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クイーン  作者: 河海豚
第一章
14/30

模擬戦 ブリーフィング

 扉が開かれた。先に、尾鷲、エドガー、椋野の順に降りていく。

 水城がエレベータを出ると、そこは一つの部屋であった。広さは教室くらいで、全体的に白。壁にはロッカーのようなものがズラリとあって埋め込まれている。室内には、真ん中に大きなテーブルが置かれているだけで、それ以外には何もないその空間に、水城は無機的な印象を抱いた。

「オイ、早くこっちに来い」

 先にテーブルに近づいていた椋野が水城に言う。水城は駆け足で追いかけた。

 テーブルには椅子がないため、立つ形となる。水城は、指定こそなかったものの、エドガーの横、尾鷲の対面に立った。

「お前ら、そこで待ってろよ」

 斜め前に立っていた椋野がテーブルを離れていった。

「さて、時間もないけど、模擬戦の内容をここで少し説明しておこうかな。君は初めてだからね」

 尾鷲が切り出す。

「まず、時間は二十分から四十分。連続でね。次に、『今回は二つのチームに分かれること』ってクイーンに言われたからその通りに。それでルールは」

 尾鷲はパーソナルリンクを操作する。立体画面が映し出されたが、そこに映るのは一本の旗。

「この写真みたいな落ちている旗を拾って終了時まで持っていること。簡単な話、旗取り合戦ね」

「……それだけか?」

 水城が問う。だがそれを、尾鷲は小さく噴き出すように笑った。

「何がおかしい?」

「いや、ね。君は簡単に考えていると思うけど、そんな簡単にはいかないね」

「持ってきたぞ」

 椋野が戻ってきた。その両手には、大きなバッグがある。重いのか、取っ手のある部分が伸びてはいるが、椋野は平然としている。

「ありがとう、むったん」

「むったん言うんじゃねえよ、エド。しかも、お前の言い方じゃあ、全然感謝の気持ちが伝わらねえぞ」

 椋野は毒づきながら持っていたバッグをテーブルの上に置いた。ゴトリといった音と共に、バッグは形を崩した。

(何が入っている?)

 水城が手を伸ばそうと身を乗り出したが、それを見たエドガーが一方を素早く奪い取った。

「ああ。悪いね。これは僕のだからさ」

「俺の分も入っているんだがな」

「そうだったね。すっかり忘れていたよ」

「……嘘つけ。二日前の作戦でもそんなこと言っていたぞ、お前」

 エドガーは中から布に包まれた長い棒状のものを取り出して、バッグを椋野に渡す。

「水城君、そのバッグ取ってくれない?」

 エドガーと椋野のやり取りを眺めていた水城に、尾鷲は言う。水城はバッグの紐を掴んで持ち上げようとした。だが、

(うっ……、重い。これを椋野は二つ持ってきやがったのか?)

 両手で持ち上げるのがやっとだ。それを尾鷲はニヤついた表情で見ている。水城は尾鷲が何を考えているのかがわかった。

「なんだよ……」

「べっつにー」

 大方、やっとのことでバッグを持ち上げる自分のことをバカにしているのだろう、と水城は思った。

 笑う尾鷲の前に水城はバッグを置いて元の位置に戻った。尾鷲は中を確認して、箱のようなものを六つ出した。そのうち三つを持って、水城の方に手を向けた。

「はい、訓練用マガジン三つ。後はナイフとかも用意した方がいいと思うよ。この中から選んで」

「ちょ、ちょっと待てよ! 武器? お前らに向かって撃てってのか!?」

「はあ?」

 ブレザーの袖の上から西洋甲冑に使用するガントレットのようなものを着けていた手を止めて、椋野は水城の方に向いた。

「言っただろ、模擬戦だって。俺達で相手をして、お前の実力を見るんだよ。もしかして、ただの旗取り合戦とでも思ったか? その考えは違う。なんでもありなんだよ、この模擬戦では」

 続けて、日本刀を腰に挿していたエドガーが言う。

「だ~いじょうぶ。僕らは死んだりしないから。物理的な意味でもそうだし、水城君ごときの腕じゃあね、おもいっきりやっちゃっても、どうってことないよ」

 その言葉には、自分に対しての侮蔑の念が少なからず含まれているように、水城には聞いて取れた。だが、簡単に相手はしない。それよりも気になることがあった。

(死なない? 物理的な意味で?)

 水城は自分の銃を取り出して眺めた。銃は模造品ではなく本物だ。引き金を引けば、間違いなく人を殺すことができる。

「どうした? マガジンの取り替え方も忘れたのか?」

 椋野が言う。

「そんなことくらいできる」

「ふん、そうか。そうでなくては困る。いちいち説明するのは骨が折れるからな」

 入っていたマガジンを抜いて、もらったうちの一つを入れようとする水城だが、どれだけ力を加えても入らない。

「オイオイ。前と後ろが反対だぞ。冗談のつもりか?」

 椋野の指摘の後、エドガーが笑い始めた。水城は慌てて抜いて、もう一度入れ直す。

「笑い過ぎよ、エド」

「いや、だって。水城君慌て過ぎだからさ。おかしくって。……ほら、むったんとスズちゃんは、そんな素振り全然見せないでしょう? だから新鮮でさ」

 エドガーは腹を抱えて苦しそうに言った。

「だから、むったん言うなっての……」

「はいはい。そこまで。ったく、全然進まないじゃない。それで、どうするの? チーム分けだけど」

「スズちゃんは、僕と一緒がいいよね」

「うるさい。殴るわよ」

 エドガーが身を乗り出したのと同じタイミングで、尾鷲はその顔面に拳を突きつけた。エドガーの顔スレスレで止まる。

「やれやれ。つれないなあ」と言って、エドガーは眉一つ動かさずに元の体勢に戻る。

「じゃあ、こういうチーム分けの方法はどうだ?」

 椋野がもったいぶる声色で続けた。

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