世界の外敵と対魔教育機関
完全に扉が閉じられた後、部屋は一度振動して、少しの浮遊感の後、水城は「ウィーン」といった音を聞いた。
「エレベータ……。下に向かっているのか?」
「そう。その通り」
水城の呟きに、エドガーは反応した。
「これはエレベータになっているんだ。学園地下に向かっている」
「そうか……」
反応の薄い水城を見かねたのか、エドガーは水城に近づいた。
「改めて自己紹介をしようか。僕の名前はエドガー=ノーバード。まあ、気軽にエドって呼んでもらえればいいからさ。これからよろしく頼むよ」
「何か質問はない、水城君?」と、エドガーは続けた。水城は一度思案した後、「じゃあ」と言ってエドガーに向く。
「『チーム』ってなんだ? 模擬戦って? 何かスポーツでもするのか?」
「えっ?」と、エドガーが声を上げた。青い瞳が大きく丸くなってビー玉のようになった。
「……あっ、そうか。この世界での記憶はあまり残っていないんだよね。それはわからないのも納得だな。それと、高等部入学の一年生だからまだ一回もやってないか。四月だし」
エドガーは一人で頷く。
「『チーム』だけど、スポーツをするわけじゃないんだ。僕らはある勢力に対抗するために作られた集まりなんだよ。選定部って言ってね」
(選定部……。そういえば、さっきもそんな単語を聞いたな)
「この島の先鋭の集まりさ。色々部署があるんだけど、その中でも戦闘部隊に僕らは所属している。『チーム』を組んでいてね。チームネームは『イーグル』。だから、この適性検査は水城君の力量を計るため、ってこと」
「おいおい、違うぞ、エド。別にこいつのためだけに、この模擬戦をするわけじゃない。俺達の日々の訓練の一つさ。通常のカリキュラムでも、お前はいずれやることになる」
椋野が割って入った。今まで興味がないように振る舞っているように水城は思っていたが、そのようなことはなかった。だが、壁にもたれて腕を組むという体勢は崩れない。
「じゃあ、さっき言っていた『ある勢力』ってのは?」
「……『魔』、だよ」
今度は尾鷲だ。
「『ま』……、って、なんだ?」
水城が首を傾げる。
「天使とか悪魔とかの悪魔の魔と書いて『魔』だよ。今から五十年ほど前、突如としてこの世界に現れた異形の者達のことを私たちはそう呼んでいる」
(『魔』、か……)
いつの間にか身震いをしていたのを、水城は自覚した。それ自体を覚えていた様子はなかったが、身体が無意識に反応を示した。
「そういえば、……エドはさっき『対魔』とか言っていたよな。どういう意味だ?」
「うれしいね。エドって呼んでくれて」
説明の役割を椋野と尾鷲に奪われて時間を持て余し、髪をいじっていたエドガーは明澄したように顔を輝かせた。
「文字通りだよ。魔に対抗するためだから『対魔』。この島全体がそのために作られているし。学校や学園は初等部から高等部まで全て『対魔教育機関』と特殊なものだしね」
「その対魔教育機関っていうのは?」
「初めての『魔』の襲撃の何年か後に、新学校令だか何だかで作られた教育制度だよ。普通教育の義務教育及び高等教育過程に当たる時期に設置する。中は前期初等部四年、後期初等部二年、中等部三年、高等部三年となっていて節目ごとに入学が可能。試験を課してね。でも結果的に、高等部の人数が多くなるね。初等部の初めから、こんな危険な所に入れる親なんてのは少ないからさ」
「だが俺は、そんな親は賢明だと思う。今や世界中どこにいても、『魔』の脅威はある。対抗手段を身につけ、自分を含めて周りの人間を守れるようになるにはこの方法が手っ取り早かったりするしな」
「まあ、ね……」と、エドガーは椋野の言ったことに、不満げな表情をしたまま沈黙した。
「……オイ、リーダーさん」
水城が尾鷲の横に近づいた。「ん?」と、尾鷲が反応を見せる。
「なんだ、この空気? なんでピリピリしてるんだ?」
水城の言うことに、尾鷲は顎に手をやって考えるような素振りを見せたが、
「……さあ、私は知らないわ。自分で聞いてみたら?」
尾鷲はしれっと返した。
「……お前、絶対知っているだろう」
「そうかもね。でも君、私に対して失礼な発言が多いよ」
水城が毒づいたが、尾鷲の挙動は変わらない。会話の終わりを告げるようにチャイムが鳴った後に、エレベータが止まった。