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婚約者がまたどこぞの御婦人を妊娠させたようです

作者: 満原こもじ

 ああ、まただ。

 また妊娠させてしまった。

 しかし僕の性分として告白せずにはおれない。

 覚悟を決めて婚約者に言う。


「すまない、デリラ。実は……」

「まあ、アーロン様! またどこぞの女性を孕ませてきたのですねっ!」

「そ、そう。よくわかったね?」

「もう腹に据えかねましたわ! 婚約を破棄させていただきますわっ!」


 今回の婚約もダメだったか。

 何度目だろう?

 心が折れるんだけど。

 デリラも僕のことはわかってたはずなのになあ。


 浮気しなきゃいいだろうって?

 いや、違うの。

 浮気じゃないの。

 神様の恩恵のせいで。


 恩恵というのは、稀に神様にいただくことがあるという異能のことだよ。

 神様に認められているんだなと考えると誇らしい。

 僕は女性を妊娠させることができるという、神様の恩恵持ちなんだ。

 正常で健康な男性の能力だろうって、そういう意味ではなくて。


 僕は手をかざして念じるだけで子供を授けることができるの。

 おお、まさに異能だって?

 僕も人のためになるいい恩恵だとは思うんだ。

 ただしちょっと問題あり。


 子供ができなくて困ってる夫婦なんて多いわけだよ。

 そういう夫婦に僕の力は、大歓迎されるわけで。

 これこそ神の恩恵だってもてはやされる。

 でもなあ。


「しっかり慰謝料はいただきますからねっ!」

「……」


 バタンと扉を勢いよく閉めてデリラは出ていってしまった。

 彼女も僕の婚約者になった時は、子宝をもたらす素敵な恩恵だって、褒め称えてくれたのに。

 やっぱり婚約はパーになった。

 人間不信に陥りそう。


 いや、僕の持つ神様の恩恵には副作用があるの。

 僕のパートナーに嫉妬されるという。

 つまり僕が浮気して妊娠させたのと同じことになっちゃう。

 神様も因果な恩恵をくれたものだと思う。


 でも子供を求める必死な方々の依頼を断れないじゃん?

 神様の意思にも反する気がするし。

 もうどうすりゃいいのか。

 神様、どうか僕に指針をお示しください……。


          ◇


 ――――――――――シェリル・エルフィンバーグ侯爵令嬢視点。


 わたくしの未来は閉ざされているのです。

 幼い頃の魔道事故が原因で、極めて子を得にくい身体になってしまったからです。

 親しい友人の間でも婚約という話が飛び交う年齢になりました。

 でも私には関係がないですね。

 心が冷えます。


 贅沢は言いません。

 人並みの幸せでいいのですがねえ。

 それすら望めない我が身が呪わしい。

 いえ、衣食住に不自由しない生活に文句を言ってはいけないですか。


 そんな時にアーロン・フレック子爵令息の話を聞きました。

 何と手をかざして祈るだけで子を宿らせることができる。

 そういう神の恩恵を得ているのだそうで。

 何と素晴らしいことでしょう!


 お父様にお願いして、アーロン様のことを調べてもらいました。


『男女二人が揃っている時に、その二人の子を妊娠させることができるという恩恵だそうだ。どうしても子供ができない夫婦に限って依頼を受け、子を宿らせているという』

『素敵ですね。神の恩恵と言うに相応しいです』

『しかしアーロン君自身の婚約はうまくいかないようだな。もう四度も婚約を解消している』

『えっ?』


 何故でしょう?

 神の恩恵を笠に着て、人間性が嫌がられるとか?


『アーロン君に感謝する声はよく聞く。また神がおかしな人間に恩恵を授けるとも思えんがなあ? 不思議なことだ』


 お父様の言う通りです。

 ではどうして?

 一つの仮説が思い当たります。


『代償ではないでしょうか?』

『代償?』

『はい、大きな力を得たことの代償として、自分の異性関係がうまくいかないとか』

『なるほど、あり得るな』


 本当ならば、他人に福を授けているのに、自分が不利益を被っていることになりますね。

 何とやるせない恩恵でしょうか。

 アーロン様がお可哀そうです。


『お父様、フレック子爵家に婚約の申し込みをしていただけませんか?』

『ふむ……』


 家格が違います。

 しかし今のままではわたくしは家の役に立てません。

 アーロン様と婚約してフレック子爵家と結ぶことは、エルフィンバーグ侯爵家のメリットにはなり得ないでしょうか?


『いいだろう。シェリルとの婚約をアーロン君に申し入れてみよう』

『お父様!』

『なあに、少々家格差はあるが、恩恵持ちのおかげでアーロン君の人脈は広いと見るべきだ。結ぶ価値はある』

『そうですね』

『どうやらシェリルの幸せになる唯一の手段のようだしな』


 お父様は私を有力貴族に嫁がせ、アーロン様の恩恵で子を得るという考えを持たなかったようです。

 わたくしの嫁ぎ先に対して不誠実という意識があるのでしょうね。

 それでこそお父様。


『シェリルにはすまなかった』

『いえ……』


 わたくしの不妊の原因は、邸内に開発中の魔道具を多く設置したことにあります。

 当時はある波長の強い魔力に被曝すると、生殖機能に影響があるということが知られていませんでしたから。

 いえ、宮廷魔道士による定期的なモニタリングがなければ、わたくしの異常すら見逃されていたでしょう。


 今後魔道具が一般的になるのは自明と言われています。

 仕方のない事故ではありました。

 わたくし一人の犠牲で魔道具が進歩していくと、無邪気に考えることができるのならいいのですが……。


『前向きに生きて欲しいんだ』

『お父様……』


 有り体に言って娘とは子を生むための政略の道具。

 子を生せないわたくしは、今まで自分のことを役立たずだと思っていました。

 愛されているのだと知って、心が温かくなります。

 こういう話をお父様とすることができたのも、アーロン様のおかげですね。


『早晩、婚約を申し込むからな』


          ◇


 ――――――――――アーロン・フレック子爵令息視点。


 僕の五度目の婚約が成立した。

 もういい加減に嫌になってたんだけど、申し込んできた相手を知ってビックリした。

 シェリル・エルフィンバーグ侯爵令嬢だって。

 何で?


 シェリルって愁いを帯びた美貌で知られる高嶺の花なんだよ。

 淑女中の淑女だし。

 年回りの合う王族がいれば当然嫁ぐことになったろうって言われてて。

 たかが子爵家の嫡男の婚約者になる令嬢じゃないの。

 本来は。


 表向きの理由は僕が神様の恩恵持ちだからってことだった。

 神様ありがとう。

 また今回も婚約破棄されるかもしれないけど、シェリルの婚約者になれたのは生涯の誉れだものな。

 そしたら意外な事情が明らかになった。


「わたくしはアーロン様のもつ神の恩恵がなければ、子を望めない身体なのです」

「どういうことだい?」


 魔道具の事故があったんだって。

 ふうん、魔道具の実用化って難しいんだな。

 でもシェリルほどの令嬢が不利益を負ってしまうなんて理不尽だ。

 どこぞのしかるべき令息に嫁いだ時、僕が協力すればいいのでは? と思っていた。


「アーロン様は過去数度婚約を解消されていると聞いています。ちょっと考えられない事態ですよね? 神の恩恵の代償なのではないかと考えています」


 シェリルは美しいだけでなくて賢い!

 僕の事情まで推測しているとは。

 すぐに僕の持つ恩恵の副作用について話した。

 僕が恩恵の力を使うとどうのこうの。


「まあ、嫉妬の感情が沸き上がってしまうのですか」

「そうらしい。僕にはどうにもならなくて」

「アーロン様は御立派です。わたくしも原因がわかっていれば対処できると思います」

「ほ、本当?」

「わたくしを信じてくださいますか?」

「もちろんだよ!」


 笑顔のシェリルはかわいいいいいいい!

 誰にもやらん。

 シェリルは僕のものだ。

 スムーズに婚約は成立した。


 シェリルの希望で、依頼を受けた時は同行するようになった。

 施術を見ていたシェリルが感心してら。


「あれだけのことで子を授かれるわけですか?」

「うん。何ヶ月かすると大喜びでお礼を言ってくるね。……今までもらった謝礼は婚約者達の慰謝料に消えたけど」

「うふふ。実際に見学させてもらいますと、崇高な行為だなあと思えますね」

「ね? いかがわしいことをしていると思われがちなんだけど、全然そんなことないの」

「尊敬します」


 何てできた婚約者なんだろう。

 僕は幸せだなあ。

 ……これは聞いておきたいことだけど。


「シェリルはどうなんだろう? その、僕が恩恵の力を発揮している時って、やっぱり許せない気持ちになったりするものなの?」

「……」


 無言で頷くシェリル。

 うわああああ!

 シェリルを不快な気分にさせてしまうなんて!

 もうこんなこと辞めたい!


 しかし首を振るシェリル。


「違うのです。許せないとかではなくて。ただ何というのでしょう。アーロン様が取られてしまうような、寂しい気持ちになるのです」

「そ、そうなの? ごめんね。僕が愛してるのはシェリルだけだからね」

「うふふ、嬉しいです。ぎゅっとしてください」

「こ、こうかな?」


 シェリルを抱きしめた。

 神様ありがとう!


「もやもやした感情よりも、感謝の方が一杯だということは申しておきます。アーロン様のおかげで、わたくしも希望を見出したのですから」

「そう言ってくれると僕もありがたい。素直に神様に感謝できるし」

「わたくしも早く、子を授かりたいなあと思うのです」

「僕も授けたいけど」

「手をかざすだけでは嫌ですよ?」


 うわあ、シェリル色っぽい!

 僕にはいろんな表情を見せてくれるんだなあ。

 成人して結婚するのが待ち遠しいわ。

 今までいくつも婚約がダメになってきたけど、それはシェリルに出会うためだったんだ。


 もう一度言っておく。

 大事なことだから。


「シェリル愛してる」


 僕に向けてくれる優しい視線が好き。

 本作はセンシティブな内容を含んでおりますので、感想欄は停止しております。

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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