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あるまさま

作者: 華城渚

これは僕が小さい頃に実際にあった出来事です。




「ただいま~」

空が茜色に染まるころ、僕は家に帰ってきました。


「おかえり。 楽しかったかい?」


「うん! 今日も楽しかったよ! お父さん!」


僕を見て、優しく微笑む父がそこにはいました。



僕はこの村に父と二人で暮らしています。

母は僕が生まれた数か月後に亡くなってしまったみたいです。


みたいです。と他人事のような言い方をするのは、全て父から聞いた話で実際の出来事は分からないからです。

でも今もずっと会えないことを考えるときっと亡くなったのは事実なんだと思います。


村は僕と父含めて五十人くらいが暮らしてる過疎集落です。

代り映えはしないけど、みんな顔なじみで家族みたいなものです。



「もうすぐご飯ができるから、いい子にして待っていてね。」


「うん! わかった!」

僕の元気な声を聞いて父は微笑んだ後、台所に戻っていきました。



父は優しい人です。

いつも僕が話すことを笑顔で聞いてくれるし、僕が間違いを犯しても怒らずどうしてダメなのか、今後は気を付けようと教えてくれるんです。

こんなに子供を思ってくれる父はいないと今でも思っています。




ですが、一つだけ変わっていることがあるんです。




夕食を食べ終わり、父は自室に戻っていきました。

このまま寝るというわけではありません。むしろ寝ないといったほうがいいでしょう。


「ああ......ああ......あ、あるまさま......あるまさまぁぁぁ......」


父は「あるまさま」と言う神に心酔しています。

隣に住んでいる山口さんや葉山さんに一度話を聞いたことがあるのですが、どうやら僕が生まれてから突然、「私はね?神様が見えるんだ。あるまさまは全てを見通すことができるんだよ?」と言い始め、毎夜祈りを捧げるようになったみたいです。


祈り方は様々です。

頭を下げ一時間静止したり、手から血が出るほど強く祈り続けたり、時には大声で叫びながら部屋中を暴れまわったりもしています。


これが朝の七時まで続きます。

大体夜の九時にはご飯は食べ終わるので約一〇時間は毎日祈っているということになります。



正直 “狂っている” と思ってしまいます。

だってこの村で「あるまさま」と言う神に祈っているのは父しかいませんし、そもそも神に祈っている人はこの村には父しかいません。

それに祈っているときは窓を全開にしているため、暴れた時はその声と音が村中に響き渡るんです。

みんな家を横切るときは白い目で見ています。ひそひそ何か話している人もいます。



やめてほしいと何度も思いました。

でも、僕には止めることができません。

いつの日か父が祈っている最中に止めに入ったことがあるんです。




「お父さん。もうこんなことやめてよ......」


「......。 あ、あるまさまぁぁぁ......」


「もう僕恥ずかしいよ。」


「あるまさま......あるまさま......」


「ねぇ!お父さん!」

僕は少し声を張り上げました。

すると、父は祈りを止め僕に笑顔で近づいてきました。


「お、お父さん......!」

安堵したのは一瞬でした。

気づいたら僕は壁に叩きつけられていました。


「うるせえぞガキ!! あるまさまのお声が聞こえないだろうが!! どうしてくれんだぁ? なぁ!!!!」


「お......おとう...さん......」


「今大事なところだって分かってんだろ? その頭には何も詰まってねぇのかなぁ?

......ああ!!そっか!! いっっっっっつも遊んでるから脳みそが馬鹿になっちまったんだなぁ?」


「や......やめて......」


「邪魔したお前が悪いだろうが......あ、ああ......」

突如父の動きが止まりました。

正気を取り戻してくれたと思ったのですが......



「あ、ああ......あるまさま?」


「お......おとうさん......どうした  うっ!」


「かしこまりました。あるまさま! いつまでも私はあなたのおそばに......」

僕を突き飛ばし、また祈りを捧げ始めてしまったのです。



この一件があり、僕には止めることができないと判断しました。

ちなみに僕を叩きつけたり、突き飛ばした記憶は父にはないみたいでした。

次の日の朝に「おいおいどうした?誰かにやられたのか?」と優しく聞いてきたからです。


村のみんなも父が祈っているときは邪魔してはいけないと暗黙のルールができているのか、誰も止めることはありませんでした。



これさえ目を瞑れば、父は優しくて暖かい人なんだと思うことにして数か月経ったと思います。


その日はいつもと様子が違いました。



いつものように夕飯を食べた後、父は自室に戻っていきました。

また、祈りを捧げるのかと父の様子を見に行きました。

なんとなく父が祈る様子を見ているうちに、僕にとって父を祈る姿を見るのは日課となっていました。


そっと部屋のドアを開け、覗いてみると......


「な、なるほど......なるほど!なるほど!!」


「分かりました!!私に全てお任せください!!」

何かに納得し父は部屋から出ていこうとしてきました。



その時の父の顔を今でも忘れることができません。





これで昔話は終わりです。

僕は今は村から離れ、都会で一人暮らしをしています。


毎日は大変ですが楽しく生活ができています。

こんな風に昔のことをよく思い出すのですが、疑問に思っていることがあるんです。



父が祈っていた部屋にはなぜ何も置かれていなかったのか。



父はなぜ村人全員を殺してしまったのか。


そして......



ピンポーン......



なぜ父は私をここまで生かしてくれたのか。


考察はお任せいたします。

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