アランの圧力とイザベラの演技
大階段を降りきったアランとイザベラは、まっすぐにエリアーナとルシアンの元へと歩み寄った。
会場の全ての貴族が、息を呑んでその光景を見守っている。
皇太子アラン。
北の公爵ルシアン。
そして、その二人を手玉に取る令嬢エリアーナ。
「ルシアン公爵。遠路はるばる、建国記念夜会への出席、感謝する」
アランは、完璧な皇太子の笑みを浮かべてルシアンに手を差し出した。
「皇太子殿下のご招待とあらば、馳せ参じねばなりますまい」
ルシアンも、その手を握り返し、冷たい笑みで応じる。
二人の男の手が固く握られ、水面下で力が込められているのが見て取れた。
アランは、ルシアンから視線を外し、エリアーナへと移した。
「……エリアーナ。久しぶりだね。病は、もう良いのか?」
アランの声は、一見優しげだが、明確な「圧力」が込められていた。
「病」という言葉を強調し、彼女が「正常ではない」と周囲に印象付けようとしているのだ。
「ご心配には及びませんわ、皇太子殿下。わたくしは、今、最高に気分が良いのですから」
エリアーナは、アランの圧力を柳のように受け流し、隣のルシアンに寄り添ってみせた。
「それは、良かった。……だが、君は少し、選択を急ぎすぎたのではないかな? 北の冬は、帝都の春とは比べ物にならないほど厳しい。君のようなか弱い女性には、耐えられないかもしれないよ?」
アランは、エリアーナに「君は間違った選択をした」「今ならまだ、俺の元に戻る道もある」と、甘い毒のように囁いている。
「ご忠告、感謝いたします。ですが、わたくしは北の冬の厳しさよりも、春の陽光に隠された『欺瞞』の方が、よほど恐ろしいと知りましたの」
エリアーナが、アランの「欺瞞」を真っ向から指摘した、その時。
「エリアーナ様……!」
アランの腕に隠れていたイザベラが、前に進み出た。その目には大粒の涙が浮かんでいる。
「……イザベラさん。皇宮に召し上げられたとのこと、おめでとうございます」
エリアーナが冷たく言い放つと、イザベラはわなわなと震え始めた。
「エリアーナ様! なぜ、あんな酷いことを……! 私は、ずっとエリアーナ様をお慕いしていたのに! 侍女の私を見捨てて、公爵閣下の権力に走られたのですね!」
イザベラは、ついに泣き崩れた。
会場の貴族たちは、イザベラの「悲痛な叫び」を聞いた。
(ああ、やはり。エリアーナは親友を捨てて権力に走った悪女だ)
(イザベラ様は、皇太子殿下に救われたのだ)
イザベラの完璧な演技によって、世論は完全にエリアーナを「悪役」として断罪した。




