校長室⑤
「行っちゃったか。さあて、私も見る準備、準備~」
校長室に一人残ったクイーンは、椅子に飛び乗って座り、机のボタンを操作した。先程出てきた隠し扉は、床からせり出してきた本棚によって再び隠れてしまった。
「次は、えーと……、これだ!」
「……あまり僕の部屋をいじらないでくれるかな」
クイーンが先程とは違ったボタンを押そうとした時、一人の老年の男が現れた。黒に近いグレーの上下のスーツを着ており、同じような配色の髪は多い。それと、威厳がある髭も蓄えている。手に持っているのは、大きな鞄だ。
「あっ、お帰り。随分と早かったね」
「ただいま。まあ、そんなに大事な要件じゃなかったしね。でも、本土を離れる前に連絡はしておいたはずなんだけどなあ」
「ちょっと待って」と、クイーンは頭に手をやった
「本当だ。今気づいた」
「……一度メンテナンスくらいした方がいいんじゃない? こっちから優秀な人材をよこそうか?」
「フフフ。冗談だよ。冗談。私はコンピュータだけど、自分のことを含めて何でも自分でできるんだからね。気づいてたって。さっきはちょっと気持ちが高揚して忘れていただけだよ」
「……例の連絡してくれた子かい?」
クイーンは一度頷くと、先程押せなかったボタンに触れた。「ピッ」という電子音の後に、机からはコンピュータのデスクトップが現れた。その画面に映像が映し出される。
「ここの彼のことかな?」
「ええ」
老年の男は、画面に現れたエレベータ内の生徒の中から水城を指差した。
「それでどう? 見た様子での彼の見込みは」
「うーん」
クイーンは腕を組んだ。
「一概に良いとも悪いともいえないかな、今のところは。還元率がここ数年では一、二を争う最高クラスだし、基礎能力は高いとは思うんだけど、どこか私にも見えないところがあるし。まあでも、今からすることを見ればすぐわかると思うよ」
「そうか。じゃあ、その楽しみが始まる前に職員室の方に挨拶してくるよ。それと、できれば僕の荷物を片付けてくれると助かるんだけど……。頼める?」
クイーンは少しの間頬を掻いた。
「しょうがないなあ。じゃあ、やっておくよ」
「悪いね」と、老年の男は校長室から出ていった。クイーンはまた一人で残された。
(でも、本当に楽しみね。今回ばかりは)
クイーンは画面を見ながらニヤリと笑った。