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クイーン  作者: 河海豚
第一章
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模擬戦③

「さて、私達も始めようか、むっくん」

 尾鷲は改めて銃を二丁構える。

「だからそう呼ぶなって言っているだろ……。ところで、涼花。さっき罠を仕掛けたと言っていたが……、水城に解除の仕方、教えたか?」

 尾鷲は「あっ……」と声を上げて目を大きくさせしばらくした後、舌を出した。


 *


 尾鷲と別れて数分後、水城は公園にいた。公園の入り口には、この公園の名前が書かれていたであろう木の看板があったが、なぜか斜めに切り落とされているようで、「公園」の部分しか読めなくなっていた。入口から入ってすぐの所にはグラウンドがあるが、野球をしようとするなら加減してバットを振らなければボールがあらぬ方向に飛んでいってトラブルの種になりかねない。もっとも、ここには人がいないため、迷惑など考えなくてもいいのだが。

 この場所に目的の旗がある、と尾鷲は言ったが、グラウンドには見当たらない。となると、残る場所は遊具のあるところだ。滑り台にブランコ、ジャングルジム、鉄棒に砂場。水城が考えるおよそ最低限の遊具がそこにあった。

『――さっきそこに罠を仕掛けたから』

 尾鷲の言葉が頭をよぎる。障害物が多く死角もできてしまうため、水城は目をより凝らして旗を探す。「罠がある」とわかっているのに、罠に掛かるのは少し情けなく思う。

(どこにある? まさか……)

 もうエドガーに取られているかもしれない。そう考えた時、あるものが目に飛び込んできた。目的の旗である。ブランコ近くの木陰に、それは立っていた。

(あそこか。でも……)

 罠が仕掛けてある。それはワイヤーのようで、辺り一面に張り巡らせてあるのが目に見えた。旗にたどり着くまでいくつ引っかかるかわからない。

 何か手立てはあるか。そう考えて、水城は尾鷲から受け取ったナイフを取り出した。このナイフを渡したからには、何か特別な機能のあるものなのだろう。罠を解除する、ということなどのように。

(そうとしか考えられない。とりあえず、このナイフを)

 水城はナイフを鞘から抜いた。一見するとただのナイフ。だが、どこか違和感があった。

 おかしなところはナイフの刀身。その輪郭がぶれて見えるようになっていた。

(残像? もしかして刀身が振動している?)

 鞘から抜き切ることがスイッチになっているのだろう。水城が鞘に戻し始めたところ刀身が静止した。

 もう一度ナイフを抜く。また振動をし始めた。

 工業用に超音波を利用した高周波カッターというものがある。普通のカッターで切れないものも、高速で振動する刃で簡単に切ることのできる、というものだ。恐らくこのナイフはそれと同じ機能を搭載したもの。ワイヤーすらも触れるだけで、簡単に切ることができるだろう。さしずめ「超音波ナイフ」と言ったところか。

(あいつが渡したナイフ。これでワイヤーを切ればいいんだよな。あいつが罠を張ったらしいし)

 ワイヤーがどんなことに反応して、罠が発動するかはわからない。だが、尾鷲がナイフを渡した限り、ワイヤーを切れば解除、ということになるだろう。

 水城は「超音波ナイフ」を一番近くにあったワイヤーに近づける。振動するナイフは、ワイヤーに触れるか触れないかの距離に近づけただけで切り込みを入れることができた。水城は、そのまま撫でるようにナイフを下ろすと、ほぼ何の抵抗もなくワイヤーは切断された。切断と同時に、水城は切れたワイヤーから飛び退いた。続けて辺りの様子を見る。数秒経ったが、周りに変化はない。

(――どうやら正解みたいだ)

 推測が確信に変わった。水城は次々に、罠を解除していく。最初に罠を解除した場所から旗に向けての、一直線上に存在するワイヤーだけを切ればよいのだが、水城はそれ以外にも周りのワイヤーを全て切るつもりだった。万が一にも尾鷲以外の人間がこの場に現れた時のための、旗を取った後の逃げ道の確保。それを考えてのことだ。

(これで、最後か)

 水城は残り一つのワイヤーに「超音波ナイフ」を近づける。それまでと同じように、いとも簡単にワイヤーは切断された。

 水城は旗に手を伸ばす。これを取れば、目的は達せされる。取った後は終了時間まで逃げればいい。自分が持っているため、うまくいけば戦闘も避けられて模擬実戦はクリアだ。旗の柄を握る。だが、


 ――――水城はこの時油断していた。


 結果、水城は旗を取ることができた。しかし、どうやら罠を全て解除していなかったようだ。それは、今の水城の状況を見るとよくわかる。

 水城は両足首をロープのようなもので縛られ、吊るし上げられていた。目的の旗には罠が仕掛けられていた。旗の根元は埋まっていたが、その部分に、見えないようにコーティングされたワイヤーがついていたようだ。水城は旗を取った瞬間に、ワイヤーによる抵抗を旗から感じたが、考える間もなく罠が発動。足元からロープが現れ足首に巻き付き、そのまま水城の身体を吊るし上げた。ロープの姿形は、先程尾鷲が水城に使ったものと同じものだとわかった。

(どうしよう……)

 ナイフがあれば、どうにかしてロープを切って脱出できるのだろうが、あいにく持っていたナイフは、罠に掛かった時に落としていた。水城が吊るされているすぐ下に落ちてはいるが、手が届かない。だが、旗を落としていないだけ幸いだと思っていた。

 このままでは、誰かに見つかる可能性大だ。味方である尾鷲ならまだいいが、それ以外では駄目だ。水城は今、旗を持っている。これでは確実に戦闘になるだろう。

 水城が今持っている武器は銃しかない。だが、まだ撃ったことはない。だから、太刀打ちできないだろう。それに、使ってしまえば敵に居場所を教えることになってしまう。

 そんな心配を余所に、事態は進行する。後方から足音が聞こえる。水城は振り子のように身体を動かし、音のする方向へと向いた。

「あっ、水城君」

 水城の前にエドガーが現れた。

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