模擬戦 開始
「ここって、地下だったよな……?」
水城は見上げて唖然としていた。
上には、青い空と流れる白い雲。普段であるなら、なんの疑問も抱かない当たり前の様子だが、今回は違う。今、水城が立っているのは、地下に造られた施設だ。しかも、その上には学校が建っており、空など見ることもできないはずである。
『水城、まだ位置に着いてないのか?』
水城のパーソナルリンクから椋野の声が発せられた。これにはトランシーバーの機能もついている。
「本当に地下か、ここは? 空なんかあって、それに、家ばかりだし」
『無視か。まあ、いい。説明してやる。市街戦用に作られたからな。本当の「魔」との戦闘は、住宅地で行われるのが基本だから、周りに家のような建造物が多いのは当たり前だ。それと空があるのは、さっきも言ったがここは市街戦用の訓練施設だからな。全天候を再現できるようになっている』
「どうやって造ったんだよ。そんな装置……」
『さあな。その辺のことはクイーンに聞け。俺は別に興味はないし、説明されたところで理解できないだろう。それよりも、早く位置に着け。着いたら、ちゃんとグループトークに繋げよ』
椋野は話を切った。水城のパーソナルリンクの画面には、「通話終了」の文字が出た。
先程、椋野が提案したチーム分けの方法は次の通りだ。「訓練開始して一番始めに会った者とチームを組む。ただし、相手がもうチームを組んでいた場合を除く」というものである。それと、始めの位置は全体を格子状に四つの区画にわけ、そのうちの最初の位置をくじ引きで決め、他の人にはわからないようになっている。水城のものは「三」であった。
水城は位置に着いて、パーソナルリンクを操作した。数ある機能の中から「グループトーク」と表示された項目を選択する。これは、リアルタイムに多数の人と通話ができる、いわゆるボイスチャットのようなものだ。
『遅い!』
グループトークに繋いで一秒もしない時だった。尾鷲の声が腕から響いた。
『まあまあ、スズちゃん。水城君があの部屋から出たのは最後だったわけだし、ここは怒らないであげようよ』
次はエドガーだ。尾鷲を宥めるような口調で言う。
『……しょうがないわね』
『もういいか、涼花? じゃあ、あと三十秒したら始めるが、訓練中はこのグループトークは使うなよ。今回のルールの一つだ』
緊張した三十秒が流れる。水城には、それ以上に長く感じた。
『……三、二、一、スタート』