第一の知識
アランの新税制(塩の専売)
夜会での一件は、帝都の社交界を駆け巡った。
私は「冷血公爵を惑わした悪女」として、完全に孤立した。
だが、そんなことはどうでもいい。私には、やるべきことがある。
夜会から三日後。皇太子アランは、予定通り「新税制」を発表した。
「帝国の財政再建のため、生活必需品である『塩』の流通を、皇室が管理する『専売制』とする」
表向きは、財政再建。
だが、その真の狙いは、北のヴァレリウス公爵領への経済的圧迫だ。
北の領地は岩塩の産地ではない。彼らの塩は、帝都や南部の商業ルートに頼っている。そのルートを皇室が押さえれば、北の民は塩を手に入れられず、ルシアン公爵の統治は揺らぐ。
1周目、アランのこの策は、表向きは成功した。北は塩の不足に苦しみ、その不満はルシアン公爵に向けられた。
「……エリアーナ。お前の言った通りになったな」
父(リステン侯爵)が、私の執務室(リステン家)で、苦い顔で報告書を読んでいた。
「はい、お父様。ですが、アラン殿下は気づいておられません。ご自分の足元が、どれほど腐っているのかを」
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エリアーナの対抗策
私は、ルシアン公爵から派遣されてきた側近(連絡係)と、父(リステン侯爵)を前に、地図を広げた。
「アラン殿下は、塩の流通を皇室で管理すると言っていますが、実際には、アラン派閥の貴族たちが利権を独占するだけです」
私は、地図上のある一点を指差す。
「特に、バートン伯爵(アランの側近)は、帝都への塩の密輸ルートを確立し、私腹を肥やそうとしています。1周目……いえ、わたくしの調べでは、すでに準備を終えています」
「なんと……」
父が息を呑む。
「公爵閣下の領地は、確かに塩の産地ではありません。ですが、公爵領は、帝国と隣国(東の王国)を結ぶ、唯一の『河川貿易ルート』を管理しておられます」
「……まさか、エリアーナ様」
ルシアンの側近が、私の意図に気づき、目を見開いた。
「はい。皇室が塩を専売するというのなら、私たちは『隣国』から塩を輸入します」
「しかし、輸入には莫大な関税と輸送費が……」
「そのために、わたくしの『リステン家』の財力がございます」
私は、父に向き直る。
「お父様。リステン家の全ての商船と、備蓄資金を、この『塩の輸入』に回してください」
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リステン家とヴァレリウス家の共同事業
「……正気か、エリアーナ」
父が、さすがに躊躇う。
「リステン家の全財産を賭けるに等しいぞ」
「賭けではございません、お父様。これは『投資』です」
私は、ルシアンの側近に向き直る。
「公爵閣下には、わたくしたちが輸入した塩を、公爵領の河川ルートを使って、帝都および帝国全土に『非公式に』流通させていただきたいのです。もちろん、輸送の護衛と引き換えに、公爵領が必要とする塩は、無償で提供いたします」
「……!」
側近は、この提案の持つ意味の大きさに気づき、震えていた。
皇室の「専売制」に対抗し、リステン家(財力)とヴァレリウス家(流通・軍事力)が、独自の「塩の流通網」を作り上げる。
それは、アランの経済政策を、真っ向から叩き潰す計画だった。
「父上。アラン殿下は、塩の価格を高騰させ、北を苦しめ、差額で私腹を肥やすつもりです。ですが、わたくしたちが『安価で良質な隣国の塩』を大量に市場に流せば、どうなりますか?」
「……アラン殿下の塩は、誰にも売れなくなる。専売制は、破綻する」
「それだけではございません。民衆は、皇太子の高い塩ではなく、安価な塩を流通させた『誰か』に、感謝するでしょう」
父は、私の顔をじっと見つめた後、大きく頷いた。
「……わかった。リステン家の全てを、お前に預けよう」




