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秋音、街へ行く 後編

ちょこっとだけ短めです

「ひっさしぶりの、おかいものー!」

楽しそうに歌いながら、家の外の森をルンルンで歩くキキラの後ろをメイカと一緒について行くこと、半刻弱。

獣道のようだった道が、段々と歩きやすいきちんとした山道になるにつれて、人の気配が濃くなってきた。

「なぁ、お二人さん。これから行く街ってどないな、、、、」

メイカが微笑を浮かべながらこちらを見てくる。だが、その視線は洒落にならないほど冷たい。

「ひゃぇっ、な、なんでもない。で、どんな所なの?」

慌てて言い直す秋音。慌てすぎたからか、変な音が出てきた。

「あぁ、シュウは街に行くの初めてなの?大丈夫だよ!みんな気の良い奴等だからさ!」

メイカがにこりと笑って答える。氷の微笑はもう見る影もなく、秋音は内心ほっとした。

「うん!みんなやさしくて、それで、おいしいものもたくさんあるんだよ!」

キキラもにっこにこで言う。あの凍てつく視線には気が付かなかったようだ。ある意味、幸せな性格だろう。

「へぇ。悪い所じゃなさそうでよかったよ。正直、少し不安だったからさ」

落っこちてきてから、秋音は街は疎か二人以外の人を一度も見ていない。今までの経験も相まって、不安を覚えていたのだ。

そう言って、秋音ははっとした。

自分は何を言っているんだ。弱音を吐くなんて、怒られるに決まっている。

実際、あの家でもそうだったのに。

「そうだよねー。あたしも、初めて行く場所は緊張することあるもん!」

「あ、あたちもあたしも!」

「、、、へ?」

思わず、間抜けな声が出てしまった。

叱られると思っていたのに、二人は叱るどころか共感してくれた。

「お、怒らないの?」

恐る恐る聞いてみる。

「「ふぇ?」」

二人とも、見事にハモっている。

「え、何で怒られると思ったの?そんな意味分かんないことするわけないじゃん!」

「しょうだよー!」

本当に意味が分からない、というふうに秋音を見つめる二人。

秋音も、あの家とは違いすぎる態度に意味が分からず、「ん?」となって固まった。

「、、、はっ!え、あ、そ、そう?、、、いや、なんでもないよ、ごめん」

「そう?、、、なんでもないならいいけど。」

少し疑うようにこちらを見てくるメイカから目を逸らしながら、誤魔化すように答える。

何となく、言いたくないし知られたくないと思って、咄嗟にそう言ってしまった。

今までそんな事は思ったことも考えたこともなかったのに、昨日も今日も心が弱い気がすると思い、秋音は左手首を強く握った。

「、、、ほら、もう着くよ!くれぐれも名前と口調を間違えないように!」

「あーい!」

「は、はぁい」

しばらく黙り込んでいたメイカが急に話しかけてきたので、少し驚きつつも、秋音は自然に返した。

突然、目の前の森が途切れた。

木々に遮られていた光が目に飛び込んできて、痛いくらいに眩しい。

目が慣れてきて、ようやく前をまともに見れるようになると、そこには、裕に縦に大人が二十人程収まるような、巨大な石造りの壁があった。

三人はその壁沿いに人が十人位並んでいる場所へ向かう。

「う、うわぁ、、、なに、これ?」

苔生した巨大な壁はそれだけで十分驚きだが、何故か壁周辺は薄っすら虹色の光が見えるのも更に秋音を驚かせていた。

「これはねー、防壁!街に魔物みたいな害を為すものを入れないとか、門番を通さずに勝手に出入りさせないとか、そういう目的で作られたんだよ!」

メイカがはきはきと説明してくれる。

「へぇ、、、。てことは、そのまものとやらはこんな頑丈な壁がないといけないような危険な奴なの?」

「うん!あのねー、まもにょはねー、ちからもまほうもつよくてきけんなんだけどぉ、ちゃんとせいたいをしっていれば、あぶなくないんだって!」

今度はキキラが一生懸命説明してくれた。

「ふうん、、、。まほう?を使ったり、純粋に力を使ったりして襲ってくる、でもその生態にあった対応をすればそこまでの危険性はない、てことかい?」

キキラの話を反芻しながら、自分なりに纏める。

その通りなのなら、まものとやらもしらず、非力な上にまほうも使えない自分はとても危ないのでは?と思い、思わず身震いしそうになる。

顔を少し青褪めさせている秋音に、メイカが明るく話しかけた。

「大丈夫、もし魔物が来てもあたしが二人を守るよ!それでも不安なら、一緒に訓練すればいいから!」

ね?と元気に笑ってみせるメイカにつられて、秋音も笑った。

その笑みには、もう不安の色はなかった。


門の目の前に来た。

門のすぐ側には門番らしき屈強な男性が二人いて、お揃いの見慣れない甲冑プレートアーマーを着ており、それぞれ入る者と出る者に話しかけ、何かを受け取っては渡している。

甲冑の隙間から見える目は優しそうに見えるが、怪しい所が無いかと探るような鋭い目にも見える。

とうとう三人の番となり、門番の前に立つ。

「身元を証明できる物はお持ちですか?」

思っていたよりも若く、高めの男の声がした。

「はい、あたしは冒険者ギルドのギルドカードでお願いします。この二人は知り合いから預かっている子で、特に持っていません。」

すらすらと答えるメイカ。ここでは、秋音とキキラがメイカの知り合いの子で、預かっているという設定らしい。

門番はそれを聞きながら、木の板に書き留めている。

「そうですか。では、ギルドカードを掲示して下さい。」

にこやかな笑みを甲冑の向こうで浮かべる門番。優しい笑みだが、少し警戒の色が見て取れる。

「はい」

メイカが秋音の掌程の小さくて薄い長方形の板を渡した。

これが『ぎるどかーど』なのだろうな、と思いつつ鉄製の板を見つめていると、門番が白い箱に翳してから返した。

「確認出来ました、メーナさんですね。では、次は君達だ。名前は何て言うのかな?」

しゃがみ込んで目線を合わせながら、門番が二人に聞いてくる。

「ぼくはらう、こっちはしゅーだよ。おとうちゃんがおしごとだから、そのあいだおねぇちゃんにあじゅかっててもらいなしゃいっていわれたにょ。」

キキラもすらすらと説明する。未だ二、三歳だろうに、こんなにきちんと言えるのか、と秋音は心の中で感嘆する。

「ラウ君とシュウ君だね?分かったよ。じゃぁ、歳はいくつかな?」

「あっ、僕三歳。らう「ぼくもー!」うん。双子なの」

秋音が言うと、キキラが割り込んできた。

「分かりました。どこから来たのかは言えるかな?」

「えーっと、、、どこだっけ?」

「ぼくもわかんにゃい」

何処から、と言われても、森の中としか言えない。

「あたしが答えてもいいですか?まだ来たばかりなので、多分村の名前知らないです」

二人が困っていたら、メイカが助け舟を出してくれた。

「あぁ、そうなんですか。では、どうぞ」

「はい、私が住んでいるのはラライ村から少し離れた所で、この子達も昨日からそこで一緒です」

本当っぽい嘘をつらつらと言っている。いや、正直秋音自身もあの煉瓦の家の場所を知らないのだから、強ち間違いではないのかもしれない。

「、、、はい、分かりました。では、これを。この通行証が無いと、宿を借りたりこの街から出たり出来なくなりますので、お気を付けて下さい。」

そう言って門番が渡してきたのは、先程書き記していた三枚の木の板で、見た事の無い文字が綴られていた。

だが、読もうとすると意味が分かる。いや、浮かんでくる、と言った方が近い。

書いてあるのは、それぞれの名前と年齢、何処から来たか、身元がはっきりしているかで、最後はメイカ以外✕がついていた。

「それでは、トトロボへようこそ」

三人が受け取ったのを確認して、門番が前へ進むよう促した。

「「「ありがとうございました」」」

三人とも揃って礼を言う。と、門番は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑ってひらひらと手を降った。

門を潜ると、すぐに喧騒に包まれる。

トトロボと言うらしいこの街は、沢山の人が通りを行き交う活気に溢れた所で、そこここにある店には、野菜、果物、肉、調味料などの食品に、衣服や武器、よく分からない機械、食器、、、などなど色々な物が売っている。

だが、見た事の無い物が沢山ある中で、秋音が一番驚いたのは、商品ではなく人々だった。

右には金髪蒼眼で尖った耳の男性、左には西洋人が着ているような華美なドレスを着た女性、走り回っている子供には尻尾と耳が生えている。

明らかに秋音のいた京都とは違う光景に、思わず固まってしまう。

「いつ見ても賑やかだね、この街!」

「ねー!みんなたのちそう!」

固まる秋音と違い、二人は至って普通に街に馴染んでいる。

それを見て、秋音は気が付いた。

もう、ここはあの家と同じ世界じゃ無いんだ。

ここはこういう人が暮らす所で、散々だったあの場所とは、もう違う世界なんだ。

「異世界転生」なんて概念がない江戸時代から来た秋音は、この場所を夢か何かだと思っており、ここは生まれた世界とは根本から違う場所なのだと今の今まで理解していなかった。

普通なら、「家に帰れないのか、、、?」と絶望する人が多いだろう。

だが、秋音は大半の人とは違う生活を送ってきた。

それこそ、多重人格になってしまうような。

でも、その場所はここには無い。そう、もうここは全く違う場所なのだ。

「、、、そっか。ここは、、、、!」

ぼそり、と秋音は呟いた。

「ん?どうしたの、シュウ?」

「だいじょうぶぅ?」

二人が気付いて秋音を見る。

「、、、、った」

「「え?」」

「やったぁぁああぁあっ!!!!!!!」

これで、もう苦しむ事はない。むしろ、自由気ままに生きられる。それを許してくれる。

ずっと、ずっと望んでいた事が出来るのだと分かり、秋音は思わず叫んだ。

周りが何だとこちらを見る。二人もびっくりしている。でも、怒られることは無い。

歓喜に震えた秋音は、ぽろぽろと雫を零しつつ、しばらく跳び跳ねていた。


「これかって!おねがい、かっておねえちゃ!!!」

キキラがメイカの鞘付きベルトにしがみついて駄々を捏ねている。

店頭に並んでいる、「お貴族様御用達、品質最高級」が売り文句らしいチーズに目を奪われたらしい。

「駄目ったら駄目!このチーズは高級なのぉっ!」

メイカも負けじとキキラを引き離そうとしながら説得している。

「まぁ、確かにこっちのチーズは高いが、その分味は保証するぜ?なんてったってお貴族様が食べるような代物だからな!」

店主の小太りのおっちゃんがキキラの味方についた。なかなかに頼もしい。

「ですが、あたしはお金を抑えたいんですっ!」

「でもおいちいっ!」

必死の攻防が続く。

「へー、これがちーずなんやな。白牛酪に似とるが」

秋音は我関せずを貫こうと初めて見るチーズをしげしげと見ていたが、流石にこれ以上は迷惑になる、と間に入った。

「はぁ、、、。なら、高い方を贅沢用に少し買って、普段使う用はちょこっと安めのを買うとかすれば良いんじゃない?」

「うー、、、。じゃあそれでいいよ、もう。」

「え!やたー!!」

渋々メイカが受け入れ、キキラは喜びの舞を披露している。

かれこれ一刻、同じ流れを繰り返して色々な店を回っている。

更に、毎回店主や行き交う人がどちらかに加勢するものだから、秋音が言うまで決して終わらない。

はぁ、、、と溜息を吐きながら、秋音が他に買う物を探していると、ある店が目に入った。

地味な木製の扉と看板しか無い店で、『色々な本取り揃えてます』と書かれている。

何となく気になって、秋音は中へ入っていった。

先程この作品の閲覧数やブクマなどが見れることを知ったので、見てみたら、思ってたよりも沢山の方が見てくださってて、感動しました、、、!

こんなガキで初心者で知名度0の私の作品を読んでいただいて,ほんっとうにありがとうございます!!

これからも見ていただけると嬉しすぎて狂喜乱舞します!


見てくださった方、ありがとうございます

次回、「秋音とリッカドス」です

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