波紋
父の決断
ルシアン公爵との会談を終え、リステン家の馬車で屋敷に戻る道中、父は一言も発さなかった。
屋敷に戻り、二人きりの書斎に入った途端、父は私に深々と頭を下げた。
「お父様!?」
「エリアーナ……お前は、いつの間に、それほどの覚悟を……」
父は、ルシアン公爵とのやり取りで、私が本気であること、そして私が提示した情報が本物であること(ルシアンが即座に食いついた)を確信したのだ。
「わたくしは、リステン家を守りたいだけです」
「……わかった。もはや、皇太子殿下との間には、深い溝ができてしまった。我らは、ルシアン公爵と共に進むしかあるまい」
父は、リステン家当主として、最終的な決断を下した。
「リステン家の全権を、お前に委ねる。財力も、情報網も、全て好きに使うがいい。……我ら一族の未来、お前に賭けたぞ」
「はい、お父様。必ずや」
※※※※※※※※※※※※※※※※
翌日。
リステン侯爵家は、皇宮に対し、正式に使者を送った。
「娘エリアーナは、療養の結果、皇太子殿下という高貴な方の側に仕える重圧に耐えられない、か弱い心であると判明いたしました。つきましては、皇太子殿下からの有り難きお申し出は、辞退させていただきたく存じます」
表向きは、エリアーナの「心の弱さ」を理由にした、最大限の謝罪を込めた辞退だった。
だが、それは帝国全土の貴族にとって、「リステン家が、皇太子アランを拒否した」という事実に他ならなかった。
帝都の社交界は、この一報に蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。




