が皇妃だった頃に何度も祈りを捧げに来た場所。


(あの場所に、わたくしたちの「戦場」がある)



※※※※※※※※※※※※※※※



大聖堂の門前



私たちが大聖堂の巨大な門の前にたどり着くと、「影」の一人が先行して、門番の神官と何事か交渉を始めた。


(……大丈夫。計画通りなら、門は開く)


私は、1周目の知識を思い出していた。


ここの「大神官」は、厳格な保守派だ。


現皇帝(アランの父)が、ルシアンの両親を処刑した時も「神の教えに反する」と、唯一公の場で異を唱えた剛直な人物。


アランが侍女イザベラを愛人にし、その子を「正統な世継ぎ」と宣言したことも、大神官は絶対に許容していないはず。


そして何より、アランが「呪詛」という、宗教的な罪状を、自らの政治闘争(私への勅命)に利用したこと。


(大神官は、アランの『神への冒涜』に、激怒しているはず)


(そこへ、わたくしたち(国賊)が『神の保護』を求めて逃げ込んできたら……)


ギィィ……と。


重い、重い、大聖堂の門が私たちのために、ゆっくりと開かれていった。


「……開いたわ」


「……ああ。お前の読み通りだ」


ルシアンが私の手を強く握った。



※※※※※※※※※※※※※※※



聖域へ



門の内側から、厳格な神官服をまとった一人の老人が姿を現した。


彼こそが帝国の頂点に立つ、大神官その人だった。


「……ヴァレリウス公爵。並びに、エリアーナ・リステン嬢」


大神官は、フードを被ったままな私たちの顔を、知っているかのように静かに言った。


「……わたくしたちをご存知で」


私が尋ねると、大神官は深く頷いた。


「リステン侯爵から、全て伺っております」


「……! お父様が……」


(……そうか。お父様は、南へ逃げる前に、大神官にも手を回してくれていたんだわ)


「皇太子殿下は貴女がたを『国賊』と、『魔女』と、断罪なされた」


「……」


「だが、神の御前において裁かれていない者を魔女と呼ぶことは許されぬ」


大神官は、私たちに道を開けた。


「……ここは、神の家(聖域)である」


「皇太子殿下の『勅命』であろうと、神の法を超えることはできぬ」


「……ありがとうございます。大神官様」


「貴女がたが、真に『信者』として神の保護を求めるのであれば、我らは貴女がたを全力で守護しよう」


その言葉は、アランの軍隊から私たちを守る、という宣言だった。


私とルシアンはフードを取り、大神官に深々と頭を下げた。


「……わたくしは、ただ真実を明らかにしたいだけなのです」


「……よろしい」


大神官は私たちを聖堂の奥へと導いた。


私とルシアンは、アランが支配する帝都のど真ん中にある、アランが絶対に手出しできない「聖域」という名の「城」に無事入城した。


アランが北の戦場で、この報告を受けるのは、この数時間後になるだろう。


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