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秋音は本の虫

うぇいうぇい(深夜テンション)

地味な扉を開いた先には、天井まである本棚が沢山あった。どれもびっちりと本が詰め込まれていた。

本棚で出来た道の向こうには受付台が本に埋もれるように設置され、テッポウユリの生けられた花瓶が無造作に置いてある。

「あのー、、、。」

声をかけたものの、返事が返ってこない。

仕方ないので、秋音は本を物色することにした。

そこら中にある本は、大衆小説から学術書まで様々で、見ていて飽きない。

「ふぉぉぉぉ、、、!、、、ん?」

ふと顔を上げると、背表紙に『植物の図鑑』と書かれた本を見つけた。

ばっと抜き出して本を開く。

本には、秋音があの家の世界で慣れ親しんでいた沢山の植物の絵と名前が描いてある。

夢中になって読むうちに、何となく嬉しくなってきた。

ぱたんと本を閉じ、購入しようと受付台へ歩き出すと、他にも色々な図鑑がある事に気付き、全て手に取っていく。

『獣の図鑑』、『魚の図鑑』、『虫の図鑑』、そして、、、

「魔物の、図鑑、、、、。」

そう。先程二人が話していた、「まもの」についての図鑑だった。

それも手に取り、ぱらぱらと捲る。

見たことの無い角が生えた兎や、背中がとても硬く針山となっている鼠。

お伽噺に出てきそうな生き物が多く、秋音はつい読み耽ってしまった。

「おい、立ち読みするなよ、嬢ちゃん」

突然、嗄れた声で話しかけられ、思わず秋音はビクッとしてしまった。

「え、、あ、す、すみませんっ」

本をバタンと閉じて、声がした入口の反対の方を見る。

そこには、渋い緑の前垂れを着た、五十歳程の男がいた。

「あの、店主の方ですか?」

恐る恐る聞く。だが、男性は目線を少しだけ右下に向けるだけだった。

「えっと、じゃあ、この本を買いたいんですが、、、。」

「、、、」

男性は何も言わずにこちらを見ている。

「えーっと、、、、」

こうも何も言わないと、困ってしまう。秋音はどうしたらいいか悩んでいた。

すると、男性が口を開いた。

「あぁ、すまない。」

「へ?」

何を言われるかと身構えたが、謝られた。秋音は間抜けな声を出してしまった。

「その本は古本の上、売れ残りなんだ。だから無料でやるよ」

「え、でも、、、」

「いいんだよ。それと、ほれ」

おどおどしている秋音に、男は本と麻袋を手渡してきた。

受け取った本には、『魔術の基本』と書かれている。

「魔術、、、?いいんですか?」

「あぁ、問題ないだろう」

「じゃ、じゃあ、ありがとうございます」

よく分からないが、くれるらしい。礼を言って店から出る。

「達者でな、嬢ちゃん」

扉が閉まる瞬間、また声をかけられ、ビクッとして振り返る。

扉は閉まり、『閉店』と書かれている。

「何だったの、、、?」

疑問に思う所はいっぱいあるが、くれたものはくれたのだから有り難く受け取ればいい、と思い直し、麻袋に本を詰めて秋音は二人の元へ向かった。


「えへへ、きょうはいっぱいかえたね!」

傾く橙色の夕日のなかで、食材がたっぷり入った麻袋を抱えながら、キキラがほくほくとした笑顔で言う。

「まぁ、そうだね!お金はどんどん溶けたけど!」

メイカもにっこり笑って言うが、目が笑っていない。

「ま、まぁまぁ。あっ、美味しいもの買えたんだから、今日は豪華な御飯だよ、ね!」

なんとかメイカの恐ろしい笑みをやめさせようと頑張る秋音。

「あ、そっか!やったねー!」

「確かに!楽しみー」

今度こそにっこり笑った。ほっと胸を撫で下ろす。

「そういえば、シュウのその本ってどうしたの?あたし買った覚え無いけど、、、」

「あ、何か本屋のおじさんから貰ったよ。お金って言ったけど、いらないって」

不思議そうに秋音が抱える麻袋を見ながらメイカが聞いてきたので、正直に答える。

「へぇ、、、。変な人もいるんだねー」

勝手に貰ったから怒るかも、と思ったが、変な人で済まされ、安心するような気の毒なようなよく分からない気持ちになった。

そうこうしているうちに、門の列に着いた。

しばらく並んでいると、三人の番が来た。

入る時とは別の人で、甲冑の頭だけ脱いでおり、野性味溢れるスキンヘッドの強面が露わになっている。

「通行証を出して下さい」

重低音が響く。

「「「はい」」」

三人は同時に通行証を差し出した。メイカはギルドカードも一緒だ。

それぞれの通行証を受け取り、入る時と同じ白い箱に翳す。

すると、通行証がぽうっと緑に光り、書いてあった字が消えた。

それを確認すると、門番の中年男性は、大きな傷のある口元をにっと上げ、顔に似合わない優しげな笑みを浮かべた。

「確認した。間違いないようだな。ご協力感謝する」

そう言いながらメイカにギルドカードを返した。

「今から家に帰るんだろ?なら、しっかり気を付けろよ。闇に紛れて襲う魔物だっている。それと、あと四半刻遅ければ、もうこの門は閉まっちまうからな。次来るんなら覚えとけ」

忠告までしてくれた。見かけによらず、優しい人のようだ、と秋音は失礼な事を考えた。

「分かりました、ありがとうございます。気を付けます」

「「ありがとうございます」」

「おう」

三人が礼を言ってお辞儀をすると、にかっと笑ってくれた。

門番に見送られつつ、三人は来た道を戻っていく。

わいわいと話しながら、防壁の横を歩き、山道に入る。

朝と同じ道なのに、夕陽に照らされた道はとても輝いて見えた。


帰りは行きより少しかかり、家に着く頃には辺りは真っ暗だった。

「すっかり暗くなりましたね、、、。よし、入ったらすぐ御飯にしましょう!」

いつの間にかメイカの口調が元に戻っている。

「うんっ!ごっはん、ごっはんー!」

キキラは平常運転で、楽しそうに歌っている。

二人の後ろ姿を見ながら、秋音もまた楽しげに家に入っていった。


その後、三人は御飯を食べ、湯浴みをし、着々と寝る支度をした。

「そうだ、アキネ様!」

買ってきた物を三人で整理していると、メイカが思い出したように言ってきた。

「なんや?」

「アキネ様、本いりますか?」

何かと思ったら、本はいるかと聞いてきた。

「えっ、本?うーん、何の本や?」

驚きつつも、返事を返す秋音。

「えっと、昔キキラ用に買った、お伽話や世界の歴史みたいな本なんですが、、、」

「れ、歴史、、、?そらキキラ用には早ない?」

今三歳だと言うのなら、昔というのはいくつの時なのか。

「そうですかねー?まぁ、それより、いりますか?」

さらっと話を逸らしてもう一度聞いてくる。

「え、えーっと」

「どうですか?」

「あ、う、うん。なら、折角やし貰おかな」

結局、強すぎる圧に負け、秋音が貰うこととなった。

「よかったー、我が家のごみ予備軍を受け取ってくれる人がいて」

メイカがにっこにこで聞き捨てならない事を言った気がする。

「、、、ん?なんか言うたかいなあ?ごみ?」

にこりと笑ってメイカを見る秋音だが、その目は全く笑っていない。

何故か周りに陽炎のようなものが集まり、迫力が増している。

「ひっ!い、いやなんでも、なんでもないですっ」

焦った顔のまま作り笑いを貼り付けてなんとか弁明しようとするメイカ。

「えー?ごみっていったよ、おねえちゃん」

キキラの無自覚に止めを刺す。

その一言で秋音の笑みがより深まり、凄みが増している。

「次わっちにごみを渡したら、、、なぁ?」

可愛らしい幼女の笑みのはずなのに、般若に見える。

「ひゃ、ひゃいっ、もう渡しませんっ」

首を竦めながらもメイカが言った。

「、、、なら良し」

恐ろしい般若が消え、いつもの可愛い顔に戻った。陽炎も消え、もうどこにも凄みはない。

ようやく許しを貰えたメイカは、「思ってたよりも怖かった、、、」とぶつぶつ呟いている。

「あーねこわかったねぇー」

キキラがほけーとしながらぽつりと言った。

思わずぶんぶんと頷きそうになるメイカだが、また怒られるのは御免だと抑えた。

「ふふふ、、、そうかい?」

笑って言う秋音だが、笑みに温度が無い。

それでもキキラは全く気付かず、どこ吹く風だ。寧ろわざとかもしれない。

この絶対零度に耐えられるキキラはいつか大物になる、と確信するメイカであった。


「おやすみなさい、キキラ、アキネ様」

「ふぁ〜あ、、、。おやすみ、お二人はん」

「んぅ、、、や、しゅみ、、、」

眠そうにゆっくり答える二人。

キキラに至ってはもう寝ているのではないかと思うほど目が開いていない。

そんな二人に優しい笑みを浮かべつつ、メイカがふらふらと寝ながら歩くキキラを部屋まで連れて行く。

「ん、、、ほな、わっちはもう寝るなぁ。おやすみ」

眠気に耐えきれなくなり、部屋に向かおうとする秋音。

だが、メイカに呼び止められた。

「あの、アキネ様!」

「ん、何だい?」

「さっき言った本、一応部屋に置いておきました!要らなければ捨てていただいて結構ですが、取り敢えず差し上げます」

また塵を押し付けられるのか、と思ったが、捨てていいと言っているので気にしないことにした。

「あぁ、分かった。その、、、えっと」

歯切れが悪くなる秋音。メイカも不思議そうにしている。

「何ですか?」

秋音は何も言わずくるっとそっぽを向いて部屋に入ろうとしたが、扉を開けた所で立ち止まった。

「、、、ありがとう」

「!はいっ!」

にこっと笑って、とても嬉しそうにメイカが返事をする。

ほんのり赤い九尾の耳をピクピクさせながら、今度こそ秋音は部屋に入っていった。


バタン、と音を立てて扉がしまった。

秋音は耳も顔も赤くなっていたが、何故か少し満足感があった。

「、、、あ、めいかが言うとった本ってどこやろう」

ふと本のことを思い出して探してみると、すぐに見つかった。

理由は簡単。

数十冊の本が机の上に山となって置かれていたからだ。

「こ、これききらに渡しても読まへんやろうな、、、」

顔をひくつかせながらも、本をパラパラと捲っていく。

小さい子が読むようなお伽話や冒険譚、簡単に説明された国の成り立ちなどの絵本に、ずっしりとした分厚い歴史の資料書、事細かに生態や特徴、危険性などが書かれた生物の図鑑、よく効く薬の作り方〜上級編〜、、、などなど、途中から明らかに三歳児が読むものではない本が混じっている。

だが、秋音も中身は十九歳。その途中からの本の方が気になるし、性にも合っている。

それらのみを抱き抱えて寝台に運び、寝転びながらちょっとだけ読むことにした。

「ちょっとだけ、、、あとちょっと、、、、。」

思った以上に面白く、頁を捲る手が止まらない。悪いのは手だ、と心の中で言い訳しながら読み耽る秋音は、例の如くちょっとどころでは済まなくなり、いつの間にか十冊近く読み切る頃には朝を迎えているのであった。

またもや題名変えちゃいました。すみません。

私は基本、書きたいときに書き溜めて一気に投稿!という形をとっているので、続きを別の日に書いていると、途中で「題名この方がよくね?」となって変えることがしばしばあります。

それだと題名を見て「へー、何だろー」とか思ってくださった方に申し訳ないですし、次回予告やめた方がいいですかね、、、?

思う所があるぜ、俺!という方は一言物申してくださると、優柔不断な私も助かります。

とか言いつつ、取り敢えず今日は次回予告しますけど。


見て下さった方、ありがとうございます。

次回、「秋音、言い争う」です。

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