対面
対面の場
帝都の中立地帯に指定された、古い貴族の屋敷。
ルシアン公爵からの会談受諾の返信は、驚くほど早かった。
私は今、父(リステン侯爵)と共に、その屋敷の応接室に座っている。
屋敷の周囲は、ルシアン公爵が連れてきた北の兵士たちによって、完璧に封鎖されていた。
父が連れてきた護衛たちも、そのあまりの練度の高さと殺気に、緊張を隠せずにいる。
「……本当に、大丈夫なのだろうな、エリアーナ」
父が、小声で私の耳元に囁く。
「大丈夫です、お父様。彼は、話が通じる相手ですから」
1周目の記憶では、彼はアランの失政のせいで北の領地が疲弊し、その怒りからアランと対立していた。
彼は冷酷だが、合理的だ。 その時、重い扉が開く音がした。
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冷血公爵の入場 入ってきたのは、一人の男。
闇色の黒髪、長身、そして鍛え上げられた体躯。
彼が部屋に入った瞬間、部屋の温度が数度下がったかのような錯覚に陥った。
彼こそが、北の「冷血公爵」、ルシアン・ヴァレリウス。
1周目、私は彼とまともに話したことはなかった。
彼は常にアランと対立し、社交界でも孤立していたからだ。
ルシアンは、私と父を一瞥すると、護衛の者を一人だけ残して、大股で歩き、私たちの真正面のソファに深く腰を下ろした。
その金色の瞳が、私を射抜く。
「……リステン侯爵。そして、エリアーナ嬢。本日は、俺のために茶番を演じていただき、感謝する」 声まで凍てつくようだ。
「公爵様、本日はお時間いただき……」
父が挨拶をしようとするのを、ルシアンは手で制した。
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最初の牽制
「時間の無駄だ、侯爵」
ルシアンの視線は、私から外れない。
「俺が話したいのは、あんたじゃない。そこに座っている、皇太子殿下の手を振り払ったという、勇気ある(あるいは愚かな)令嬢だけだ」
父が侮辱に息を呑んだが、私は動じない。
「……公爵様。わたくしが、愚かかどうかは、この後の話でお分かりになるかと」
「ほう。言うな」
ルシアンは、初めて私の目をまともに見た。
「では、聞こう。皇太子殿下の手を振り払ってまで、俺に会いに来た理由は?」
「……」
「アランの差し金か? 俺の情報を探るために、お前という『貢物』が送られてきたのか?」
「違います」 私は即答した。
「では、なんだ。アランに飽きられたか? だから、次の権力者として、俺に乗り換えようと?」
私は、彼の挑発に乗らず、静かに答えた。
「わたくしがここに来た理由は、ただ一つ」
私は、父ではなく、ルシアン公爵だけを真っ直ぐに見つめて言い放った。
「貴方様が、皇太子殿下を憎んでいることを、存じ上げております」
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変化する視線 ルシアンの金色の瞳が、わずかに見開かれた。
彼の後ろに控えていた側近が、剣の柄に手をかける気配がした。
不敬、ということなのだろう。
父が「エリアーナ!」と私の名を呼ぶ。
だが、ルシアンは再び手を挙げて、二人を制した。
彼は、初めて私を「値踏み」する視線から、「興味」の対象として見始めた。
「……続けろ」
「わたくしの目的は、アラン殿下への復讐です」
私は、はっきりとそう告げた。
応接室の空気が、完全に凍りついた。
ルシアンは、驚きを通り越し、ふ、と鼻で笑った。
「復讐、か。侯爵令嬢の、おままごとにしては、随分と物騒だな」
しかし、その金色の瞳は、もう私から逸らされていなかった。




